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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第八章
250/333

13

空のリュックを背負った薬師が行った転移魔法で辿り着いた先は、野外に置く簡易トイレかと思うくらい狭い小屋だった。

低い天井と四方を囲む壁は全て年季が入った木の板で出来ている。


「無事に到着しましたね。他人の転移魔法で知らない土地に移動した際は、ごく稀に荷物が異次元に消える事が有ります。大丈夫ですか?」


中年男性の薬師は、セレバーナとイヤナの顔を見ながら確認を促した。

分厚いコートを着ている赤髪のイヤナは、まずポケットを探った。

緊急時用のチョコやナイフはキチンと有る。

背負っているリュックには沢山の物が詰まっていて確認しているヒマは無いので、重さが変わっていない事で良しとした。

同じ様に荷物の重さチェックをしたセレバーナは、長いマフラーを鼻が隠れる高さまで巻き、毛糸の帽子を目深に被っている。

ツインテールを解いているので、長く量の多い黒髪が背中のリュックを覆っている。


「大丈夫です」


「それでは外に出ますが、異常気象でない限りは雪が積もっています。ニアック洞穴まで少し歩きますので、はぐれない様に」


二人の少女の返事を聞いた薬師は、小屋のドアの取っ手を手前に引いた。

腰の高さまで積もっている白い物体が姿を現し、壁の様に行く手を阻んでいる。

大きく足を上げ、それを踏み固めながら外に出る薬師。

続いて少女二人も外に出る。


「雪が中に入らない様に、しっかりとドアを閉めてください。次に来る時に困らない様に」


薬師の指示に従い、最後に小屋を出たイヤナがドアをしっかりと閉めた。

それを確認した後、ゆっくりと雪原を進む一行。

周囲に視界を遮る物は無く、白く煙る風は冷たい。

しかし空は青空で、日の光は温かかった。


「ほへ~。雪ってこんなになるのかぁ。面白いなぁ」


イヤナは物珍しそうに周囲を見渡す。

薬師が付けている足跡から外れ、わざわざ新雪に突っ込んで行っている。


「イヤナは雪の中を歩くのは初めてか?」


「ここまでいっぱいなのはね。セレバーナは?」


「神学校が有る地域では、一番降る時期にはこの半分くらいは降っていたな。もっとも、早朝に除雪されるから新雪を踏んだ事は無いがな」


思い付いて、セレバーナもまっさらな雪を手で掬ってみた。

ギュッギュッと鳴る音と感触は面白かったが、すぐに飽きて捨てた。

手袋が濡れたら寒くなる。


「ブーツに雪が入って足が冷えると霜焼けになる。はしゃぐのもほどほどに」


「うん」


そうこうしていると、旗の付いた丸太が立っているのが見えて来た。

その丸太の脇には小さな雪の山が有る。

油断していたら見逃すくらいの大きさ。


「着きました。炎の魔法で雪を溶かすので、そこで待っていてください」


少女達を立ち止まらせた薬師は、一人で雪の小山に近付く。

懐から三十センチほどの魔法の杖を取り出し、気合と共にそれを振る。

直後、彼の周囲で熱風が巻き起こり、一分くらい掛けて丸太付近の雪を溶かした。

すると、ロの字に積まれた石垣みたいな物が姿を現した。


「ここが洞窟の入り口です。溶かした雪で足場が滑り易くなっているので、注意して後に続いてください」


石垣の中心で口を開けている穴の中に入って行く薬師。

少女達もその後に続く。

ここは薬草取りクエストのメッカで何度も入る場所だからか、石の階段で舗装されている。

しかし今は雪を溶かしたせいでしとどに濡れている為、油断すると滑って転びそうだ。


「イヤナ、気を付けてくれ。後ろが転んだら全員が将棋倒しになる」


「うん」


殿(しんがり)のイヤナも階段を降り切り、やっと目的地に到着した。

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