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第30話 報酬と貸し

 「ここです。ここが私の商会です。」


 王都に入ってからしばらくして、馬車は商業区にあるそれなりに大きい木造の建物の前に到着する。建物の上部には、【ワンダース商会】と書かれた看板があった。ジンは、ここがワンダース商会であると理解する。


 (・・・これが、当時のワンダース商会か。俺が知ってるのは、工事中の姿と出来上がった後の姿だったな。まるで、王都にもう一つ城ができたくらいデカくて立派な建物だった。まあ、この頃はまだそこまで大きな商会じゃないからこれが当然か。)


 馬車から降りたジンは、自身の記憶にあるワンダース商会との違いを感じる。彼の知っているワンダース商会の建物は、商業区の中で一番大きい、いや、商業区の大半を占拠するほど巨大で立派だった。人々はそれを【もう一つの王城】と呼んでいた。それだけワンダース商会の力が絶大であったことを示すものだった。


 「剣聖様、ジンさん、どうもありがとうございました。おかげで娘共々、無事に帰ることができました。」

 「ありがとうございました。」


 アレンとアリアは改めて、レオンとジンに礼をする。


 「いいえ、私とジンは当然のことをしたまでです。あの時もそう言いましたが、礼には及びません。」

 「ですが、私達は本当に感謝しています。これは、護衛の報酬です。お受け取りください。」


 アレンはレオンに報酬の入った革袋を手渡す。その重さに、レオンは怪訝な顔をする。


 「・・・少々重いような気がしますが・・・幾ら入っているんですか?」

 「五千マーネ入っています。」

 「五千?・・・隊長殿、護衛の相場は幾らですか?」

 「そうですね・・・通常は千マーネです。多少変動しても、千五百が最大かと。」

 「・・・そうなると、私とジンで合わせたとしても二千マーネが相場のはずです。多くても三千が普通です。これはもらい過ぎです。」


 相場の倍以上の報酬に、レオンは困惑する。


 「そんなことはありません。私と娘の命を救ってくださったのですから、その分上乗せするのは当然です。」

 「ですが・・・。」

 「・・・。」


 受け取りを渋るレオンと受け取ってほしいと迫るアレン。それを見ていたジンは、いい方法を思い付く。


 「なら、お金は相場の金額にして、それ以外は貸しということにしませんか?」

 「貸し・・・ですか?」

 「はい。俺や師匠に困ったことがあれば、助けてくれるということでどうですか?」

 「・・・助ける・・・ですか?・・・ですが、私にそんな力はありませんよ?ただの一商会の代表にすぎません。そんな私に貸しを作っても・・・。」

 「そんなことはありません。商人は商人にしかできないことがあります。それを俺や師匠のために使ってくれればいいんです。」

 「・・・商人にしかできないこと。・・・分かりました。では、残りは貸しという形にしましょう。それで剣聖様も構いませんね?」

 「私もそれで問題ありません。」


 アレンはジンの提案に困惑するものの、ジンの説得もあり、結局はその提案を受けることにした。

 一方、レオンの方は、ジンのこの提案に感心していた。


 (なるほど。これなら双方の顔を立てることができる。うまい手を考えたものだ。・・・本当に子供とは思えないな。)


 レオンがジンの提案に感心する中、ジンは今後のことをまた考えていた。ジンは別に、この提案を単に二人の顔を立てるだけのものとは考えていなかった。


 (未来の大物と接点が持てたのは大きい。この繋がりは役に立つはずだ。逆行前、商人と繋がりのある英雄は、そのサポートでのし上がった。俺もそれを利用させてもらおう。)


 ジンはジンで、将来に役立てるためにこの提案をしたのだ。今はまだ、ワンダース商会は大きくないが、逆行前の発展した商会を知るジンは、将来的には大きくなると考えていた。そうすれば、心強い味方になってくれると考え、今のうちに味方にしようとこんな提案をしたのだ。


 (でも、あの発展は、アレン自身の商才もあるが、娘の仇を討つという切っ掛けによるものも大きかった。そうなると、何か別の切っ掛けが必要だ。・・・そうだ!遺跡!あの遺跡の宝!あれを使えば・・・!)


 ジンは、ワンダース商会をどうやって発展させるか考える。その時、彼は遺跡の宝を手に入れる計画を思い出し、その計画にワンダース商会を引き入れることを思い付く。遺跡にある金銀財宝は、かなりの値打ちがある。それをワンダース商会に渡せば、それを元手に商会は発展すると考えたのだ。これなら、逆行前と同等、うまくいけば、それ以上の商会になるのではとジンは思うのだった。


 (・・・だが、油断は禁物だ。念のため、それ以外にも儲け話になりそうなものを考えておいて、アレンにそれとなく教えよう。)


 万が一のことも想定し、ジンは他にもワンダース商会が儲けられることを考えるのだった。


 「では、私達はそろそろ失礼します。何かありましたら、私の道場に連絡を。」


 しばらくして、レオンはジンを伴って帰ることにした。アレンとアリアは、名残惜しそうな様子でそれを見送る。


 「剣聖様も、私の力が必要になられた時は、是非、商会に来てください。それと、ジンさん。もし、時間がありましたら、娘に会いに来てください。」

 「分かりました。時間があれば来ます。」

 「ジンさん、またお会いしましょうね。」

 「はい。それでは。」


 こうしてジンとレオンは、ワンダース商会を後にするのだった。

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