47話 灰色の世界
アキが気付いた時、そこは灰色の世界だった。静かで、寂れて、色が無く、生気がない死んだ世界。黒く萎れた死んだ木が点々と生えているだけ。
離れたところに人影見えた。アキは目を凝らした。あの姿、揺らいで見えるが間違いない。
「リサ!」
アキは近寄ろうと走り出した。しかし、突然現れた影に両腕が囚われる。
「なんだこいつ!離せ!リサ!おいリサ!こっちを見ろ!」
叫び声はとどかない、『月明かり』の姿は蜃気楼のように揺らめいて消えた。
「リサ!なんだ!どうなってるんだ!クソ!離せ!」
答えるものはいなかった。影は静かにアキを引きずって移動する。
抵抗は無意味だった。
「そこでいい」
どれくらい引きずられたのだろう。ここでは時間の感覚すら曖昧だ。声に目をあげると、そこは祭壇だった。まるで地獄の裁判所、閻魔の席に座るのは冥府の女王。
「ヘル…」
「はじめまして、我が兄弟よ」
「俺は…死んだのか?」
今までのロキの子供達は問答無用でアキのことを殺そうとしていた。だが今回は別だ、すでに死んでいるのだから。
「そうよ。貴方は死んだわ。不死身の男に胸を貫かれてね」
「俺はまだやることがある。戻してくれ」
ヘルには唯一、死者を生者に戻す力がある。望みは薄いが、縋るしかなかった。
「ここの来たものは皆同じことを言う。奴隷も、平民も、王も、神や巨人ですら復活を乞う。私の返事はいつも同じ…。
でも、貴方は私の数少ない兄弟、それに上の二人はろくに会話もできないけど、貴方話せる。
だから…願いを聞いてもいいわ」
アキは感じていた。冥府の女王は、ただの優しさで言っているのではない。何かを代償に差し出させようとしているのだ。
「何が望みだ」
「話が早くて助かるわ。貴方には一回だけ私に肉体を貸してもらう。ほんの1秒間ね」
「1秒間?」
「それが条件よ」
都合が良すぎる。アキの体ではたった一秒間では大量に人を殺したり、何かを壊したり盗むことはできない。せいぜい短剣を使って一人か二人だ。この取引には何か裏がある。だが、他に選択肢はない。
「その条件を呑む、生き返らせろ」
女王はにっこりと微笑んだ。その笑い方は、ロキの子供達、兄弟達とそっくりだった。




