20
客間から出て行った族長がドアを静かに閉めると、控えていた三人のメイドがお茶の準備を始めた。
テーブルにふたつのケーキが並べられる。
「ほほう。ミルフィーユか。頂こう」
セレバーナはソファーに座り、無表情のままスプーンを持った。
「知らぬ場での食事は遠慮しておきますわ」
ペルルドールは絵の前から動かずに言う。
「薬が盛られている可能性か。王女は大変だな。確かに、安全ではないだろうな」
メイド達を見るセレバーナ。
多くのメイドがそうである様に、機械的に働いている。
お茶の準備が整うと入り口近くの壁に並んで待機した。
「どれ。私が毒見をしてやろう」
行儀悪く匂いを嗅いだセレバーナは、自分のケーキと上座のケーキを交換する。
そうしてからミルフィーユを口に運ぶセレバーナ。
モグモグモグ。
紅茶も交換後、香りを楽しみながら啜る。
「ど、どうですの?」
ペルルドールは生唾を飲む。
最果てでの質素な生活のせいで、食に対しての欲が少々強くなっている。
「美味い」
「そうではなくて」
「味におかしなところは無い」
ツインテールを解いたままのセレバーナは、あっという間にケーキを平らげた。
「ふぅ……」
一息吐いたセレバーナは、手を付けられずに残されているもうひとつのミルフィーユに金色の瞳を向けた。
「……」
「……」
微妙な空気が客間に流れる。
「私の体調に変化は無いが、どうしようか」
「し、仕方が有りませんね」
ペルルドールは澄ましながら上座に座り、ここが一流ホテルであるかの如く優雅な手付きでスプーンを持つ。
「ユーリ・ターリ様を疑うのも失礼ですし、残すのも勿体ありませんので、有り難く頂戴いたしますわ」
美味しさに涙目になりながら、行儀良くケーキを平らげるペルルドールだった。




