第20話 傲慢な魔狼の最期
若干グロいところがあります。ご容赦ください。
「今のお前に恨みはないが・・・放置すればお前は俺から何もかも奪う!今ここで、きっちり始末してやる!」
レッサーフェンリルの攻撃を弾いたジンは、ベオンから降りるとそのままレッサーフェンリルに切りかかる。
『小癪な!』
レッサーフェンリルは、ジンの攻撃をかわそうとする。
(さっきはどうやって防いだかは分からんが、運がよかっただけだろう。こんな小僧の攻撃など・・・!)
だが、すぐにレッサーフェンリルは、自身の考えが甘かったことを知る。なんと、ジンの攻撃は、寸分も違わず自分の身体に当たったのだ。鈍い衝撃が、レッサーフェンリルに走る。
『ぐっ!何だと・・・!?』
(あ・・・あり得ない!ただの小僧が当たられるわけ・・・!)
「まだだ!」
ダメージこそなかったものの、あり得ない事態にレッサーフェンリルは完全に混乱し、動きが止まる。間髪入れずにジンは、レッサーフェンリルに攻撃を行う。
次にジンの狙う部位は前足。しかも、関節を狙っての攻撃である。ジンの剣は、レッサーフェンリルの足を捉え、易々と圧し折る。
『ぎゃあ!?』
「次!」
足を折られ、体勢を崩したレッサーフェンリルのもう片方の前足をジンは攻撃する。これも決まり、レッサーフェンリルは前のめりに倒れ込む。
『そ・・・そんな・・・馬鹿な・・・!?』
「・・・俺を子供と思って侮ったな。」
苦痛と屈辱に塗れた表情で、レッサーフェンリルはジンを睨む。同時に、こんな展開はあり得ないという感情も見て取れた。
そんなレッサーフェンリルを、ジンは殺意を込めた視線で睨む。その表情には、心底憎悪が籠っていた。
実は、ジンはここに来る前に、ベオンに戦いの段取りを決めていた。
「俺の武器は、この鈍らだ。これじゃあ当たっても、それほど効かないだろ。」
『うむ。だから、貴様には隙を作ってもらえればそれでいい。』
「でも、あいつはお前より強いんだろう?なら、もっと確実に仕留められるようにした方がいいだろう。」
ベオンなら、武器さえしっかりしていれば倒すことができるとジンは確信していた。だが、相手はそれ以上の強さで、今持っている武器も貧弱。如何に隙を作ってベオンに攻撃させたとしても、確実に倒せるという保証はない。
だからこそ、ジンは勝算を上げるため、作戦を立てることにした。
『それはそうだが・・・その剣ではレッサーフェンリルに満足なダメージを与えることなどできまい。』
「手はある。まず、身体強化をお前と戦った時よりかける。今の俺の限界までな。次に、奴の逃げ道を塞ぐ。」
『逃げ道を?』
「足だ。胴体に比べて、足は脆いはずだ。さらに、狙いは関節だ。そこなら、今の俺でも折れるはずだ。足が動かなければ、奴は何もできなくなる。」
『確かに・・・だが、うまくいくか?』
「だから、俺はただの子供だと奴に思い込ませる。そうやって隙を作って油断させ、足を圧し折る。」
『自分を弱く見せるか・・・。なるほど。それなら効果があるかもしれん。』
「お前の流儀に反するかもしれないが、これが、人間の戦い方だ。まあ見てな。」
ジンはベオンにそう告げると、まだ見ぬ敵に気を引き締めるのだった。
「しかし、ベオンが言うほど強くなかったな、せいぜい、誤差の範囲内か・・・。こんな程度でベオンの縄張りを奪おうなんてな。・・・いや、完全に俺達を舐め切っていたからか。最初から本気でこられていれば、俺達の負けだったかもな。」
ジンは、予想以上に作戦が成功し、身動きの取れなくなったレッサーフェンリルを嘲る。もはやジンは、憎悪も敵意も全く隠さずにレッサーフェンリルを睨んでいた。
『き・・・貴様・・・卑怯だぞ!』
「卑怯で結構!これは、試合でも決闘でもない!ルール無用の殺し合いだ!ベオン!」
自分の力を隠していたジンを非難するレッサーフェンリルを一蹴すると、ジンはベオンに合図を送る。ベオンは、倒れたレッサーフェンリルの喉元に喰らい付く。足を折られたレッサーフェンリルは、逃れることもできず、喉を噛み付かれる。
『ぎゃああああ!?』
激痛に叫ぶレッサーフェンリル。だが、そんなことで噛み付く力を緩めるベオンではない。更に顎に力を入れる。
『や・・・やめろ!』
「・・・やめるわけないだろう。」
ジンは冷たく言い放つと、レッサーフェンリルの頭を剣で殴り付ける。鈍い音が周囲に響く。レッサーフェンリルは、喉を食い破られる激痛と、頭を強い力で殴られた激痛に、悲鳴を上げ、涙を流す。
『た・・・助け・・・!』
「・・・泣いて許してもらえるとでも思ったか?今までそんな人間を弄んで喰らうことばかりしてきたお前が!」
ジンの脳裏に、逆行前のレッサーフェンリルの暴虐が過る。逃げ惑い、泣き叫ぶ村人を、レッサーフェンリルは他のウルフ種の魔物とは違い、すぐには殺さなかった。まるで、玩具で遊ぶかのように、痛め付け、命乞いをする様を見、さも楽しそうに殺していったのだ。
その光景を思い出したジンは、更に怒りと殺意を爆発させていた。
「虫けらのように見下していた人間とベオンに、虫けらのように潰されて死ね!」
ジンは、レッサーフェンリルの頭をひたすら叩き続ける、その間も、ベオンは喉元を噛み続け、決して放さない。
十回ほど殴打を行った末、レッサーフェンリルは力なく崩れ落ちた。頭部は頭蓋骨が砕け、中身がぐちゃぐちゃになっていた。
「・・・。」
将来、とある集落を襲い、後に討伐されるまで人々が恐れるはずだった傲慢な魔狼。その魔狼の最期は、自身が取るに足らないと見下した人間と同族に討伐されるという無様なものであった。




