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意外と知らない北欧神話   作者: アイスの棒
恐ろしい三人の子供達
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8話 教会


『立ち上がれ、奴隷たちよ、虐げられし者たちよ

今こそ鎖を解き放ち、自由に向けて歩き出す時だ

怖れよ、圧政を敷き、虐げし者たちよ

そなたらの館は炎で焼かれ、悪事は民衆に晒される

自由を求める声があれば、私はそれを必ず助けよう』


-フロディの平和 フレイルの奴隷解放-



アキは通りを漫然と歩いていた。人通りは多く、活気に満ちている。時刻は昼前、何故一人で歩いているか。それは数時間前に遡る。

昨晩、奴隷を買ったオーディンは宿を取り、そこで三人は休んだ。気づけば朝だった。


「今日はスノリにルーン文字を教える。お前は邪魔だから、どこかにいっていろ。この指輪を貸す。マントと合わせれば誰にも見つからんだろう。夜まで戻ってこなくてよい」


とオーディンに言われたからだ。ルーン文字の勉強や元奴隷の少女、スノリにも興味はあったが、神に言われては黙って出て行くしかなかった。それに姿を隠す道具も貸してくれたし、昨日できなかった街の探索も悪くないと思ったのも事実だ。


「クロボ、昨晩は静かだったな」

「アキ様、まさかオーディン様に出会うことになるとは。申し訳ないことに、オーディン様は私とロキ様のことはあまりよく思っていらっしゃらないと考え、口を噤んでおりました」

「ま、別に大丈夫だよ。しかし、どこに行こうか。何かいい考えはあるか?」


クロボのキーキー声を久しぶりに聞いた気がした。昨日は突然神話の世界に飛ばされて、捕まって、主神に会って、奴隷買うなんて大変な一日だった。ゆっくりしたいものだ。


「そうですね。ここはユトランドで一番大きな街ですから、様々なものがありますよ。あそこに見えるのは、三大派閥ファンクションの一つ、マーニの教会の総本山ですね。あっちには王宮がありますよ」

「また知らん用語が出てきたな…三大派閥ファンクションってなんだ?」

「申し訳ありません。説明いたします。人間の国(ミッドガルド)は現在四つの国に分けられていますが、国を越えて活動する組織、職種の集まりを派閥ファンクションと呼びます。商人などが典型ですね。その中でも国に影響力さえ持つ三つの大きな派閥ファンクションがあります。ここ、ユトランドに総本山があるマーニの教会、北のギムレー帝国に本院があるアスラの学院、西のグラシル王国に本部がある太陽ソラの兵舎です」


よくあるギルドのようなものだな。名前からして何してるところかもわかりそうだ。


「へーその派閥ファンクションは所属してなくて行っていいの?」

「問題ありませんよ、教会であればただの信者の方もよく訪れますし」

「まー暇だし行くか」


クロボの案内で歩みを進める。本来この街には、ロキの啓示、三人の子供たちの居場所の情報を集めるためにきたのだが、オーディンに聞いた方が正確で簡単そうだった。タダでは教えてくれないだろうが、ルーン開発の功績もあるし、自分を未だに手元に置いておく様子を見ると、何かまださせる気があるのだろう。


「イベント待ちだな。スノリがルーンを習得出来るのはほぼ確定的だろう。その後どうなるか…」

「アキ様?もうすぐ着きますよ」


通りを曲がると目の前には巨大な建物が現れた。荘厳にして華麗、広場には美しい水が流れる噴水。いくつもの彫像が立ち並んでいる。ゆっくりと周りを見渡しながら、教会の中に入る。天井は高く、フレスコ画が描かれている。ステンドグラスは陽の光を受けて神秘的に輝き、いくつもの礼拝堂には数え切れない絵画が並んでいる。


「美しいな」


アキは特に芸術について詳しいわけでも、興味があるわけでもなかったが、美しい創作物に目を奪われた。教会は人が大勢とまではいかないものの、まばらに散らばっている。その中に一人、片眼の眼鏡モノクルをかけた女性がこっちを見ている。

そんなはずはない。気のせいだ。アキは冷や汗をかいた。そんなことを思っている間に、女性はゆっくりと近づいてきている。


「ねぇ、君」


見えてないはず、これは他の人に声をかけているに違いない。期待は裏切られるかのように女性はアキの肩に手をかけた。


「こんな美人を無視するなんてひどいな〜。ねぇ、君は昨日脱獄したロキの手先でしょ。見つけ次第捕縛せよって連絡が来てたよ」

「いや、人違いでは?何をいってるのかわかりませんね」


確かに美人だ。すらっと伸びた体。金髪に輝く長髪は、邪魔にならないように後ろで括っている。片眼の眼鏡モノクルも知性と品位を感じさせられる。軽装の甲冑を身につけ、腰には剣を下げている。この女に関わるのは不味い…。アキは強く直感していた。

このまま走って逃げるか?姿は彼女にしか見えてないはず、応援を呼ばれても逃げられるか?アキのそんな思いを読み取ったかのように、眼鏡モノクルの女性はアキの腕を掴み、ぎりぎりと締め上げた。


「君で間違いないはず、一緒に来てくれるでしょう?」

「!わ、わかった。わかったから腕を緩めてくれ!」

「いいわ、ついて来て」


締め上げる力は緩んだが、しっかりとアキの腕は掴まれたままだった。腰でクロボが警告するように震えているのを感じる。

眼鏡モノクルの女性は『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた扉を開け、いくつもの階段を降りた。薄暗い通路だ。窓はなく、松明の明かりが揺らめいている。降りた時間からいって、地下であるのは間違いない。


「この扉を開けて」


明らかに厳重に封印された扉の前に出される。アキは女性を睨みつけたが、気にした様子はなかった。


「このために俺を連れて来たのか?」

「そうよ」

「この扉を開けたら俺は中を見ないし、何があるのか探ろうとしない。このまま戻る。それでいいか?」

「いいわよ、さぁ、開けて」


案外あっさりとした返事、これははっきりいって、かなり不味いことに足を突っ込んでいるようだ。しかしアキには選択肢がない、扉に手をかけると、低い音を立てて、鍵が開いた。


「じゃあ俺は戻る」


アキは振り返ると来た道を歩き出した。眼鏡モノクルの女性は何も言わなかった。急ぎ足でアキは階段を上っていった。


「またきっと会うことになるかもね」


アキは背後で呟くのを聞いた気がしたが、努めて無視することにした。


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