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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第四章
108/333

1

青い瞳の美少女が石造りの古い遺跡の窓を開けた。

外はシトシトと雨が降っている。

太陽が全く顔を出さないので、薄暗くて肌寒い。

気温が上がらないので湿気が遺跡に籠り、金色の髪がしっとりとしてしまっている。


「……ふぅ」


ペルルドールは吐息の様な密かな溜息を吐き、窓に背を向けた。

リビングの中心に置いてある巨大な円卓の上で分厚い本を広げ、頬杖でそれを読んでいる妙に量が多い黒髪をツインテールにした少女。

すぐ隣に有るキッチンで手の掛るお菓子を作っている、黄色いカチューシャを赤髪に乗せているおさげの少女。

リビングを出てすぐの廊下で延々とスクワットをしている、長身の茶髪少女。

仲間達はそれぞれの趣味で時間を潰している。

つまらなそうにアヒル口になったペルルドールは、リビングの隅に置いてある藤椅子に座った。

自分もヒマ潰しが出来る趣味を持った方が良いな。

出来れば生産的な物を。


「ペルルドール。ちょっと良いか?」


神学校の制服を着ている黒髪少女が本から顔を上げ、茶色のワンピースを着ているペルルドールに金色の瞳を向けた。


「何ですの?」


「その椅子に座ってみたいのだが、良いだろうか。少し気になる音が聞こえた」


「音……?まぁ、座るのは構いませんわよ」


黒髪少女と金髪少女は立ち上がり、籐椅子の前で並ぶ。


「私の方が体重が軽いから、力強く扱わないと確認出来ないかな」


その言葉にムッとするペルルドール。


「あら。セレバーナの方が軽いって、どうして分かるんですの?量り比べた事は無いでしょう?」


「単純に体格の差だ」


黒髪少女は頭一個分くらい背が低い。

これで小さい方が重いとなると、ペルルドールがガリガリに痩せているか、セレバーナがおデブちゃんと言う事になってしまう。

この遺跡に来てからは質素な食事で過ごしているので、セレバーナが太ると言う事態は起こり得ない。


「では、失礼して。少々無茶をするが、気を付けるので許して欲しい」


小さくて痩せているセレバーナは、持ち主よりも偉そうに椅子に座った。

その格好で肘掛けを強く握り、身体を前後左右に揺すった。

当然、籐椅子がギシギシと鳴る。


「何をしてますの?」


「この椅子はバラバラの状態で持ち込み、このリビング内で組み立てたんだよな?」


「ええ」


「だからだな。恐らく湿気のせいだと思うが、バランスが崩れている。調整しないとどうなるか分からないな」


椅子から降り、腕を組むセレバーナ。


「どうなるかって、どうなりますの?」


「すぐ壊れる事はないだろうが、確実に寿命の減りが早くなる」


「椅子の、寿命……?」


言葉の意味が分からなかったペルルドールは、小首を傾げながら聞き返す。


「例えば、十年使える物が、五年で壊れる、と言う事だ。まぁ……」


セレバーナは、言い掛けて口を噤む。

話を聞く体制になっていたペルルドールがつんのめる。


「何ですの?言葉を途中で止めるのは悪いクセですわよ」


「む。済まない。いや、何。我々は魔法使いになる為の修行を行っている訳だが」


窓に顔を向けたセレバーナは雨を見る。

エルヴィナーサ国は雨季真っ盛り。

何日も続いているこの雨は、これから数日先まで降り続けるだろう。


「その修業はいつ終わるのかと思ってな。この椅子が壊れる前に終わるのだろうか」


「それは……」


ペルルドールにも分からない。

むしろこっちが訊きたいくらいだ。


「お師匠様に伺ってみたら?お菓子が焼き上がるまでヒマだから、呼んで来ようか?」


赤髪少女がキッチンから出て来た。

質素で継ぎ接ぎだらけのドレスの袖を捲っていて、両手が白い粉で汚れている。


「そうだな。気になったら調べるのが一番だ。頼んだ、イヤナ」


「うん、呼んで来るね」

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