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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第四章
122/333

15

「イヤナとサコが先に街に入ってくれ。私達はそのどさくさに紛れる」


そう言ったセレバーナは、半目になって意識を集中した後に透明化した。

続いてペルルドールも透明になる。


「じゃ、行って来る。気を付けてね、セレバーナ、ペルルドール」


「うむ。そちらも犯罪に巻き込まれない様にしてくれ」


見えない人間からの返事。

奇妙な感じ。

木の陰から出たイヤナとサコは街の入り口を目指した。

大きな街には街を囲む壁と門番が居る物だが、この街にはそれらが無かった。

なので、通行手形を持っていない場合に必要な身体検査や住所氏名の記入も無しですんなりと街に入れた。


「のんびりとした良い街だね」


「そうだね」


旅行者が珍しいのか、二人は結構な注目を浴びている。

普通、街の入り口には旅行者向けの宿屋や商店等が並んでいる物だが、この街はそれが無い。

観光地ではないのか?


「規模の大きい最果ての町みたいだ」


サコはキョロキョロと周囲を見渡し、余所者丸出しで大通りを歩く。

民家は木造平屋ばかりで、屋根は枯れ草を分厚く積み重ねた物で出来ている。

火事になったら良く燃えそうだ。

家と家の間隔が離れているので延焼の心配は無さそうだが。


「おやおや。こんな時期にこの街に来るなんて珍しいね。新婚旅行かい?」


通りすがりのおばちゃんが話し掛けて来た。

イヤナの様な質素なドレスを着ている。

だが、全体的に布地が少ない。

年齢に似合わず胸元が大きく開いており、袖やスカートの裾も微妙に短い。

周りの人達もそうなので、この格好がこの街の当たり前なんだろう。


「新婚……?」


イヤナとサコが顔を見合わせる。


「プフッ。そう言う事ね」


察したイヤナが噴き出す。

体格の良いサコを男性だと勘違いした様だ。

サコもそれに気付き、ショックを受けている。

しかし、左手の薬指にお揃いの指輪をしているので、そう思われるのも仕方が無いだろう。

サコの方は小指なのだが、それに疑問を持たないくらい大雑把な人の様だ。


「まぁ、そんなところです。えっと、こんな時期に遊びに来るのって珍しいんですか?」


イヤナが訊くと、おばちゃんは自慢げに両手を広げた。


「珍しいね。祭の時期じゃないから。祭の期間中は、そりゃ大勢の観光客が来るもんさ」


感心した風な笑顔になるイヤナ。


「へぇー。じゃ、時期外れだったんだ。残念。でも、大勢の観光客が来る割には宿屋とか無いみたいですけど」


「ああ、そう言うのは街の中心に有る広場の方に並んでるよ。祭が良く見える場所にね」


「なるほどー。お祭が観光の目玉なんですね。じゃ、今行ってもしょうがないのかな?」


「今はただの広場だよ。祭以外の時は何も無い田舎町さ」


「そっかぁ。うーん、じゃ、この街で一番偉い人って、どこに居ます?」


「なんでそんな事を訊くんだい?」


「ホラ、偉い人って凄い家に住んでるじゃないですか。この人がそう言うのに興味が有って」


サコの逞しい肩に手を置くイヤナ。


「大工さんか何かかい?」


『喋ったら声で女の子だってバレちゃうから、今は黙っててね』


テレパシーでサコの口を閉ざした後、満面の笑みになるイヤナ。

ショックを受けているサコは不機嫌そうな表情になっている。


「私はそう言うの、良く分からなくて。この人、無口ですし」


「ほほー、職人気質って奴だね。そう言うの、良いよね」


「そうですか?面倒なだけですよー」


イヤナとおばちゃんは明るく笑い合う。

故郷の村で大人達がそんな会話をしていたのを思い出しながら、若夫婦風な演技するイヤナ。

お陰で怪しまれず、自然な会話が出来ている。


「族長の家はね、ちょっと遠いよ。この大通りを真っ直ぐ行けば広場なんだけど、それをもっと真っ直ぐ行って」


広い道の先を指差すおばちゃん。


「そうすると隣街との仕切りっぽい小さい川が有るから、そこまで行ったらまた別の人に訊いてよ」


大雑把で他力本願な道案内だ。

だが、方向が分かったのは収穫だろう。


「わっかりました。観光しながら行ってみます。ありがとうございました」


ペコリと頭を下げるイヤナ。

サコも無言で頭を下げ、二人足を揃えて言われた方向に進む。


「……こうもハッキリと男に間違えられたのは初めてだ」


サコが小声で落ち込む。


「まぁまぁ。さっきのおばさんは細かい事を気にしない人だったからしょうがないよ。最果ての村の人達よりノンキだよね」


「うん……女らしくない自覚が有るから、別に良いけどね……」


虚ろな表情で空を仰ぐサコ。

こんな事では傷付かないし、泣いたりもしない。

そう自分に言い聞かせて心の平安を保つ。


「今聞いた話をテレパシーでセレバーナに送るね」


イヤナは黒髪少女の顔を思い浮かべ、思念を飛ばす。


『セレバーナ。聞こえる?今大丈夫?』


『どうした?』


セレバーナの声で返事が来た。

いつもの調子なので会話を続けても大丈夫そうだ。


『族長さんの家の場所を聞いたよ』


イヤナは、おばちゃんの声を聞いたまま送る。


『いきなり有力な情報を得たな。やるな、イヤナ、サコ』


『ありがと。私達もそっちの方に行ってみる』


『分かった。こちらも順調だ。貰った情報を頼りに進む方向を調整する。では、引き続き頼む』


セレバーナの気配が頭の中から消えた。


「伝えたよ。避難が上手く行けば良いね」


「そうだね。情報収集を続けよう」


ここに来た目的を思い出したサコは、沈んでいた気持ちを忘れた。

滅びの足音が刻一刻と迫っているのだから、余計な事を考えているヒマは無い。

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