第12話 村人達の願い
「・・・。」
ジンが、【超人法】の修行を始めて四年が経った。十二歳になったジンは、もう一人で魔物の縄張りに出入りすることも許されていた。
今、ジンはマナによる肉体強化を行っていた。いつもの森で行っていた時以上のマナが、ジンの中に集まっていく。
(・・・身体にマナが馴染んできているのもあるだろうが、森の奥の方がマナが濃いおかげで、吸収と強化がはかどるな。)
ジンが、森の奥に行きたがったもう一つの理由。それが、この高濃度のマナを取り込むことだった。自然が豊かなら豊かなほど、マナは濃くなる。それを修行に利用したかったのだ。
(魔物の心臓も手に入って、マナもたくさん取り込める。村も、魔物のおかげで儲かる。一石二鳥、いや、三鳥だ。順調だな。)
順調に修行が進んでいることに喜ぶジン。すると、そんなジンの側に、ブラックウルフが忍び寄る。
「・・・。」
ブラッドウルフは、ジンの音もなく襲い掛かる。だが、ジンは気にならない様子でブラックウルフの首を刎ねる。ブラッドウルフは、ジンに触れることもできず、屍と化していた。
(・・・もう、身体強化魔法なしでもブラッドウルフは狩れるようになった。とりあえず、第一目標は達成したかな。)
そう思うジンの側には、他にも首を刎ねられた多数のブラックウルフの死骸が転がっていた。
「あ、ジン。ようやく戻ってきた。」
今日の修行を終えたジンが村に戻ると、マリーがやって来た。
「マリー。どうしたんだ?」
「村長さんが、ジンに話があるって。」
「話?・・・何の話だろう?分かった、行ってくるよ。」
「行ってらっしゃい。」
「・・・ところで、皆の訓練はどんな感じだ?」
今では、ジンは訓練は子供達の自主性に任せ、ほとんどタッチしていなかった。代わりに、一番上達の早いマリーに色々教え、もし何かあった場合は彼女がジンに代わって子供達に教えていた。
「皆、凄く強くなったよ。この間なんて、ストロンさんの見ている前で、グレーウルフを倒せたんだよ。」
「凄いじゃないか。この調子なら、ブラックウルフを倒せる日も近いかもな。」
「そんな・・・まだ早いよ。」
「そんなことはないぞ。マリーのなら、もっと強くなれる。子供達の中で、一番才能があると思うぞ。」
「・・・そんなことないよ。・・・一番は、ジンだと思うし。」
(・・・俺なんかより、マリーの方が断然才能あるんだけどな・・・。)
「・・・ジン、早く行かないと。」
照れたマリーは、話題を変えるかのように、ジンに村長の許に行くよう言う。ジンもそうだなといった感じで、村長の家に向かうのだった。
「村長さん、ジンです。」
「来たか、ジン。」
「・・・?」
村長の家に入ったジンは、驚く。そこには村長だけでなく、ストロンを含めた村の大人達、さらには両親までいたのだ。
「・・・父さんに母さん・・・。・・・それに、村の人達も・・・。・・・何かあったんですか?」
「・・・ジン。実はな、村の皆で相談していたんだ。お前の将来についてだ。」
「・・・将来?」
「お前のその才能、こんな辺鄙な村で燻ぶらせるのはどうかと思ってな。」
「才能って・・・俺は、別に・・・。」
「こんな短期間で、魔物を倒せるようになったのにか?それを、才能と呼ばないで何と言うんだ?謙遜しなくてもいいぞ。」
「・・・。」
自身に才能がないことを自覚しているジンとは対照的に、大人達は真剣な面持ちでジンの力を評価する。
「そこで、皆と考えたんだが、お前を都会の学校に入学させた方がいいんじゃないかということになったんだ。」
「学校?」
逆行前の知識がなくても、ジンは、いや、村の人間達は知っていた。学校は、ある程度裕福な家庭でなければ通えないのだ。入学金から月の授業料、寮の下宿代など、とにかく金がかかる。こんな辺鄙な村の人間が学校に通うなど、無理なのである。
「・・・学校なんて・・・村にそんな余裕は・・・。」
「お金の心配はいらないわ。あなたが稼いできたお金を使えばいいから。」
「え?あれは、村のために・・・。」
「お前が学校に通って立派になって、村に帰ってくれば、村の将来のためになる。それに、元々あれは、お前が稼いだものだ。なのに、受け取るのは食うに堪えない魔物の心臓だけ。釣り合っていないだろう。」
「・・・別に、そこまでしてくれなくても。それに、外に出るなら十五歳になってからでも・・・。」
「鉄は熱いうちに打て、だ。お前を通わせたいのは、ただの学校ではない。王都にある全寮制の学校【王立クレス学園】だ。」
「!?」
その名前は、ジンにも聞き覚えがあった。【王立クレス学園】。ジンの住む国、クレス王国の王都にある学校で、建国王クレスの名から取られている。王国中から優秀な子供達を集め、学び競わせる、超が付くほどの名門校である。
だが、実態は、貴族や金持ちの子供が大勢通う学校であり、普通の子供は、かなりの才覚がなければ無理というものだったが。しかも、差別がひどく、成績も金さえ積めばいくらでも誤魔化しが利くのだ。つまり、名門とは名ばかりの、腐敗した場所なのだ。
逆行前の記憶があるジンは、それを聞いて、一瞬顔を顰めるも、すぐに普段の表情に変える。
「・・・どうして・・・そんな名門に俺を・・・?」
「あそこなら、お前の才能をさらに引き出してくれるはずだ。優れた才能を持つ子供達と切磋琢磨することで、もっと大きくなってほしい。それが、私の、いや、母さんや村の大人達の総意だ。」
「遠慮することはない。お前のおかげで、十分すぎるほど蓄えができたのだ。それの一部を使うだけ。気にすることはないぞ。」
「・・・父さん・・・村長さん・・・。」
大人達の気持ちは、十分に理解できた。だが、学園の実態を知っているジンにとって、あそこに通うメリットは感じられなかった。
(あの学校の出身とかいう連中を何人も知ってるが、どいつもこいつもあの時代、役に立たなかった。口ばかり達者で、何もできやしない。そのくせ、英雄達に対する文句だけはうるさかった。最期は全員、自業自得な死に方したっけ。・・・まあ、無能だった俺も人のことは言えないか。)
「・・・すみません。皆の気持ちは嬉しいです。・・・でも、俺には早いと思います。俺は、剣術しか取り柄のない子供ですから・・・。」
「・・・そうか。」
村長は、ジンの言葉に、嬉しそうな顔をする。
(?何だ?全然残念そうな顔をしていない・・・?)
「なら、お前はどんなことをするのなら、村を出たい?」
「え?・・・それは・・・強い戦士や剣士と一緒に修行できれば・・・。」
「そうくると思ったぞ。」
ジンの父が、してやったりといった表情になる。
「?」
「・・・もう、入ってきても構いません。」
「・・・分かりました。」
すると、ジン達のいる部屋の隣の部屋から、一人の男性がやってくる。男性は、腰に立派な剣を差す、剣士風の男だった。
「!?」
その男性に、ジンは覚えがあった。それは、逆行前に自分が弟子入りした剣聖【レオン・ハート】であった。




