14
「魔法ギルド長の依頼でここまで同行した訳ですが……。ここからは別行動で良いんですよね?」
全員が階段を降りた所で薬師が確認する。
若い娘だけで洞窟を探検するのは危険過ぎる。
入り口が雪で塞がっていたからこの付近は大丈夫だろうが、モンスターや浮浪者が潜んでいる可能性が有るからだ。
しかしセレバーナは平然と頷く。
「はい。帰りは自分達の転移魔法を使いますので、はぐれてもお気になさらず」
そしてセレバーナはイヤナに向き直る。
防寒具で全身を固めている為、視界が狭い。
「事前の打ち合わせ通り、イヤナの使い魔に道案内をお願いする」
「はーい。マギ、出番だよ。女神の剣はどこに有るの?」
赤髪の中に隠れていた妖精がイヤナの肩に飛び移る。
トンボの様な羽根の邪魔にならない形に改造された手袋を着ている妖精は、囁く様な声で主人に耳打ちした。
「当分先だから近くになるまで外に出たくない。だってさ」
苦笑いしているイヤナの髪の中に潜って行く妖精。
イヤナの魔力から産まれた使い魔は、雪に慣れていないイヤナに似て寒さが苦手らしい。
「女神の剣が有る言い方だったな。信じて進もう」
ここから見えている範囲は一本道なので、薬師と共に進む。
冷たい空気を吸っている鼻が痛い。
地下は地熱で温かいと思っていたセレバーナだったが、そんな事は全く無かった。
やはり本で得た知識と現地の状況は全然違うな。
百聞は一見にしかず、と言う事か。
そんな事を考えていると暗闇になったので、薬師の魔法を借りて松明に火を付けた。
その火が微妙に揺れているので通気は良い様だ。
だから寒いのか。
「む、分かれ道だ。我々はどちらに行けば良い?あ、薬師様はお先にどうぞ。ありがとうございました」
立ち止まった少女達は、薬師に道を譲った。
「では、私はクエストを開始します。お気を付けて」
薬師が受けているのは、王家が発注している第一王女の病気に効く薬草取りクエストだ。
三ヶ月に一度のペースで発注され、魔法ギルドで修行している若者が受ける事が多い。
報酬は少ないが、恐ろしい冒険や派手な戦闘が無いので良い小遣い稼ぎになるからだ。
しかし、今みたいな時期は受ける者が居ない場合が有る。
理由は勿論寒いから。
そんな時は、王家に仕える薬師が直接来る。
セレバーナとイヤナは、その転移魔法に便乗させて貰ったのだ。
一度ここの座標を覚えてしまえば自分達だけで再度来れるので、薬師と別行動になっても問題は無い。
「マギ?……ふむふむ。こっちだって」
赤髪の中で蠢いている使い魔に従い、薬師とは別方向に進む二人の少女。
暗くて悪い足場に注意しながら小一時間ほど歩くと、妙に明るい一角に到着した。
天井に天然の穴が開いていて、太陽の光が差し込んでいる。
雪もそれなりに積っているそんな場所に緑の草むらが存在していた。
「これが北のパワースポットだけに群生していると言う薬草か?見た感じはただの雑草だから違うかな?」
セレバーナは草むらの前で立ち止まる。
イヤナはその横でしゃがみ、草に顔を近付けて良く見てみる。
葉っぱを一枚だけ千切り、新雪に擦り付けて洗ってから噛み締める。
「うん、薬草っぽい。料理にも使えそう。味は微妙だけど」
「ほほう。では、休憩がてら、私達も少々摘んで帰るか。売れるかも知れないし、何かの役に立つかも知れないし」
「そうだね」
寒さで頬を真っ赤に染めているイヤナが背負っていたリュックを下す。
そのリュックから取り出されたのは、ピクニック用の防水布シート。
狭い洞窟内で広げても邪魔なだけなので、ふたつ折りの細長い状態で草むらの前に敷いた。




