第46話 ジンの好意とフィディアルの好奇
(帝国唯一の英雄。まさか、彼女とこんなところで出会えるなんて思わなかった。これも、俺が予定より早く王都に来たからだろうな。)
未来の英雄との邂逅に、ジンは内心喜びを覚えていた。だが、同時に彼女の未来を思うと、手放しに喜べなかった。
(あんなに苦労して将軍になることができたのに、あんな最期だなんて・・・。確かに、兵士達を逃がすために身を挺して戦ったのは立派だ。それは否定しない。・・・でも、そうなったのは、他の将軍達が足の引っ張り合いをしたせいだ。あんな一大事にまで手柄のことばかり考えるなんて・・・。あそこまで俗な人間だとは思わなかった。ちゃんと彼女と協力していれば、勝てなくてももっと被害を抑えられたはずだ。事実、クレス王国や他の有力な国も、被害は大きかったが、自国の戦力を完全に喪失はしなかった。そうなったのは、一部の小国を除けば、帝国だけだった。・・・せめて、彼女だけでも生きてくれていればな・・・。)
逆行前の悔しさを思い出し、ジンの表情は曇る。魔王討伐の部隊を各国が編成した際も、帝国はこの戦いのせいで戦力になりえる人間がおらず、唯一派遣することができなかった。滅ぼされた国ならいざ知らず、まだ残っている国で派遣できなかったことは大きく、戦後、近隣諸国に領土を割譲されたり、旧領土だった国の独立を認めさせられたりと、弱体化する要因となってしまったのだ。
こうして編成された討伐隊は、魔王の許に辿り着くまでにかなりの犠牲者が出ることとなった。敵の強さももちろんだが、大陸一の軍事力を誇っていた帝国の力を得られなかったことは大きかったのだ。討伐隊に犠牲者が出るたびに、ジンは帝国の将軍がいてくれれば、もう少し被害を抑えられたのではと常々思ってしまっていた。もっとも、魔王と対峙した時に、その認識は若干間違っていたと思い知らされることとなったが。
(魔王の強さは次元が違っていた。仮に、彼女がいたとしても、結果は変わらなかったかもしれない。でも、それでもそう思わずにはいられなかった。もし、将軍が数人・・・或いは彼女がいれば・・・。)
「!君、大丈夫か?どこか、調子が悪いのか?」
そんなジンを見たフィディアルは、ジンが体調を崩したと思い、慌てて調子を尋ねる。
「!大丈夫です。・・・別に、何ともないです。」
「・・・そうか。・・・それならよかった。」
「・・・。」
(・・・今は、そんなことを考えても仕方がないことだ。もう終わってしまったことをああだこうだ考えても無意味だ。寧ろ、今はそんな未来に至らないようにすることを考えるべきだ。こんな所で彼女と出会えるなんて、いい機会だ。これをきっかけに、未来の流れを変えられるかもしれない。逆行前の彼女は、帝国の過剰な競争社会に危機感を募らせ、改善すべく動いていた。魔族の侵攻のせいで頓挫してしまったが・・・もっと早く槍将軍になれれば・・・!)
ジンは、頭を切り替えると、目の前にいるフィディアルを見る。彼女は、本当にジンのことを心配している様子だった。その姿が、逆行前に自分と話をしていた彼女の姿と重なる。彼女の顔には、醜い傷があったものの、その表情自体は穏やかで、優しさを感じた。だが、それがさらに、彼女の痛々しさを際立たせていた。
(このままだと、彼女は強大な魔物と遭遇し、十年以上も時間を無駄にすることになった。このタイミングで出会えたのなら、それを防げるかもしれない。そうすれば、彼女はもっと早くに大成し、槍将軍になれるはずだ。・・・だが、問題は彼女がいつどこで魔物と遭遇したのか俺は知らないということだ。帝国の調査をしている際、彼女がそんな目に遭ったというのを情報の一つとして知っただけで、具体的なことは調べなかった。・・・こんなことになるんだったら、もっと彼女のことをしっかり調べておくべきだった。)
悲惨な彼女の姿を思い出したジンは、そんな姿になる未来を回避したいと願うも、そこまで彼女の過去を調べていなかったことを思い出し、後悔した。調査の目的は、帝国の内情を知ることであり、将軍達のことは、あくまでついでに過ぎなかったのだから。
(どうすれば、彼女を救えるだろうか?魔物が来ることを話すか?いや、信じてくれるはずがない。確かにここには強い魔物も出没する可能性はあるが、彼女が遭遇したのは旅団級、この国では準上級の魔物だ。あのドレクでさえ勝てない強さだ。そんな魔物、ここでも滅多に出てこない。なら、行動を共にできる状況を作るか?でも、どうやって行動を共にする?一緒に修行しようとでも言うか?・・・駄目だ。俺と彼女は、初対面なんだ。素性の知れない人間が、いきなりそんなことを言っても、了承するはずがない。どうしたものか・・・?)
彼女を救う方法を考えるジン。そんなジンをフィディアルも見て考えていた。
(この少年、見たところ、私と歳はそう変わらなさそうだ。なのに、こんな魔物がいる所で修行するとは・・・。かなりの実力者と見て間違いないだろう。しかし、いったい何者なんだ?クレス王国の貴族か?いや、それはないな。貴族なら、供も付けないで来るなんてあり得ない。私のような事情があるならそうかもしれないが、彼は貴族特有の雰囲気がない。つまり平民である可能背が高い。どこかの門下生だろうか?)
彼女は、ジンに興味を持ち始めていた。普通の人間が来ないようなこんな場所で、自分と同い年の子供が一人で修行しているのだ。気になるのも当然である。そんな彼女の心中を知らないジンは、どうやって彼女と接点を持てるか考えていた。
そうやって考え込んでいるジンに、フィディアルは意を決して話を切り出した。
「・・・君、一ついいかな?」
「?・・・何ですか?」
「・・・ここまで来たということは、君も実力者なのだろう?なら、私と手合わせをしてくれないか?」
「え?」
意外な申し出に、ジンは驚く。だが、すぐに納得する。彼女の目的は、兄達を見返すこと。なら、強くなるために強い相手と手合わせをするのは当然と言えた。
無論、フィディアルの目的はそれだけではない。こんな所にまで来た少年の正体を単純に知りたくなったのだ。そのために、手合わせをしてどこの人間か知ろうと思ったのだ。
「そこまで時間は取らせない。一度だけでいい。頼めないか?」
「・・・。」
(・・・彼女の方から提案してくれるとは思わなかった。これは好都合だ。ここから彼女と繋がりを作って、親しくなろう。)
「分かりました。手合わせしましょう。」
ジンは、快く手合わせを了承する。それを聞いたフィディアルは、嬉しそうにほほ笑んだ。
「感謝する。私の名は、フィディアル。フィアと呼んでくれ。」
「俺はジンです。よろしくお願いします。」
「そんな固い言い回しはしなくていい。普段通りの話し方で構わない。」
「・・・分かった。それじゃあ、よろしく頼む、フィア。」
「こちらこそよろしく。」
二人は握手をする。ジンは、彼女を最短で英雄にするため。フィディアルは、ジンの正体を知るため。互いに思惑はあるものの、そこに悪意はなく、善意と好意と好奇心、そして、希望に溢れたそんな握手だった。この出会いが、ジンの想像以上に大きな意味を持つことを、ジンはまだ知らなかった。
別にジンは、恋愛的な好意は抱いていません。親切からの好意です。




