第59話 食料調達
「・・・ふう。こんなところだな。」
自身の修行を終え、ジンは休息を取っていた。最初に言った通り、ジンは限界を見極めて修行を行っていた。
「・・・本当にやったな。」
「あんなデカい滝で滝行なんて、正気とは思えない。」
上位弟子達は、そんなジンの修行にドン引きしていたが。
「ジン、お疲れ様。」
「フィア、ありがとう。」
休憩しているジンに、フィアは水を渡す。受け取ったジンは、礼を言うと、それを飲む。
「休憩が済んだら、次の修行に入るか。」
「・・・なあ、ジン。そろそろ昼だ。飯にしないか?」
弟子の一人が、昼食を摂らないかとかジンに言う。
「そうですね。なら、俺の休憩が終わったら、昼食にしましょう。」
「え?何で?休憩しながら飯を食えばいいだろう?」
「食料なんてありませんよ。持ってきていませんから。」
「・・・は?」
ジンのとんでもない言葉に、弟子は耳を疑った。
「・・・お前、用意は全部自分がするから、俺達には何も用意するなって言ってただろ?なのに、食料はない?あんなに荷物を持ってきたのに?」
「はい。あれは、修行で使うためのものです。あとは、着替えとテントに寝袋と傷薬くらいで、食料の類はありません。・・・ああ、プロテス草がありました。俺の休憩が待てないなら、それでも・・・。」
「あんな苦いもの食えるか!」
プロテス草しかないと言うジンに、弟子は激怒する。野外活動において、食料は重要である。それを用意していないなど、常識知らずもいいものだった。
「なら、俺が休憩するまで待っていてください。休憩が終わったら、獲りに行きましょう。」
「・・・獲りに行くって・・・まさか・・・!」
「はい。この修行中、食料は全部、現地調達です。」
「嘘だろ!?」
弟子は、ジンの宣言に愕然とする。食料を完全に現地調達するとは想定していなかったのだ。
「何で、現地調達なんだ!?師匠から、修行に使うためにかなり予算を出してもらったはずだ!食料を買う余裕はあったはずだろう!?」
「これも、修行の一環です。こういった生活全てを修行に使うのが、【超人法】です。」
「・・・マジかよ。」
「大丈夫です。この森には、食料になるものがたくさんありますから、食料には困りません。食べられる山菜やキノコ、そして、魔物です。特に、魔物が一番の狙い目です。魔物の肉は、栄養価が普通の動物より高いですから。」
「・・・なるほど。目的は魔物を狩ることによる訓練か。」
ケンドは、ジンの目的を察した。ハート流の門下生達は、対人戦闘に関しては経験豊富だったが、魔物との戦闘経験は少なかった。魔物は危険だからこそ、ある程度の実力がなければ戦ってはならないことになっていた。それは、上位弟子達も同じであった。
一応、上位弟子の実力ならば、準中級以下の魔物なら問題はないのだが、万が一、中級以上の魔物と遭遇すれば危険ということもあるため、彼らは魔物と戦った経験はほとんどなかった。
「はい。魔物の方が、人間より厄介ですから、経験を積むのに最適なんです。経験も積めて、腹も満たせるなんて、最高じゃないですか?」
「・・・待ってくれ。俺は、魔物と戦ったことはないぞ?この中で戦ったことがあるのは、ケンドさんとあと二人くらいだ。大丈夫なのか?」
「私も、経験があるとはいえ、ほんの数回ほど、しかも、下級程度の魔物と戦ったくらいだ。・・・正直、強い魔物が現れれば、自信がない。」
上位弟子の一人が、不安そうに呟く。ケンドもそれに同意する。だが、ジンは受け入れるつもりはなかった。
「本気で剣武会に出て勝つ気なら、これくらいやってもらわないといけません。他流派の弟子達がどれくらい強いか分からない以上、徹底的に鍛える以外に手はありません。それに、極端に強い魔物は、しばらく出てこないと思います。この辺りに、グランドドラゴンが現れましたからね。」
