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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第八章
249/333

12

王都で一番の高級ホテルのレストランで、妙に量が多い黒髪をツインテールにしている少女がクロワッサンを食べていた。

美味しいと評判のパンなのに、徹底的に無表情だった。

その対面では赤髪少女が居心地悪そうに紅茶を啜っている。


「な、なんか、私、浮いてない?周りの人、お金持ちっぽい人ばっかり」


小声で言いながら、自分が着ている質素なドレスを気にするイヤナ。

今日も神学校の制服を着ているセレバーナは、レタスとハムのサラダにフォークを刺す。

スパイシーなたまねぎドレッシングが結構クセになる。


「小娘二人で泊まれる様な場所ではないからな。しかし、こちらはキチンと料金を払っている正規の客だ。胸を張れ」


「そうだけど、お金を払うのはお師匠様だから、悪いなぁって。もっと普通の宿でも良かったんじゃない?」


「病院が近いし、魔法ギルドの人との待ち合わせにも良い。今日は防寒具の買い込みもするから、ここを拠点にするのが一番便利なんだ」


「防寒具?どうして?」


「ペルルドールの返事を待つ間に、我々の方でも鎧探しをしておこうと思ってな」


食事の手を止めたセレバーナは、大きな明り取り窓の向こうを見る。

雲が厚く雪がちらついているが、積もるほどではない。


「パワースポットの中で我々が行った事の無い場所が二ヶ所有る。そこが怪しいと睨んでいる」


女神と同じ数だけ有るパワースポットは、全部で七ヵ所。

ひとつ目、ペルルドールが居る王城。

ふたつ目、サコの実家が有る山。

みっつ目、セレバーナが通っていた神学校。

よっつ目、魔法ギルド。

いつつ目、滅亡の危機に瀕したヴァスッタ。

そして、勇者の実家と北の僻地の二ヶ所が行った事の無い場所だ。

正直、勇者の家に女神の鎧が有ると思っている。

有っても不思議ではない家柄だし。

しかし、勇者が持っていた武器が魔法使い殺しの剣だったので、女神の剣はそこには無いと予想している。

もしも女神の剣を所有していたのなら、魔王を相手にしようとした時に所持していなかったのは理屈に合わない。

となると、女神の剣は残り一ヶ所に有ると言う事になる。


「今って、魔法ギルドの人達がパワースポット全部を回って探しているんでしょ?そこにも行ってるんじゃないの?って言うか――」


イヤナはクロワッサンを手でちぎり、匂いを嗅ぎながら喋る。

さすが高級店、良い小麦粉を使っている。


「サコの家には行かないの?ペルルドールの所に行ったから、そっちにも行くと思った」


「転移魔法で一瞬だから行っても良いが、実家にサコが居るとは限らないぞ。彼女は魔法ギルドで修行し直しの為にバイトをすると言ってたから」


「あ、そっか。じゃ、行っても意味無いかもなのか。残念」


千切ったクロワッサンを頬張るイヤナ。

素材の良さを最大限に引き出している味。

さすがプロの技、食べただけでは焼き方の真似は出来そうもない。


「そんな訳で、今後の予定だ」


今日は雪深い北の地に行く為の防寒具の購入。

目的地がどんな場所か分からないので、一週間くらい遭難する覚悟で非常食も買い込む。

第二王女の紋章付きのコートはペルルドールに返した為、街歩き用の上着も要る。

明日はセレバーナが病院に行くので、イヤナは自由行動。

セレバーナの主治医は忙しい人なので、向こうの予定に合せないといけないのだ。

この日の夜に魔法ギルドから現状報告の人が来る予定なので、その時に北の地に赴く旨を伝える。


「あれ?防寒具を買ってから北へ行きたいって言うの?反対されたらどうするの?」


「反対されても無駄にはならないだろう。今日はホテルに泊まっているが、明日には野宿になるかも知れないからな」


「そうだね。今のところは遺跡に帰れないからね」


「だから食える内に栄養を蓄えておくのも良い。追加注文をしても良いぞ。考え事をするので、私はしばらくここに居るつもりだからな」


片手を上げてウェイターを呼んだセレバーナは、紅茶のお代わりを注文した。

その後、ガラス壁の向こうに広がる大通りに金色の瞳を向ける。

温かい建物内で落ち着いている内に新約聖書の概要を考えなければ。

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