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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第九章
279/333

9

「ありがとう。これで心置き無く魔法ギルドで修行出来る。本当にありがとう、セレバーナ。イヤナ」


「君の助けになったのなら、なによりだ」


「うん。来て良かったね」


サコの礼に笑みを返すセレバーナとイヤナ。


「それでは、落ち着いたら女神の鎧を探してみてくれ。ギルドの入門試験は春だから時間は有るだろう。勿論、入門の準備を優先しても構わないから」


「父のお見舞いに行った時に色々伺ってみるよ。例の問題が落ち着いてからだけどね」


「頼む。そして、改めてパワースポットの位置を知らないイヤナを連れての転移魔法も頼みたい、と思ったが――」


セレバーナは言いながら考え直す。

そして無意味に新雪を踏む。


「あそこの探査は止めておくか。彼と同じ過ちを犯す者が現れるかも知れないから、そのまま埋めておこう」


「放っておいて大丈夫なの?」


イヤナも足踏みする。

雪の感触が面白いのもあるが、寒いので動いていないと爪先が痛くなる。


「サコの父の言葉を信じるのなら、あそこには何かが有る。しかし、彼以外に問題が起こっていないのなら、多分大丈夫だ」


金色の瞳を仲間達に向けるセレバーナ。


「掘り起こすなら、事情を知っていて魔法耐性を持っている者じゃないと危ない。つまり、魔法ギルドを総動員した仕事になる」


「面倒だね。女神の遺産が絶対に有る場所以外にはちょっかい出さないって決めたし、放っておくしかないか」


「うむ。寝た子を起こすなと言う言葉が有る。放っておこう。――恐らく、寝ている子は女神を殺す武器だろう。女神の剣と同じ類の物だな」


「武器?素手だったけど?」


イヤナのおさげが蠢いている。

外は寒いので、そこに隠れている妖精が髪の毛に包まっているんだろう。


「正解に近いが微妙に間違った情報と言うのは、この通り、サコに危害を加える結果となった」


もしも女神の時代にそれが発動していたらどうなっていただろうか。

剣や魔法と言った直接的な攻撃ではないので想像しか出来ないが、多分こうなる。

まず、間違った情報を敵の女神が信用したとする。

正解に近いので、信じさせる事はたやすい。

そうなれば、敵は情報に基づいた行動を取るだろう。

慎重になって行軍を控えたり、慌てて攻勢に出たりするだろう。

だが情報は間違っているので、動いた先で罠に嵌める事が出来る。

間違った情報を敵の女神が信用しなかった場合。

それでも思い通りの罠に誘う事が出来る。

騙されまいと慎重になったら、新たなウソで混乱させたりも出来る。

つまりどう言う事かと言うと、『情報を使って敵を思い通りに動かす事を可能にする技術』が武器だと言う事だ。


「ふーん。良く分かんないけど、そんな武器もあるんだねぇ」


「物質だけが武器ではない。目に見えない武器だからこそ対処が難しい。『辻褄合わせ』で古い女神の痕跡を消す事になったら、そのまま消そう」


「古い女神の痕跡を残す事になったら?」


寒そうに身体を震わせているサコが訊く。

道着姿で屋外に居るんだから当然だ。

感覚を麻痺させていた過度の緊張が解消されたので、人として当たり前の状態に戻った様だ。


「その時は、新しい女神になった人に全て任せるしかないな。女神の力で何とかして貰おう」


セレバーナは、言いながら自分達の足跡を辿って来た道を戻る。

寒いから屋内に入りたい。


「あそこを掘ろうにも、魔法使いが減っている現状では一年仕事になるだろうしな。重機が有れば早く終わるだろうが、そんな物は無い」


「ごめん、じゅうきって何?」


後を付いて来ているサコに顔を向けたセレバーナは、自分の頭を指差した。


「ああ、済まない。異世界の機械の事だ。私とイヤナの頭の中に穂波恵吾の知恵が有るんだよ。女神になると決めて、あのカードを触ったから」


「さっき、イヤナも変な事を言ってたよね。大変そうだね、混乱してるみたいで」


玄関の引き戸を開け、サコの実家の中に入る少女達。

そこも当然寒いが、寒風を凌げるだけで大分違う。


「私はセレバーナと違ってバカだから、ちょっと大変だったね。今は反省して、頭の中の知識を気にしない事にしてる」


イヤナが照れ笑いする。

しかし言動や行動は知識に引っ張られるから、油断していると異世界の言葉が出て来る。

まだまだ修行が足りない。


「ほう、それは初耳だな。――まぁ、それぞれの考えが有っても良いだろう。格闘家父娘のやりとりが、我々が理解しなくても解決した様に」


セレバーナは、背中に垂らしている妙に量が多い黒髪を手で払った。

そして再び魔法の杖に魔力を込める。


「さて、邪魔したな。後はサコと魔法ギルドの調査に任せて次に行くか」


「勇者様の家に行くのかな?勇者様の家には行った事が無いから、前みたいに転移魔法で行ける人にお願いして」


そう言うイヤナに首を横に振るセレバーナ。


「いや、行くのは神学校だ。勇者はそこに居るからな。だから、今日は一旦ホテルに帰ろう」


「どうして?まだお昼になってないのに帰るの?神学校なら転移魔法で行けるんじゃ?」


「いきなり神学校に行ったら、向こうが混乱して余計に時間が掛かる。王城と同じく、呼ばれていない余所者が行くには準備が要るのだ」


「王城にはいきなり行ったけど」


「それは入れるアテが有ったからだ。神学校にも無い訳じゃないが、あまり迷惑を掛けたくない相手なんだ」


「ふぅん。――分かった。じゃ、帰ろうか」


イヤナもホテルに帰る為の転移魔法の準備に入る。

そして転移に必要な魔力を確保したセレバーナとイヤナは、サコに向かって手を振った。


「では、サコ。何か有ったらまた来るだろう。だから、またな」


「またね。元気で」


「また。イヤナとセレバーナも頑張って」


かつての仲間に手を振り返すサコ。

再会はもう無いと分かりつつ、あえて再会を願う彼女達の想いが嬉しい。

だがしかし、こうして会えているから絶対は無い、か。


「お互いにな。では行くぞ」


魔力を解放した二人は上手に転移して行った。

女神修行の傍ら、魔法の修行もキチンと行っているらしい。


「本当に頑張って。毎朝のお祈りの時に、一緒に二人の成功を祈るよ」


残されたサコは、女神に祈る時と同じ姿勢で仲間の無事を祈った。

彼女達は女神を目指しているのだから。

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