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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第四章
115/333

8

「そう言う訳で、ペルルドール。返事の手紙には、協力出来ませんと書いてくださいね。もっとも」


シャーフーチは、深刻な顔をしているペルルドールの左手を指差した。


「人命が第一だから指輪を外して城に帰る、と言うのなら、私は止めませんけどね」


少女達の左手の指に嵌っている金色の指輪はシャーフーチの弟子である証。

これを外すと弟子の資格が失われる。

弟子なら師の指示に従わなければならないが、外してしまえば本来の身分に戻れる。

エルヴィナーサ国第二王女、ペルルドール・ディド・サ・エルヴィナーサに。


「なら、魔法の修行になれば良いんじゃない?」


金髪美少女が苦悩の表情になっているのを見兼ねたイヤナが、深刻さのかけらも無い普通の調子で言う。


「どう言う事ですの?」


ペルルドールは、小首を傾げながら赤毛の少女を見る。


「光線魔法って、透明になれるし、分身も作れる。それを使えば城から抜け出るのも簡単じゃない?今から頑張ってそれが出来る様になれば」


「無理ですわ。王城には優秀な魔法使いが大勢居らっしゃいますし、城自体にも魔法避けが仕掛けてありますから。頑張っても無効化されます」


肩を落とすペルルドール。


「指輪は外したくありませんが、ここで数十万人のヴァスッタ族を切り捨てるのは、人として間違っていると思います。わたくしは、どうすれば……」


金髪美少女は重大な判断を前にして形の良い唇を噛む。

どう行動するのが正解なのか。


「悩んでいる時間は無いぞ。私達は転移魔法が使えない。助けに行くのなら、今すぐ出発しないといけない」


セレバーナは腕を組んだまま続ける。


「確かに私達の未熟な魔法では、城から抜け出る事は不可能だろう。なら、城に行かなければ良い」


「どう言う事ですの?」


セレバーナを見るペルルドール。

ツインテール少女は薄く笑んでいた。


「ひとつ訊こう。爺の孫と言う人物に会った事は有るか?」


「幾度も。彼は優秀な騎士ですから」


満足気に頷いたセレバーナが「なら大丈夫だな」と言って作戦を提案する。


「光線魔法で変装し、殲滅作戦の部隊に潜り込むって言うのはどうだ?隊長に直接会い、説得するのだ。優秀な騎士なら王女の言葉を無視しないだろう」


それを聞いたシャーフーチが呆れて笑う。


「命懸けでバカをやるつもりですか?しかも魔法の実践をダシに人助けとは。いやはや」


「いけませんか?シャーフーチがダメだと仰るのなら、私達は絶対に動けません。その場合は諦めます」


普段通りの無表情で言うセレバーナ。


「もっとも、行くかどうかの最終判断をするのはペルルドールだがな。どうする?」


「わたくしは……」


俯いたペルルドールは、円卓の木目を見詰めながら良く考える。


「取り合えず、この手紙を書いた女騎士に会いたいです。下の村まで来ている様ですので、詳しく話を訊かない事には判断出来ません」


「普通の師匠ならダメだと言うでしょうが、良いでしょう。許可します」


立ち上がったシャーフーチは、弟子達の表情を順に確認した。


「イヤナの言う通り、魔法の修行になれば問題は無いんですよね。精霊魔法の本場で女神魔法が使えれば、貴女達の実力は本物と言えるでしょう」


「修行を始めて間も無い我々に出来るでしょうか」


セレバーナが訊くと、シャーフーチは教師の様に円卓に手を突いて応えた。


「出来ないのが普通ですね。しかし、パワースポットの外で魔法を使ってみる経験も必要だと思われます。外で魔法が使えれば自信にもなりますし」


修行の場である石造りの遺跡は、女神魔法の魔力が集まるパワースポットのひとつだ。

最果ての村はその近所であるからパワースポットの範囲内だとシャーフーチは言う。


「ずっと遺跡に籠っていれば良いと言う訳でもないですからね。覚悟を持って行くのなら遠出も許可しましょう。ただし、全員で行く事。それが条件です」


「覚悟とは?」


ペルルドールが訊くと、シャーフーチは小馬鹿にする様な表情を金髪美少女に向けた。


「おや、そこまで考えが及んでいませんでしたか。では、もうひとつ条件を追加しましょう。この中の誰か一人でも死亡した場合は今後の遠出を禁止します」


「死亡……」


ペルルドールは少女達を見渡す。

場合によっては、仲間の誰かが死ぬ可能性が有るのか?

考えてみれば当たり前だ。

国を上げた殲滅作戦に闖入すれば、第二王女と言えども無事で済む保証は無い。

やはり行かない方が良いのか?


「私は構わないが、結構きつい条件だな。例の紙片は貰えるのでしょうか」


セレバーナが訊くと、シャーフーチは頷いた。


「例によって、一人一枚。ただし、現地で精霊魔法の秘密を教えて貰える流れになった場合は私を呼んでください。特別にもう一枚だけ差し上げましょう」


「ふふ。なるほど。シャーフーチは精霊魔法に興味が有る、と言う訳ですね」


「貴女達の命が掛っているので、本当は止めたいんですけどね。でも、この国の騎士が王女を手に掛けるとは思えないので、まぁ良いかなと」


「また良い加減な……」


呆れた溜息を吐いたペルルドールは、しかし微笑んだ。

確かに騎士達は信用出来る。


「だが、数十万人を殲滅させる作戦だ。部隊もそれなりの規模だろう。下っ端は雇われた荒くれ冒険者の場合が有る。安全は無いが、二人はどうする?」


セレバーナが訊くと、サコは力こぶを作った。


「四人揃ってじゃないと行けないんだろう?なら、行かない訳にはいかないよ」


「みんなが行くなら私も行くよ。サコの家に行った時、私は留守番だったからね。今回は行く」


エヘヘと笑いながら言うイヤナ。

赤髪少女は自主的に家事を仕切っているが、最近の長雨に好い加減ストレスが溜まって来た。

ここらでひとつ遠出がしたい。


「決まりですね。では、紙片の準備をするので、少々お待ち下さい」


リビングを出て行くシャーフーチ。


「私達も旅支度をしよう。ヴァスッタ族の街はこの国の南の端に有ってかなり遠いから、出発するつもりなら早目が良い」


地理にも明るいセレバーナに頷く少女達。


「庭の畑をそんなに長い間放置する訳にも行かないからな。さっさと済ませるぞ」


窓の方を見ると、いつの間にか雨が上がっていた。

しかし雨季が終わった訳ではないので、少しくらいなら野菜達も許してくれるだろう。

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