表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/64

第38話 新天地での修行1

 翌日、ジンは訓練場の掃除を行っていた。現在の時刻は六時五分前どころか、一時間前の五時。ジンは、誰よりも早く訓練場に来て、掃除をしていたのだ。

 ハート流の道場は、三つ存在する。一つは昨日、ジンの紹介に使われた実戦用の訓練場、一つは上位弟子用の訓練場で、ジンが今掃除している場所、そして、中位弟子以下の門下生用の訓練場である。実戦用の訓練場は、皆伝や弟子の昇格試験に使用される場所で、基本的には使われることはない場所である。そのため、他の二つの訓練場が修行に使われているのだ。そして、使用の前と後に掃除をすることが決められていた。


 (・・・訓練場の掃除は、新入りの役目だ。いくら実力を示したといっても、それは守らないと。こうして先に掃除しておけば、六時になればすぐに修行ができる。それに、こういった日常的な作業も修行になる。一石二鳥だ。)


 ハート流は、訓練場の掃除は、入門一年未満の門下生が行うことが決められていた。自分達用の訓練場だけでなく、上位弟子の訓練場もである。彼らは掃除のグループを作り、それぞれの訓練場を交代で掃除していた。もっとも、大半の弟子は掃除を面倒に思っていて、ダラダラとやってるせいで終わるのにかなり時間がかかっていた。このため、使用前の掃除が長引いて、六時きっかりに修行できないことも多々あった。レオンは、自分のペースでやればいいと言って、そこまで気にしていなかったが、こういった些細なことの積み重ねのせいで、ハート流が他の道場より劣ってしまったのではないかと逆行後のジンは考えていた。

 だからこそ、ジンは、六時前に掃除を終わらせるべく、自分一人で掃除していた。他の人間と一緒にやっても、ダラダラとやって間に合わないと考えたからだった。


 (ハート流を強くするためにも、こういった些細なことから直していかないと。・・・それにしても、逆行前を思い出すな。)


 逆行前のジンは、毎朝この時間に起きて、訓練場の掃除をしていた。中位弟子になってからも、これを欠かさず続けていた。それは、修行の時間を少しでも多く得るためだった。訓練場が掃除されていれば、すぐに修行が行える。だから、ジンは自分から進んで掃除を行っていたのだ。もっとも、その熱意に反して、逆行前のジンは、大して強くはなれなかったが。

 だが今は、【超人法】のおかげで、こうした些細な日常の作業すら、修行になりえるとジンは理解していた。なら、やらない理由などなかった。

 慣れた手つきで訓練場の壁や窓を拭き、床に雑巾がけをするジン。心なしか、どこか楽しそうに見えた。

 三十分後、ジンは訓練場の掃除を終えた。床も壁もピカピカになり、誰が見ても掃除が行き届いていることが見て取れた。

 綺麗になった道場を見て満足するジン。そんな時、下位弟子達がやって来た。訓練場の掃除のために来たのである。


 「おはようございます。」

 「あ、ジン。・・・おはよう。」

 「もう来ていたのか?まだ、修行の開始時間じゃないはずだぞ?」

 「掃除していたんです。もう終わりました。」

 「え?」


 ジンの掃除が終わった発言に、下位弟子達は驚く。周囲を見渡すと、ジンの言った通り、掃除が終わっていたのを理解した。しかも、自分達がやった時より綺麗に仕上がっていた。


 「・・・本当に終わってる。しかも、凄く綺麗だ。」

 「・・・でも、どうして、ジンが掃除を?上位弟子になるって聞いてたのに・・・?」


 上位弟子は、基本、訓練場の掃除はしない。したとしても、年末の大掃除くらいであり、訓練場の掃除は、下位弟子の中でも新入りの役目なのである。だから、上位弟子になったはずのジンが、掃除を行っていたことが信じられなかったのだ。


 「俺が一番新入りだからです。」

 「いや・・・。それはそうだけど・・・。」


 ジンの当たり前の言葉に、下位弟子達は困惑する。ジンの言っていることは、この道場の常識である。だが、それでも普通は上位弟子が掃除をするなんてことがないため、ジンの言葉や行動が信じられなかった。


 「それに、これもいい修行になるので。」

 「修行?掃除が?」


 下位弟子達は、ジンの言葉に更に困惑する。掃除など、日常生活の一つに過ぎないことで、とても修行と関係なさそうに思えたからだ。


 「何度も往復して床を雑巾がけしたりすれば、体力作りになりますし、高い所に背を伸ばして掃除すれば、身体に負荷がかかっているから自然と鍛えることができます。どれをとってもいい鍛錬になるんです。」

 「・・・本当に?」

 「はい。・・・ただし、ちょっとしたコツが必要ですが。」

 「コツ?コツってなんだ?」

 「それは・・・今日、師匠から伝えられると思います。」

 「???」


 ジンの言葉に、下位弟子達は何が何だかよく分からないという顔をするのだった。




 「おはようございます、先輩。」


 六時五分前、上位弟子達が訓練場に来た。彼らは、既に来ていたジンに驚いた。


 「・・・まさか、もう来ていたとは思わなかった。部屋にいなかったから、どこに行ったのかと探してもらっているところだったんだ。・・・本当なら、私も一緒に探さなければいけなかったんだが、立場上できなかったんだ。」

 「すみません。すぐに訓練場に行ったもので・・・。」

 「いや、直接行っていたのならそれでいい。寧ろ、向上心があっていいことだ。・・・しかし、掃除をしているはずの下位弟子達の姿が見えないが?いつもはまだ掃除をしているはずなのに?・・・まさか、もう終わったのか?いや、そんなはずは・・・。」

 「・・・ケンドさん。終わっているみたいです。どこもピカピカです。」


 上位弟子の一人が、訓練場が掃除されていたことに気付いた。それを聞いたケンドは、驚愕する。


 「そんな馬鹿な!彼らは、いつも六時を五分か十分は過ぎて終わらせているんだぞ!・・・いや、そもそも、綺麗すぎないか?ここまで綺麗に掃除したのは見たことがない。」

 「掃除は俺がやっておきました。」

 「え?君が?」


 ジンが掃除をしていたことに、ケンドはおろか、上位弟子達は驚く。


 「・・・何故、君が掃除を?」

 「掃除は新入りの仕事だからです。さすがに、中位弟子以下の訓練場まで手は回りませんでしたが。」

 「・・・それは・・・そうだが・・・。」


 ケンドは、ジンの言葉にどこか複雑そうな面持ちだった。

 上位弟子は、普通の弟子とは違い、純粋に修行に労力を注ぐものであるとケンドは思っていた。これは、ケンドだけでなく、上位弟子全員の共通認識だった。そんな彼らにとって、掃除に労力を注ぐというのは、どこか非効率に思えたのだ。


 「・・・ジン。掃除は下位弟子達に任せた方がいい。私達は、修行に集中すべきだ。上位弟子は、ハート流の重要な仕事を任されることもある。そのためにも、実力を少しでも上げることを考えた方がいい。」


 ケンドは、ジンに今後は掃除は下位弟子に任せるよう言う。だが、ジンからは意外なことを言われ、更に驚愕するのだった。


 「いいえ。今後は下位弟子だけではなく、道場の門下生が全員で掃除などをしていくべきです。」

 「!?」

 「今日、師匠から話があります。理由はその時分かります。」

 「・・・。」


 ジンが何故、こんなことを言うのか、この時点のケンドや上位弟子達は分からなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