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「お母様の予見は、これの事だったのでしょうか」
「ん?何だって?」
身形を整え終えてソファーに座ったセレバーナが訊き返す。
王女の声は小さかったので良く聞こえなかった。
「何でもありません。分かりました。努力します。ただ、事が事だけに王を説得しなければなりません。そして……」
前屈みになったペルルドールは、口元に手を添えて声を抑える。
それに付き合い、セレバーナとイヤナも前屈みになって耳をそばだてる。
「わたくしが王位を継承しなければ出来ない事だと思います。その下準備だけで数ヵ月は掛かるでしょう」
「新約聖書の草稿もそれなりの時間が掛かるから、それくらいなら問題は無い。二、三年掛けても良いくらいだ」
「なら大丈夫ですわ。絶対に成して見せますとの約束は出来ませんが、それがわたくしの産まれた理由として最大限の努力をしますわ」
少女達は姿勢を正してソファーに座り直す。
「心強い言葉に感謝する。新約聖書の草稿はここに郵送する事になると思うが、住所はどう書いたら良いのだろうか。正式な手順が有るのだろうか」
「有りますが、それだと中身を検閲されます。それは問題が有りませんか?」
「ううむ。検閲はまずいかも知れんな。怪文書として処分されたら困る。さて、どうしたものか。今日の様に直接来るしかないのか」
セレバーナは腕を組んで考え込む。
イヤナも何か考えている様だが、良いアイデアを都合良く出せる子ではない。
だからペルルドールが案を出す。
「プロンヤ」
「は」
応接間の出入り口付近で控えていた女騎士がペルルドールのソファー横に来る。
「彼女の実家にイヤナ名義で送ると言うのはどうでしょう。ブルーライトの名も有名ですから、郵便盗難の恐れも有りますし」
「ナイスアイデアだ。宜しいですか?プロンヤさん」
セレバーナに訊かれ、頷くプロンヤ。
「もちろんです。責任を持って姫に届けます。住所をメモして参りますので、少々お待ち下さい」
「ありがとうございます」
女騎士の背を見送ったセレバーナは、ワイシャツの襟元を気にして弄る。
「最後に質問だ。この城にソレイユドールが着た女神の鎧のレプリカは有るだろうか。そして、女神の剣と呼ばれる宝も」
「鎧は過去の映像に有ったアレでしょうけど、剣は初めて聞きますね」
「破竹の勢いだったストーンマテリアルに対抗する為、アイアンマテリアルが剣を作っていた様なのだ。穂波恵吾の記憶の中に有った」
喋りながらワイシャツの皺を伸ばしているセレバーナの言葉に続くイヤナ。
「女神本人の記憶も見ないと肝心な部分が分からないからね。女神関係の物は絶対にパワースポットに有るから、探すのは簡単だし」
「ここ、王城もパワースポットと言う話でしたね。聞いた事がありませんので無いとは思いますが、探してみましょう」
「頼む。――もっと話したいが、病院の時間が有るのでここで辞するとしよう。会えて嬉しかったよ、ペルルドール」
「私も嬉しかったよ」
セレバーナとイヤナが笑む。
ペルルドールも笑む。
「わたくしも、この再会に感謝します。また会えますか?」
「分からん。女神の鎧のレプリカが有れば来なければならないだろうが」
「では、これが最後になるかも知れないんですね」
「ああ。だが、君が遺跡を去った時も永遠の別れを覚悟した。しかしこうしてまた会えている。その程度の別れだ」
「そうですね。なら、いつでもこの姫城に入れる様に、わたくし直筆の通行手形を発行しましょう。もっとも、わたくしのスケジュール次第では会えませんが」
「それは助かる」
「後で王都病院に届けさせます。――では、また会いましょう」
ペルルドールが右手を差し出す。
「ああ。また会おう」
握手に応じるセレバーナ。
「またね!」
続けてイヤナも握手する。
そしてメモが入った封筒を持ったプロンヤが戻って来てから、友人二人は王女に見守られながら応接間を後にした。




