第11話 おちんちん
社長が来たのを見ると
男が立ち上がって
「それじゃあ、
ちょっと
車でついて来てもらえますかね。」
と言った。
「おらあー、
お前も来るんだよ。」
若い組員達が泥田の両脇を抱えて引っ張った。
「ちょっと待って下さい。
服を着ないと外へ出られないですよ。」
泥田が慌てて言った。
「そのままだ。
それが証拠だからな。」
男が言うと
若い組員達に目配せした。
組員達は嫌がる泥田に
罵声を浴びせなから
強引に引っ張って行って、
駐車場に置いてある車に
押し込んだ。
外は陽が落ちて、
昼間の暑さも和らいで、
あたりはすっかり
暗くなっていた。
ホテルの支払いを
代わりに済ませた社長が
あとから泥田の服を持って、
運転して来た自分の車に乗り込んだ。
男は自分の車に女を乗せると
ライトを点灯させて、
ゆっくり発進させた。
三台の車が県道を
西へ向かって行く。
どこへ連れて行かれるのか。
この暗がりに紛れて、
人の来ないような山奥で
なぶり殺しにされるのか。
どんな目に遭わされるのか。
泥田は裸で引き回される
屈辱感と恐怖に怯えていた。
5分ほど走ったろうか、
車は県道の信号を左に曲がって
細い道を入って行く。
右へ大きくカーブした先が
行き止まりになっていて、
広くなっているところで
車が止まった。
男が車を降りて
後続の車がついて来るのを
確認してから
女に声をかけた。
女はかったるそうに
車を降りた。
他の車も入って来て
空いている場所へ車を止めた。
泥田は裸のまま
外へ引っずりだされて
あたりをオドオドと見回した。
その空き地の入口の右側に
家があって、
それが組の事務所になっている。
その空き地の隅に檻があって、
その中で
虎が吠える声が聞こえていた。
そこは馬山市川北町、
米麦会中田組の
組事務所だったのだ。
あとからわかったことだが、
その男は
中田組の組員で本上という者だった。
泥田と社長が本上に促されて
事務所の中へ入って行くと、
本上がソファーに、
どかっと座ると
タバコに火をつけて
上から目線で、
まるで職員室の先生の前で
立たされているような二人を見た。
「どうするかね。
こいつは俺の女と平気であんなことを
してたんだよ。
社長さんも現場を見たんだから
証人だ。
どうです。
ひでえ話しじゃないですか。
これでしらばっくれられちゃあ、
こっちとしても
考えなくちゃならねえんだがね。」
静かな口調だがドスが効いている。
「申し訳ありません。
私は何も知らなかったんです。
許して下さい。
お願いします。」
泥田はすがるように言った。
社長は何をどう言ったらいいのかわからず、
言葉もなく立っている。
「女に手をだされて
許せると思うか。
俺の面子がたたねえよ。
この落としまえを
どうつけるつもりなんだ。
事と次第によっちゃあ、
あの檻に入ってもらうしかねえな。」
本上は事もなげに言った。
泥田はあの檻の中の
虎に食われるのではないかと
恐怖に怯えた。
「おらあー、
どうするんだよ。
責任取れ、
助平野郎。」
「お前は精子くせえんだよ。
年中こんなことやってんだろ。
変態野郎。」
「これだけ兄貴に恥かかせやがって、
申し訳ありませんで済むか。
ばかやろう。
どう落としまえつけるか
考えるんだよ。」
若い組員達が口々に罵って
泥田をますます怯えさせる。
そのうち、
一人の組員が
カッターナイフを取り出して
チャリチャリッと
刃を出したかと思うと、
「この、おちんちんがいけないんだね。
いけないおちんちん、
いけないおちんちん」
と言いながら
カッターナイフの刃の腹で
ペタン、ペタン、ペタンと
泥田のちんこを叩いた。
そのうち
「こんなことしちゃって、
いけないおちんちんだね。
切っちゃおうか。」
言うが早いか、
刃のほうを当てると
そのまま
グーッ
と力を入れて来た。
「あー、
許して下さい。
金払います。
いくらですか。
言って下さい。
金払うから許して下さい。」
悲鳴のような声で言った。
「俺は金を出せとは言ってないぞ。
だが、
そっちが金で責任を取りたいって言うなら、
それで許してやってもいいんだが、
いくら出すんだ。」
本上が無表情で言った。
「五十万出します。」
泥田が言った。
本上の顔がフッと曇った。
「俺もずいぶん舐められたもんだ。
お前にとって、この女は
そんな値打ちしかなかったのか。
ただ弄ぶだけの女だったんだな。
許せねえ。」
本上が不満をあらわにして言った。
「この野郎、
こんな金で済まそうなんて、
完全に舐め切ってるんだな。
ばかやろう。」
「お前は悪いことしたなんて
思っちゃいねえんだ。
これじゃあ、
おちんちん切らしてもらうしかねえぞ。
いいか。
切るぞ。」
口々に若い組員が罵って、
また
カッターナイフの刃を当てた。
「あー、
百万円出します。
百万円で勘弁して下さい。」
半ベソをかきながら泥田は叫んだ。
「百万か。
そっちがそうまで言うのなら
仕方ねえな。
まあ、
俺だって聞き分けのない人間じゃないんだ。
そっちがちゃんと筋を通して
許して欲しいと言うなら、
こっちも許すしかないだろう。」
本上は渋々
許してやると言うように言ってから、
「いつ払うんだ。」
と言った。
泥田はしばらく考えていたが
「明後日くらいには用意出来ると思います。」
と言った。
「そうか、
用意出来たら電話しろ。」
と本上が言って、
泥田はやっと解放された。
そのあと、
泥田は金を何とか工面して、
払うことになってしまった。
最初から狙われていたようだ。
「筒もたせ」
を仕組む側も
百発百中を狙って
下調べをして来る。
まんまと引っ掛かってしまったのだ。
私がタクシーの乗務を始めた頃、
先輩から
「女から誘われて、
ホテルを指定されたら
話しに乗るなよ。」
とよく言われていたことを
思い出していた。