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見た目は十歳くらいだが、実際は十五歳の小さな女の子が、高級ホテルの一室で書き物をしていた。
朝からずっと紙の上で万年筆を滑らせていて、飲み物の補充とトイレ以外では手以外を動かす事はなかった。
「……フゥ」
疲れを感じたセレバーナは、万年筆を置いて窓の外を見た。
母譲りの金色の瞳をとても大切にしているので、近視にならない様に定期的に遠くを見る様にしている。
朝は雪が降っていたが、昼になった今は晴れている。
しかし曇が厚く、気温が上がる気配は無い。
ここが暖房完備の高級ホテルで良かった。
妙に量が多い黒髪をツインテールにしても首筋が寒くない。
もしも最果ての遺跡で冬を迎えていたら、体脂肪の少ない少女は寒さに四苦八苦していた事だろう。
「ふむ」
特に意味も無く声を出し、そのまま眠れそうなほど柔らかい椅子の背凭れに身を沈める。
書き物で強張っていた肩の筋肉を緩ませ、再び窓から外を見た。
今度は上ではなく、下に視線を送る。
ここは三階なので、大体の建物は眼下に有る。
流行の最先端に居る王都の人々を見下ろすのは、偉くなった気分になれて悪くない。
なのに、部屋に閉じ籠る生活に飽きたイヤナはアルバイトに出ている。
一応は今も修行中なので、遺跡での生活を出来る限り再現したいそうだ。
王都に出てのバイトもその一環で、都会の人々と触れ合いたいらしい。
しなくても良い事をわざわざするのは無意味だと思うが、彼女には彼女の思うところが有るんだろう。
「イヤナ側から見れば、一ヵ月以上も買い出し以外の外出をしなくても平気な私の方がおかしいんだろうな」
椅子から腰を上げたセレバーナは、茶葉を交換してから紅茶のお代わりをした。
ツインテール少女もイヤナの考えを尊重して修行っぽい生活に付き合っているが、パーソナルな部分はそこまで質素にしていない。
「お茶受けに甘い物が欲しいが……棚の中が空っぽだな」
昼食時だから自分で何か作ろうとは思うのだが、材料を買いに行く手間を掛けるほど空腹ではない。
外は滅茶苦茶寒そうだし。
料理が得意なイヤナなら余った野菜からでも紅茶に合う物を作ったり出来るだろうが、日が高いからまだ帰って来ない。
「うーむ。――まぁ良い。朝食の残りでも抓むか」
菓子程度なら一階のラウンジに行けばいつでも買えるが、高級ホテルだけあってかなりお高い。
今は人の金を自由に使える身分だが、だからと言って無尽蔵に使える訳ではない。
自堕落に慣れると性根が腐る。
自分は女神候補なのだから、気分だけでも高貴な女でいなければ。
「そう考えると、王族のペルルドールが一番適任だったんだな。姉姫が病気でさえなければ……。いや、無意味な『たられば』は止めよう。今はそれどころではない」
椅子に戻った黒髪少女は、香り高い紅茶を啜りながら自分が書いた文章のチェックをする。
思い付く限りダラダラと書き綴って来たので、紙の山は結構高くなっている。
そろそろ清書作業に入る事も考えないといけない。
「失われ行く魔力の回復方法はどうしようか。女神への信仰心にするか、それとも、女神の領域を新たに創造し、適当なアイテムを設置するか……」
再び作業に没頭しようとしているとドアがノックされた。
高級な部屋は無駄に広いので、窓際からではお互いの声が届かない。
立ち上がったセレバーナは、入り口に向かいながら返事をした。
「はい」
「こんにちは。魔法ギルドから来ました、ティセです」
知っている名前と声だったので、迷い無くドアを開ける。
魔法使いギルド長第一秘書のティセさんは、相変わらずセクシーなスーツを着ていた。
寒くないのだろうか、と思ったが、彼女も魔法使い。
防寒の魔法でも使っているんだろう。
「こんにちは。貴女が直接おいでとは何事ですか?私達はこのホテルから追い出されますか?予算オーバーで」
「いえ、そうではありません。女神の鎧についての報告ですので、ギルド長代理で参りました」
「なるほど。――イヤナは出ていますが、待ちますか?」
「すぐに帰って来られますか?」
「いつも通りなら、夕方まで帰って来ません。彼女は人との触れ合いに何かを求めている様ですから」
「そうですか。では、セレバーナさんから彼女に伝えてください」
「分かりました。では、こちらへ。お茶を淹れます」
客人用のソファーをティセを示すと、金髪美人はソファーに腰掛けながら社交辞令を口にする。
「お構い無く。すぐにギルドに戻らなければなりませんから」
「たった今、自分の紅茶を淹れたばかりですから、すぐに淹れられます」
部屋の奥に有るキッチンに行くセレバーナを見送ったティセは、持っていた書類入れを自分の横に置いた。




