27話 統合参謀本部
グラシル王国の王都中枢、国の主な官僚達が集まる統合参謀本部は慌ただしく、来るべき会議のための準備を行っていた。机には資料が山積みだ。副官から常に最新の情報が伝えられている。
「陛下が入室されます」
全員が手を止め起立する。国王は上座の席まで歩いていき、片手を軽く上げて座る。官僚達もそれに習い着席した
「報告を聞きましょう。ホーエンハイム将軍」
王はさっそく、傍に座る屈強な軍服をまとった男に声をかけた。胸にはいくつもの勲章が吊り下げられている。
「はい陛下、先の報告にあった。人間の国を取り囲む『聖なる柵』の一部が、広範囲に破壊されていることを確認しました。さらに、小鬼と鬼を主軸とした軍がその地点に集結しつつあります」
「なんてことだ!」
王は机に拳を叩きつけて叫んだ。長い間巨人から人間の領域を守ってきた『聖なる柵』が破られ、魔物の軍が集まっているのだ。人類全体に危機が迫っている。
「これを受けての各国の反応ですが…帝国は、『停戦条約に従い、人類の共通の敵のために軍を派遣する用意ができている』との声明を出しています」
「ふん!奴らの軍を王国に入れるなど、占領してくれといっているようなものだ」
将軍の報告に、外務大臣が吐き捨てるようにいった。王国と帝国は停戦中とはいえ、国境地帯で毎日のように小競り合いを繰り返している。帝国は王国をのみ込む機会をうかがっているのだ。
「大臣、貴方の意見は参考になりますが、今は黙っていてください。将軍、報告の続きを」
「はっ、続いて都市国家連邦ですが、『既に太陽の兵舎所属の『名前付き』をしかるべき手段で王国に向けて急行させている』とのことです。聖国は『貴国の軍が出発した後の国を守るために、騎士を貸し出す準備ができている』と言ってきております」
王は黙って報告を聞いていたが、内心は外務大臣と同じく、燃えるような怒りが渦巻いていた。どの国も自分のことしか考えていない。『聖なる柵』が破られたのは人類全体の問題だ。奴らは王国が焦土と化した時に、やっと焦り出すのだろう。
「三大派閥の反応は?」
「陛下、それについては私から報告させてもらいます。それと、関連する情報があるため、合わせて報告させてもらいます」
口を開いたのは先ほどの外務大臣だ。怒りで表情が歪んでいるが、職務は忠実にこなす男だ。
「先日、帝国との国境付近で、我が軍の第13独立歩兵中隊が気になる旅隊を発見しました」
第13独立歩兵中隊は、食いはぐれた民を徴兵して編成した部隊だ。野盗崩れとも呼ばれている。中には、実際に旅人を襲う部隊もいるとか。
「旅隊は5名。『魔術詩人』と『月明かり』を確認しております。異なる派閥の『名前付き』が二人おります」
別の派閥が同じ旅隊にいるのは珍しいが、前例がない訳ではない。外務大臣がこの話をするのは、まだ続きがありそうだ。
「問題は、派閥に確認を取ったところ、学院はこの旅隊を全面支援しており、教会の方は『月明かり』を機密漏洩の第一級犯罪者として手配していることです」
統合参謀本部にどよめきが走る。相互不可侵を基本理念としている三大派閥が表立って対立しているのだ。
「このような状況があり、双方とも王国内にある支部に限定しての援助を行うとのことです。残った兵舎の方は既に依頼を出し、有志を募っております」
王は考え込んだ。三大派閥は全ての国家にまたがるため、大きな影響力と戦力を保持している。そのうちの二つが、限定的にしか援助をしないと言ってきているのだ。これは人間の国全体の問題だというのに。
「その旅隊を見つけ出し、必要であれば捕らえろ。学院と教会に対し、切り札になるかもしれん」
「よろしいのですか?下手をすれば学院と全面対立することになるかもしれません」
「今は兵を引き出すことが優先だろう。仮にそうなったとしても、教会が味方につく」
「国内に学院の支部がある状態で交戦するのは危険ではないですかな?」
「先手を打って支部を包囲しましょう。初めから対立することになるなら、早い段階から行動するべきです」
王の言葉に官僚達が議論を始めている。王は直感していた。この事件の行く末はどうなろうと、人間の国における戦争を引き起こすことになると。




