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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第四章
129/333

22

気が付くと世界は真っ暗だった。


「……ふぇ?」


動くと、手足が木の壁に当たった。

狭い。


「???」


自分がどこに居るのかが全く分からないので、適当に周囲を手で探るペルルドール。

かなり狭い空間に閉じ込められた?

物心付いた時から王女としての教育を受けて来たので、不意に誘拐監禁された場合でも慌てない心構えを持っている。

だから落ち着いて手を上げると、天井がすんなりと開いた。

上半身を起こし、狭い所から広い空間に顔を出す。

外も真っ暗だった。


「気が付いたか」


「その声は、セレバーナ?どうして暗いんですの?」


「夜だからだ」


ペルルドールが動くと、周りがギシギシと音を立てた。


「静かに。誰かに気付かれたらまずい」


「どう言う事ですの?」


動きを止めたペルルドールは、その場で正座の姿勢を取った。


「族長の家で出された物に眠り薬が入っていた様だ。多分、紅茶の方かな」


「なん、ですって……?」


ペルルドールは暗闇の中で青褪める。


「紅茶のおかわりが無かったし、族長にお茶を出さなかった。不自然だなぁとは思っていたんだが。いや、失敗失敗」


セレバーナは抑え目の声で笑う。

おかわりをすると睡眠薬が適量を越えてしまい、族長の家の中で気絶してしまう恐れが有ったのだろう。


「笑い事ではありませんわ!」


「声が大きい」


「む、ん……」


口を閉じるペルルドール。

暗闇に目が慣れて来ると、ここは狭い部屋だと言う事が分かった。

と言うか、意識を失う前に乗っていた軍用馬車の中だった。

セレバーナは対面の席で足を組んで座っている。


「もしかしたら、もう殺されていたかも知れないんですよ?笑っている場合ですか」


ペルルドールは小声で怒る。


「そうだな。私が眠りながら動けると言う特技を持っていなかったら、本気でやばかった」


セレバーナは、眠っている間に何が有ったのかを語る。

馬車に乗って街を出たところで、急激に睡魔に襲われた。

ペルルドールはあっと言う間に眠ってしまったが、睡眠のコントロールに慣れているセレバーナは半目になって耐えた。

だが、このままではいつ眠ってしまってもおかしくない。

まずいと判断したセレバーナは、座席の下に有る荷物の収納スペースに二人で潜り込んだ。

軍用車両に貴人を乗せる時は、不快な物音がしない様に空にしておく事を知っていて良かった。

乗り心地が最悪だったせいで寝落ちする事無く目的地に着き、馬車が止まる。


『おい、誰も居ないぞ!』


『え?そんな筈は』


『事が済むまで聖地に幽閉しようとした目論見に気付かれたのか?』


『身の危険を感じた王女が走っている馬車から飛び降りたと言うのか?バカな!』


『お怪我をなさっていたら、俺達も殲滅作戦のどさくさに紛れて殺されるぞ』


『探せ!』


大勢の男がそんな会話をした後、沢山の馬の蹄の音が遠ざかって行った。


「勿論そこも覗かれたが、透明化してやり過ごした。二人同時にな」


ペルルドールが座っている収納スペースを指差すセレバーナ。

その後、無人だと思われている馬車は行きと同じくらいの時間を掛けて走り、車庫である小屋に入った。


「そして馬だけが連れて行かれ、この小屋に鍵が掛けられた。つまり私達は閉じ込められている訳だ」


溜息を吐くペルルドール。


「殲滅作戦はまだ始まっていないんですか?どちらにしろ、早く逃げないと」


「逃げたくても出られん。鍵を掛けられたと言ったろう。君が起きたら裏口を探し、アンロックを使って貰おうかと思っていた」


「そうでしたか。では、探しましょう」


「まぁ待て。もしかすると、殲滅作戦はこの街の人間の計画かも知れないと思えて来た」


セレバーナは落ち着いた声で言う。


「どうしてですの?」


「情報が少な過ぎるから分からんが、実際に睡眠薬を飲まされてしまった。しかも手際良く。だからその可能性はかなり高い」


