幸せな世界
伊織の今いる世界は多様な種族、価値観が入り混じったものだ。
さらに人族や獣人族・エルフ族などの人だけでなく、魔力が豊富で外見も価値観が違う魔族。
こんな世界で『幸せな世界』を築くことは不可能であろうか。
伊織の住んでいた世界でさえ、肌色・言語が違うだけで差別が、戦争が起きてしまった。
ならば異世界でならば尚更不可能ではないのだろうか?
今の時点で戦争が起きているし、お互いに嫌悪を抱いているのだから。
サーシャが求めた『幸せな世界』とは本当に夢物語だ。
誰も恨み妬み合うこともなく、差別もない世界。
種族などを超えて、戦いなどがない幸福な世界なんて存在するはずがない。
でも。
伊織はかなえたいと思った。
本当は魔族も戦いたくない者もいるはすだし、平和でいられるならばそれが一番なのだ。
たとえ綺麗事と知ってても、伊織は手を伸ばすだろう。
やらない善よりもやる偽善。
どれだけ罵られてもやってやろうと思った。
今まで流されてきた自分の中で初めて『自分からやりたいこと』なのだから。
これから始まる魔王までの行程は伊織たちの『幸せな世界』の第一歩。
いや、もしかすると――――――――――
――――――――――――――破滅の始まりかもしれない。