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食事を終えたセレバーナは、椅子に座ったまま完全に眠ってしまった。
背筋を伸ばして目を瞑り、ピクリとも動かない。
なので、サコが代わりに口を開く。
「良くない知らせかな?」
手紙から視線を上げたペルルドールは、眠っているセレバーナを見てから顔をサコに向けた。
「内容を簡潔に纏めますと、わたくしがここに来たせいでヴァスッタ族が殲滅されるらしいのです。作戦の決行日は、明後日」
ボンヤリと話を聞いているイヤナに顔を向けて続けるペルルドール。
「今すぐ城に戻って詳しい事情を調べ、この殲滅作戦を止めて欲しいそうです」
「罠だな。ウソの情報でペルルドールを城に戻すつもりだろう。戻ったら二度と出られない」
セレバーナが声を出した。
半目ながらも金色の瞳がペルルドールに向いている。
起きていたのか。
「わたくしもそう思います。ですが、殲滅作戦の隊長が爺の孫なんです。そして、この手紙を書いたのは、わたくしが良く知っている女騎士」
「信用出来る人物なのか?」
「物心が付く前からの護衛です。彼女がわたくしを裏切ったのなら、わたくしはもう誰も信用出来なくなるくらい信頼しています」
「ふむ。済まないが、その手紙を読ませて貰っても良いかな。なぜヴァスッタ族が殲滅されなくてはならないんだ?」
「それについては全く書かれていませんが、読んでみてください。起きてますか?」
ペルルドールはセレバーナに手紙を渡す。
「神学校時代は、寝ながら授業を受けるのが私の得意技だった。問題無い」
セレバーナは薄目で手紙を読む。
その間に朝食の続きを食べるペルルドール。
ソラマメのスープが冷め掛けている。
「なるほど。殲滅作戦を止めて欲しいとだけしか書かれていないな。悪く取れば、罠だとしか思えない」
あっと言う間に読み終えた手紙を畳むセレバーナ。
「良く取れば、どうなりますか?」
「ただの業務連絡。大量殺戮を止める可能性を発生させる為のな。ペルルドールの権力を頼っているのだ」
「わたくしも同じ事を思いました。問題は、無関係なヴァスッタ族がどうして絡んで来るのか、ですが」
「そのヴァスッタ族って、どんな人達なの?」
イヤナが訊く。
「話が長くなりますが、説明しなければなりませんわね。――五百年前に魔王軍に滅ぼされた小国を統一しつつ大きくなったのが我が王国です」
セレバーナの反応が悪いので、ペルルドールが応える。
手紙の内容を発表しなさいと師に言われていたし。
「ですが、魔王軍に滅ぼされた国の位置がバラバラで、結果的に大きな王国の中に小国が無数に有る状態になりました」
「へぇ。王国の中に外国が有ったのか。面白いね」
サコが暢気に驚く。
「面白くは有りませんわ。その外国を潰して行った結果、この国は軍事大国になったのですから。結果、この国の歴史は戦争塗れ」
「潰しちゃったの?どうして?」
興味津々で聞くイヤナ。
「政治的に問題が有ったんでしょうね。簡単に言えば目障りだった。国内を統一した後は、戦火は外側に向かいました。なぜか戦いが終わらなかったんです」
ペルルドールは水を一口飲んで続ける。
「周辺に戦争を仕掛け、その領土を更に広げました。抵抗した国は徹底的に潰されたそうです。そんな戦争が何百年も続きました」
「ははぁ。凄く遠いうちの村がこの国の中なのも、昔に戦争したからなのかな」
イヤナは貧しい故郷の村を思い起こす。
故郷の村と最果ての村では、微妙に風習の違いが有る。
女神信仰は一緒だが、ここに来て初めて入浴と言う行為を体験した。
勿論、身体を洗う水浴びならしていた。
しかし、それは綺麗な川や池で行う。
お湯に入る為の湯船の存在を知った時の衝撃たるや、正にカルチャーショックだった。
