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それぞれの自室に戻った少女達は、早速それぞれの願いを思い浮かべ、それぞれが納得行くタイミングで小箱を開けてみた。
自身の願いに不安が有るので翌日に回すと言う選択肢は全員に無かった。
中には真鍮製に見える玉が入っていた。
白い布が隙間に詰まっていて、雑に小箱を持ち運んでも転がらない様になっている。
一見金属だが、手に持ってみると軽く、生き物の様な温もりを持っていた。
そして、本気で力を入れれば変形しそうな柔らかさだった。
望み次第では粘土の様に形を変えても良いみたいだ。
根拠は無いが、なぜかそう思った。
しかし少女達は全員が球体のまま形を変えなかった。
こうして手に取ってしまった以上、余計な事を考える余裕が無かったから。
とにかく、自分が望む真の願いを月織玉に向けてみた。
まるでスポンジが水を含むかの様に思い浮かべたイメージが吸い取られて行く。
それに伴い、激しい脱力感。
これが魔力を込めると言う事か。
この玉を持ったまま気絶したら命まで持って行かれそうだ。
慎重に、しかし限界ギリギリまで魔力を込めて行く。
そうしてほぼ毎日魔力を玉に込めて行く内に猛暑の夏が過ぎ、秋も半ばになって来た。
秋と言えば収穫の時期。
農業が主な産業である最果ての村が一番忙しい季節だ。
毎日の様に丸々と太った農作物の出荷が行われ、広大な畑がただの土の地面に変わって行く。
四人の少女達も毎日アルバイトに精を出し、毎日へとへとになるまで働いた。
しかしどんなに疲れていても魔力込めは怠けない。
体力も魔力も確実に強くなって来ている実感を全員が持っていた。
「シャーフーチ。月織玉の魔力が満タンになった様なので、見て貰っても宜しいでしょうか」
もうそろそろ下の村でのアルバイトも無くなり、冬の貯えの準備を考えなくてはならなくなって来たある日。
朝食の時間に五人全員が集まった事を確認したセレバーナが、緊張した面持ちでそう言った。
シャーフーチは朝食に顔を出さない事も有るので、早目に伝える事が出来て良かった。
「わぁ。やっぱりセレバーナが一番だ。凄いねー」
イヤナが笑顔で拍手する。
素直に他人を称賛する事が出来る純朴な赤毛少女。
他の二人も「おめでとう」とは言ったが、表情に先を越された悔しさが微妙に隠されていた。
「この修行の場合、早いのも良くない気もしたが、満タンになってしまったのだから仕方ない。だが、私の役に立ってくれそうな物にはなった」
「そうですか。では、朝食後にお部屋に行きましょう。私が入っても良い様に、片付けは済んでいますか?」
「はい」
「宜しい。月織玉の状態を見て、必要なら魔法使いギルドに行きます。今日はお仕事が有りますか?」
応えるのはイヤナ。
「はい。昨日と同じく、下の村の農家での収穫のアルバイトが。ですが、三人でも大丈夫です」
「ギルドに行ったとしても数時間で帰って来ますから、先にアルバイトに行ってください。後から向かわせますから」
「分かりました」
残暑が残る石造りのリビングで、今日の農作業に耐える為の少し重めの朝食が始まった。




