第19話 悲劇の元凶現る
「・・・この辺りか?」
『うむ。ここだ。奴の臭いがプンプンする。』
ベオンに乗ってから一時間ほどが経ち、ジンは、目的のレッサーフェンリルの縄張りに到着した。ベオンは不快そうに、敵の臭いを感じ取っていた。
「ベオン。手筈通り、奴を見つけたら、俺が真っ先に仕掛ける。お前は、俺が合図するまで戦わないでくれ。」
『分かった。どの道、私一人では勝てん相手だ。貴様の指示に従おう。』
「それと、奴を倒したら、その死骸の一部をくれないか?」
『死骸?』
「レッサーフェンリルの心臓と・・・牙が欲しい。それ以外は、お前にやる。どうだ?」
『死骸くらい、全て貴様にやろう。』
「そうはいかない。人間は、成果に相応の報酬を渡すものだ。今回は、お前と協力するんだから、お前にも何かしら利益がないと。」
『ふむ・・・なら、肉だけでいい。それ以外は食えんからな。」
「分かった。じゃあ、肉はお前に・・・。・・・!」
ベオンに報酬の話をしたジンは、こちらの向けられた殺気を感じ取り、身構える。
「・・・噂をすれば、だな。」
『うむ。』
すると、ジン達の目の前に、一体のレッサーフェンリルが現れる。そのレッサーフェンリルは、ベオンより一回り程大きく、見た目も強そうに見えた。
同時に、そのレッサーフェンリルを見たジンの脳裏に、忌まわしい記憶が呼び起こされる。自身の村が魔物によって蹂躙され、その中でも一際強い魔物により、両親もマリーも殺された記憶を。
(・・・間違いない・・・あいつだ・・・!あの時、村を襲った魔物を従えていたのは・・・!)
これは、逆行前の記憶。だが、このまま何もしなければ起きるであろう悲劇でもある。
(あいつは絶対にここで殺さなければいけない!・・・だが、今はまだ、動いては駄目だ!あいつはベオンより強いレッサーフェンリルだ。少しでも油断させて、優位に戦えるようにしなければ・・・!)
ジンは、込み上げてくる怒りを押し殺し、レッサーフェンリルを警戒させないよう、ただの人間として振る舞う。
『・・・ほう。人間の臭いがすると思って来てみれば、お前もいたか。』
(・・・こいつも喋れるタイプか。こんなレアな奴が、俺の近くに二体もいたとはな。・・・だが、それも今日までだ。今日からは、ベオンだけになる。)
敵のレッサーフェンリルも喋れることが分かり、ジンは驚く。だが、すぐに一体になるであろうと心の中で呟く。
『これ以上、私の縄張りに手を出すことは許さん!これが最後の警告だ!早々に私の前から消えろ!そして、私の縄張りに二度と現れるな!』
『誰が消えるか。お前の縄張りには、うまそうな人間どもが大勢いる。こんな狩り場、見逃すと思うか?』
ベオンは凄みを利かせ、敵のレッサーフェンリルに警告と同時に脅しをかける。だが、敵のレッサーフェンリルは、嫌らしそうに笑うと、ベオンの警告を拒否する。
『そうか・・・ならば、死んでもらおう!』
『お前如きが俺に勝てるとでも?確かにお前の母は強い。だが、母のいないお前など、恐れるに足らん。』
『ああ、勝てる!だからこそ来たのだ!』
『おいおいおい。どう見ても、お前の強さは前と変わりなさそうだぞ?それでどうやって俺に勝てるというのだ?』
(・・・前と変わらないってことは、ベオンは前にあいつと戦ったことがあったのか。でも、ベオンの言葉とあいつの言葉を見るに、相手にならなかったようだな。)
『もしや、その小僧が助っ人とでも言うのか?ついには気も触れたか?そんな非力な人間に助けを乞うなど、恥晒しめ!フェンリルの誇りを失ったか!』
レッサーフェンリルはジンを見、ただの非力な子供であり、そんな子供に助太刀を頼んだと、ベオンを嘲る。レッサーフェンリルは完全に、ジンを脅威どころか、ベオンが苦し紛れに連れてきた存在だと侮る。
『何とでも言うがいい。今日が貴様の最期の日である事実は変わらん!』
『・・・なら、試してみるか?』
レッサーフェンリルは、意地悪そうな笑みを浮かべたまま、一気にジン達の側まで飛び掛かり、爪を振り下ろす。
(これで、奴の縄張りは俺のものだ!)
レッサーフェンリルは、勝利を確信した。だが、次の瞬間、自身の爪が何かに弾かれた感覚を覚える。
『!?』
「・・・なるほど。ベオンより重いな。・・・だが、そこまで差があるわけじゃないようだな。」
『!?』
レッサーフェンリルは、何故自分の爪が弾かれたのか理解した。なんと、ベオンの上に乗っている少年の手に、剣が握られていたのだ。その剣が、自身の爪を弾いたのだ。
(・・・あり得ない!こんな小僧が・・・俺の一撃を防いだだと・・・!?)
「今のお前に恨みはないが・・・放置すればお前は俺から何もかも奪う!今ここで、きっちり始末してやる!」