「・・・そういえば、グランドドラゴンが現れて、討伐された話は聞いたが・・・。」
「極端に強い魔物が現れれば、しばらく同格の魔物は現れません。だから、安心してください。」
ジンは、知能の低い魔物の習性を説明し、魔物狩りに理解を求めた。もっとも、そうでなくても魔物狩りで食料確保するつもりだったが。
「そもそも、本当なら、先輩方も俺と同じメニューでやってほしいくらいです。なんなら、今からでもそうしますか?」
「!いや、いい!私達は、君の言ったメニューでやる!」
「なら、食料調達は少し待ってください。さすがに俺も休まないと・・・。」
「・・・分かった。」
ジンから、修行内容を自分のやっているものと同じにすると言われ、さすがのケンドもそれを拒否する。結局、ジンの休憩が終わるまで、一時休憩ということになった。
もっとも、少しでもジンに追いつくべく、弟子達やフィアは、ジンの休憩中に素振りをするなどして鍛えることにしたが。
「見つけた。丁度いい魔物だ。」
休憩を終えたジンは、弟子達を伴って魔物狩りを行っていた。森の奥を進むと、ジンの目論見通り、魔物がいた。それは、ジンの故郷でも見かけた猪型の魔物、ダッシュボアだった。
「・・・ダッシュボアか。肉がうまいと評判だ。脅威度も下級だから、手頃だな。」
「じゃあ、狩を始めましょう。まずは、俺から。」
そう言うと、ジンはダッシュボアに向かっていく。ダッシュボアは、ジンに気付くものの、時既に遅く、ダッシュボアの首は刎ねられていた。
「・・・よし。こんな感じで、魔物を狩ってください。」
「よっしゃあ!これなら俺達でも簡単にできるぞ!」
「・・・ジン。まさか、この狩も身体抑制を使うのかい?」
ケンドは、食料調達も修行と言ったジンの言葉から、狩の際に身体抑制を使うのか聞いてきた。
「安心してください。今はまだ、使わなくてもいいです。」
「それはよかった・・・。・・・?今はまだ?」
「それじゃあ、狩を始めましょう。」
「・・・。」
ジンの言葉に、一抹の不安を覚えるも、ケンドは弟子達と共に魔物狩りをするのだった。
しばらくして、ジン達は大量の魔物を狩ることに成功した。下級程度の魔物では、上位弟子達の相手にならなかったのだ。
「ずいぶん獲れましたね。」
「下級くらいなら、私達でも楽勝だ。」
「ケンドさん、これだけあれば、当分の間は食料には困りませんね。」
「そうだな。食べきれない分を保存食にすれば、一週間くらいはもちそうだ。」
「新鮮な肉が保存食でよかったかもしれないですね。市販のは、栄養価重視で味が悪いですから。」
「じゃあ、早く解体しましょう。」
無事に食料を確保できたことで余裕ができた弟子達は、早速、魔物の解体を行おうとする。
「先輩。肉もそうですが、他にも大事なものがあります。」
「?大事なもの?」
「それは、これです。」
ジンがそう言うと、倒した魔物から心臓を取り出す。
「魔物の心臓です。これが、身体にいいんです。」
「魔物の心臓?そんなものを食べるのか?」
「はい。栄養がたっぷりあるので、身体を強くするのにいいんです。肉よりも効きますよ。」
「・・・それは知らなかった。勉強になるな。」
「まあ、プロテス草くらい苦いですが。」
「・・・え?」
「では、皆さん。魔物を解体しましょう。そして、獲った魔物を心臓をそれぞれ・・・。」
「・・・いや、心臓は君にあげよう。私達は、肉だけでいい。」
「え?・・・ですが・・・。」
「食事くらい、安心したものが食べたいんだ。」
「・・・分かりました。」
ジンは、納得がいかなそうな顔をするも、渋々それを受け入れるのだった。
あの時出てきたグランドドラゴンは、無事、討伐されました。クレス王国の戦士や剣士は、決して弱くありません。