元々が外国だったのなら、そう言った文化に違いが有るのは当然だろう。
「争いを厭い、無条件降伏した国も有ります。ヴァスッタ国も、そう言った国のひとつです」
「ふむふむ」
「降伏した国は、特例として国の名前を残す事が出来ます。なんとか族、と言う風にです」
「それでヴァスッタ村じゃなくてヴァスッタ族なんだ」
なるほどー、と頷くイヤナ。
「そして、今回の様な殲滅作戦が行われる事は、昔は稀に有ったそうなんです。王国から独立しようと反乱が起こった場合が主な理由です」
「国に盾付いたら潰される、と言う訳だね。でも、最近はそう言うニュースは無いと思うけど」
そう言ったサコに頷くペルルドール。
「平和ですからね。現代は生活も安定してますし、領土を広げ切っているので外敵も居ない。反乱して独立する意味が無いんです」
「そう割り切っている国は少ないがな。どこも祖国の復興を望んでいる。だから政治的な小競り合いは有るが、反乱に意味が無いので戦争は起こらない」
手紙をペルルドールに返すセレバーナ。
「小国が軍事決起しても、ただの犬死になるのは目に見えているからだ。しかも、ヴァスッタ族は祭好きで陽気な民族。反乱するとは思えないな」
「実は、そうでもないんですよね」
マイペースに朝食を食べていたシャーフーチが口を挟んだので、神学生であるセレバーナが応える。
「教会の方ですか?それこそ殲滅作戦とは無関係でしょう」
「どう言う事ですの?」
小首を傾げるペルルドール。
「知らないのか?彼等は女神を信仰していない。つまり、独自の宗教を許されている数少ない存在なのだ」
「そんな人達が居るんだ」
サコが驚く。
外国なら異教徒が居ても当たり前だが、国内では有り得ないのが常識だと思っていた。
「それが降伏する条件だったんだな。つまり、無条件降伏じゃないのに、国名を残す事を許されているんだ」
「特例、ですか。それが今回の作戦の理由?確か、そこが降伏したのは数十年前。歴史の視点で見れば最近です。問題が生きている可能性は有ります」
ペルルドールが深刻な顔になる。
しかしセレバーナは興味が無さそうにアクビを噛み殺した。
「可能性は有るが、やはり今更感が強いな。だが、国民が動揺しない理由が必ず有る筈だ。それが発表されるのは作戦が終わった後だろうが」
「ヴァスッタ族って何人くらい居るの?いや、人数が少なければ殺されるのは別に良い、って訳じゃないけど」
円卓に両肘を突いているイヤナが訊く。
「元々はひとつの国だが、そんなに人数は居ない。二十万か三十万人くらいかな」
「そ、そんなに大勢の人を殲滅するの?殲滅って皆殺しって意味でしょ?するの?出来るの?」
半笑いで言うイヤナ。
事の重大性がいまいち理解出来ない。
朝食を食べ終えたシャーフーチがスプーンを置き、降って湧いた大事な情報の扱いに困っている少女達にヒントを与える。
「実はですね、彼等は私達とは違う系統の魔法を使うんですよ。異教徒であり続ける事に拘った理由がそこに有ります。それが問題なのかも知れません」
師に金の瞳を向けるセレバーナ。
「その魔法とは?」
「確か、精霊魔法。女神魔法とは完全に別物なので、私にも良く分かりません」
「ふむ……」
腕を組むセレバーナ。
目から眠気が消えている。
「私も、出来るなら止めて貰いたい。我々とは全く違う文化が消えるのは寂しいじゃないか。ヴァスッタ族の民間人には無関係な話だし」
そう言ったセレバーナは、大袈裟に溜息を吐いた。
「しかし悲しいかな、魔法の修行とは無関係だ」
「そうですね」
シャーフーチが涼しい顔で頷く。
「そうですわね。これは国の問題ですわね……」
ペルルドールは、唇を噛みながら頷いた。
修行中である自分に出来る事は何も無さそうだ。
魔法使いの弟子である一人の少女には。




