第14話 応援する者される者
「・・・では、打ち込んできなさい。」
「は・・・はい・・・!」
外に出たジンとレオンは、木刀を手に対峙する。ジンは、想定していなかったこともあるが、相手が師匠ということもあり、緊張でガチガチになっていた。
(・・・俺・・・皆伝の試験以外で一度も師匠から一本取ったことがなかった。・・・そんな俺が・・・師匠にいい所を見せられるのか・・・?)
逆行前の苦い記憶。他の誰もが皆伝したというのに、倍は遅れて皆伝を受けたこと。師匠への恩返しをしようと戦いに駆け付けるも間に合わず、師匠を死なせてしまったこと。せめて師匠以上の実力を身に付けることで弔いにしようと考えたが、結局、英雄達の足元にも及ばず、師の名を逆に穢すことになってしまったこと。そんな苦い記憶が、ジンの身体をがんじがらめにしてしまう。
「・・・ジンの奴、ガチガチだな。大丈夫か?」
「あんなに緊張しているジン、初めて見たな。魔物相手にも、全然臆することがないジンが。」
「仕方ないだろう。相手は剣聖なんだ。いくらジンだって、緊張するさ。」
何も知らない大人達は、ジンが単に超格上の相手と対峙しているからだと思っているが。
「う・・・うわああああ!」
ジンは、型も何もない、出鱈目な攻撃を仕掛ける。それは、子供のチャンバラ同然だった。当然、そんな攻撃が決まるはずもなく、レオンに苦も無く止められてしまう。
「そんな焦らなくてもいいんだよ。もっと、落ち着いて打つんだ。」
(・・・どうしよう・・・全然駄目だ・・・!・・・もし・・・いい所見せなかったら・・・入門させてもらえないかもしれない・・・!・・・そうしたら・・・どうしよう・・・?)
ジンの思考がネガティブなものに染まり、レオンの言葉がまったく耳に入ってこなかった。如何に身体が強くなっても、心は簡単に強くはならない。逆行前の八十年余りの記憶は、それほど大きかった。
(・・・俺なんて・・・俺なんて・・・。)
「ジン!頑張って!」
「!」
その時、ジンの耳に聞き覚えのある声が聞こえてくる。ジンが声のした方を向くと、そこにはマリーと村の子供達の姿があった。
「・・・マリー・・・皆・・・!」
「ジン!頑張って!」
「肩の力抜けよ!いつも言ってるだろ!」
「相手を見て打てよ!俺に言ってたこと忘れたのか!?」
「いつものようにやれよ!それが自然にできたら上出来なんだろ!?」
「・・・。」
マリー達の真剣な姿に、ジンの頭は落ち着きを取り戻していく。彼女達は、ジンの勝利を疑っていないのだ。
ジンは、一度たりともそんな風に見られたことがなかった。無名時代からジンは、周りの人間から嘲笑されていた。何の取り柄もない田舎者が英雄になどなれるわけがない。村の大人達からも、両親からもそう言われた。さすがに笑うことまではしなかったが。
唯一応援してくれたのは、マリーだけ。そのマリーが死んで以降、ジンの夢を応援してくれる人間はいなかった。
武勲を挙げようとしていた時期もそうだった。必死に戦っても、誰も守れないことが続き、人々はそんなジンに期待などせず、無能だの妄言者だの罵倒した。
最終的に英雄になれたものの、真実を知られることを恐れて人里離れた地に引き籠り、生涯、たった一人で生きていかなければならなかった。
そんな負け組の人生を歩んできたジンは、自分のことを真剣に信じてくれる彼女達の姿に、衝撃を受けた。
(・・・俺のことを・・・本気で強いって・・・思ってくれているのか・・・?)
「ジン!英雄になるんだよね!?だったらこんな所で負けないで!」
「お前ならなれる!だから勝て!」
「ジン!負けるな!」
「・・・。」
「!?ど・・・どうしたんだい!?」
不意に、ジンの目から涙が零れる。逆行前では蔑まれ、応援されたことなど皆無に等しかった。だが、今の自分には、こんなに本気に応援してくれている人間がいる。たとえ、数が少なく子供であろうとも。それが、ジンは無性に嬉しかった。
(・・・そうだ。俺は、あの時の俺とは違う!・・・口先だけの、ハリボテの英雄なんかじゃない・・・!)
「・・・大丈夫かい?・・・やっぱり、急に無理を言ったからかな?なら、今日はこのくらいで・・・。」
「・・・いいえ、大丈夫です。・・・続けてください。」
ジンは、涙を拭くと、手合わせの続行をお願いする。
「・・・分かった。では、打ち込んできなさい。」
「・・・。」
ジンは、先ほどまでとは一転、身体の震えもなく、木刀を構えるのだった。