「作戦を止められると困るから眠らせた?」


頷きながら「多分な」と言ったセレバーナは、直後ツインテールの頭を横に振った。


「勿論、それはただの可能性であって、確定ではない。例え王家の親族であっても、この街の人間が王都の殲滅部隊を呼べる訳が無い」


「王城の騎士である爺の孫が部隊長ですから、城の外の人間が関わっているとは思えませんわ」


「なので、君を人質にして殲滅部隊を退ける交渉を、とも思ったが、どの様に交渉するかが分からん。可能性が無数に有り、めぼしい選択肢すら絞れない」


「どの様な可能性が有りますの?」


ペルルドールが訊くと、セレバーナは面倒臭そうに溜息を吐いた。


「もしもここで『敵の思惑』の正解を言い当てたとしても、その時の状況次第で正解が変わるだろう」


足を組み直すセレバーナ。


「つまり、ずる賢い『敵』を相手にしなければならず、あらゆる場面を想定した言い訳を用意している『敵』を『論破』しなければならない。それが今の状況だ」


「敵……論破……」


「神学校でも私を利用しようとした者が居た。それを無視すると知らない内に私の立場が悪くなったり、良くない噂が立ったりする。邪魔臭い話だ」


セレバーナは再び面倒臭そうに溜息を吐く。


「どんなに友好的であっても、私に有益であっても、そんな思惑を持つ相手は『敵』なのだ。ここから出たら、この街の全てを『敵』と疑う覚悟をしてくれ」


「その気持ち、良く分かります。王城でのわたくしも同じでした。――わたくしは爺が護ってくれていましたが、一人になった今は何もかも思い通りに行かない」


ペルルドールは暗闇の中で俯く。

収納スペースの床が見えないくらい光が無い。


「セレバーナ。真実を知りたいと言うわたくしの望みは叶わないのでしょうか。王城でも遺跡でも、わたくしは役立たずのお飾りなんでしょうか」


悲しみの籠った声で訊くペルルドール。


「何が知りたい?」


「幼い頃に亡くなった実母の暗殺疑惑と、お姉様の病気の真実」


「ユーリさんが第一王女の噂の事を仰っていたな。陰謀が何とか」


「王位継承権第一位をお持ちのお姉様は病弱で殆どお城を出られません。だから第二王女のわたくしにも第一位の王位継承権が与えられています」


「病弱では女王の仕事はきついだろうしな」


「そのせいで王城と国会ではお姉様派とわたくし派に分かれ、政権闘争が行われています。いつ人死にが出てもおかしくないと爺は気を張っていました」


「なるほどな。平和だとヒマだしな。他にやる事が無いんだろう」


「それで良いと思いますか?セレバーナ」


「良い訳があるか。私達国民が不安無く生活出来る様に努力するのが政治家の仕事だ。のんきに政権闘争をしているヒマは無い筈だ」


ですわよね、と頷いたペルルドールは話を続ける。


「私のお母様はその闘争のせいで暗殺されたとの噂が有りまして。お姉様の病気にも毒物疑惑が」


「政治ゴッコをして遊んでいる者は、自分の目的の為にウソを吐き、そのウソを本当にしたりするからな。訳が分からんだろうな」


「それに振り回される周りの人間の迷惑も考えずに、迷惑な事です」


ペルルドールは長く深い溜息を吐く。


「噂の真偽は不明なのですが、真実なら首謀者を政治の場から追放しなければなりません。そして、無意味な緊張を解きたい。それがわたくしの望み」


「それをしたら議会の人間が何人消えるんだろうな」


「それは、どう言う意味ですか?」


「どう言う意味だと思う?」


セレバーナの言葉に答えられないペルルドール。

本当は分かっている。

クリーンな政治家は居ない、と言いたいんだろう。

しかし、それを認めたくない。

悪人はごくごく一部だと思いたい。

だって、国を動かし、王の信頼を受けている彼等が、そんな事……。


「……分かりません。何も、分かりません……」


正座しているペルルドールは、ふとももの上に置いている拳を強く握った。

無力感と言う化け物に頭を押さえ付けられているかの如く、息苦しい。

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