ステマ 48
「ほにょぽろーん!」
週明けの月曜日。私立屋良堰田高等学校。そのお昼休み。
屋良堰田高校購買部一年――吾斗廣告の日常は、今週も拡声器の喧騒をもって破られた。
一つだけ今までと違うのはその奇妙な挨拶に雷鳴が轟くおまけがついたことだった。
高校生活随一の癒しの時間のお昼休み。食堂の一角で空腹にお腹をかき鳴らした生徒達が野獣と化して群がっていた。
「ほにょぽろーん! 皆、ほにょぽろーん! よろしくね、ほにょぽろーん! あっ! 後で新曲披露するね!」
購買部のアイドル――桜ステマがいつもの愛想を振りまき、ついでに雷鳴も振りまいていた。
一つ一つは小さな雷でもステマが拡声器越しに挨拶する度に方々に飛んでいく。食堂でお昼に勤しむ生徒達が頭上を飛び交う小さな雷に何事かと振り返った。
「ステマ! 販売途中で、電撃を使うのは止めろ!」
購買部のいつもの活動。お昼休みの昼食販売。食堂の一角に陣取ったステマ達は、先週に増して群がる生徒達に昼食を売りさばいていた。
そしてステマは電撃を好き勝手に放っていた。
「だって、勝手に出るだもん。仕方ないよ、ほにょぽろーん」
「おわっ! その挨拶を言わなきゃ、出ないだろ!」
ステマの電撃が廣告の頬をかすめた。廣告の顔も腕も、そこら中に絆創膏が貼られていた。
「むむ! これは私のアイデンティティ! ねえ、皆?」
「うおおぉぉぉおおおおぉぉっ! そうだよ、ステマちゃん!」
昼食とステマに群がる男子生徒達がよく訓練されたようなに動きで一斉に手を振って応える。
「そうだよ、ほにょぽろーん!」
ステマが皆に手を差し出しながら応えるとその指先から電流がほとばしった。
「流石ステマちゃん、ホントに痺れる! ほにょぽろーん!」
「いや、お前ら! それ単に感電してるだけだから!」
ステマの挨拶に打たれた特定男子達が身も心も痺れさせ食堂で幸せそうに身を震わせた。
「むむ……何度観察しても、原理が不明なのです……」
ステマの背後には白衣に身を包んだ桐山花梨が床でヒザを抱えてうずくまっていた。
「桐山。それを科学的に解明するつもりか?」
「ほにょぽろーんと言えども、放電現象なのです。科学的に解明できるはずなのです」
花梨はヒザから手を離し、テスターらしきものを両手で掲げた。その機器を手にステマが放電する度にそれを背中に押し付ける。
「ごくろうだな。まあ、頑張れ」
「はいはい! ステマリン王国名物! 雷おこしはこちら! こちらですよ! ほにょぽろーん!」
香川魅甘が昼食とはまた別の和菓子らしきお菓子を手に群がる生徒をさばいていた。
魅甘の手元から米と落花生を水飴で固めたお菓子が飛ぶように売れていく。
「香川! てめえ、何勝手に名物なんて決めてんだ!」
「あら、何で吾斗に許可なんて求めないといけないのよ?」
「俺の生まれ故郷だよ! 異世界だよ! そんな定番お土産みたいな和菓子! ある訳ないだろ!」
「あら、ステマちゃんに訊きなさいよ」
「うぅん。あったような気がするな。ステマリン王国名物――雷おこし!」
「ほら、王女様のお墨付きよ!」
「今適当に答えただろ、ステマ!」
廣告がバンバンと販売用の長机を叩いて抗議の声を上げる。
「――ッ! うるさい! 我の販売の邪魔をするな! インゼンディボォ!」
それまで黙々と商品を売りさばいてた田中エリザベスが全身から魔力の光を放った。
「うお! おばはん! こんなところで、魔力を解き放つな!」
「――ッ! おはばん呼ばわりは許さん!」
田中が更なる光をその内から解き放った。隆々たる筋肉と、煌々たる魔力が、田中の体を更に凶悪に形作っていく。
「てか、何普通にパートに来てんだよ! あれだけの騒ぎ起こしたのに!」
「我が家の収入は、我のパート代のみ……誰も我の家計の邪魔はさせん……」
「そうかよ! 別にいいけどよ! 別にいいけどよ! てか、神輿はどうした?」
「神輿先生? 神輿先生なら、行方不明ですわよ」
いつの間にかお客の中に紛れていた御崎一途が廣告に振り返る。一途は真っ直ぐに整え直した髪を軽く左右に振って廣告に答えた。
「そうか……」
「そうですわ……」
「ま、それがまともだな……で、御崎?」
「何ですの?」
「御崎……お前、雷おこし好きなのか?」
廣告に答える一途はちょうど魅甘の手から小銭と交換でお米と落花生の和菓子の受け取っているところだった。
「――ッ! 別に! たまたまよ! たまたま! 美味しそうに見えた――もとい、値段相応の味がするかどうか! クラス委員長として、確認する必要があると思っただけですわ!」
「そうかよ」
「そうです!」
「一途ちゃん! ほにょぽろーん!」
「ああ、私の雷おこしが!」
ステマの電撃が一途の購入したばかりの雷おこしを直撃した。一途の手の中で雷おこしが袋ごと破裂する。
「ごめんごめん! 大丈夫! ステマリン王国の名物なら、もっといっぱい用意してるし!」
「そんな問題じゃありませんわ! 待ちなさい! そもそも神聖な校内で、電撃し放題とはどういう了見ですの!」
ステマが逃げ出し一途がその後を追いかけて走り出した。
「あはは! ごめんごめんって!」
元気よく食堂を駆け逃げ回るステマ。その白い太ももに光るのはやはり『広告募集中』の文字。
その文字を踊らせて逃げる広告の募集主自身が広告から抜け出して来たかのようだ。
ステマは何処までも爽やかな笑みで駆け回っている。
「これでも、喰らいなさい!」
一途が食堂のテーブルの上に置かれていた醤油ビンを手に取り投げつけた。
「やれやれ……まだしばらくは、ステマに振り回されそうだな……」
廣告はしばしその文字列に見とれた後に呆れたように呟き、
「今日も大出血サービス! ぶはっ!」
ステマは醤油ビンに顔面を直撃されまたも鼻から大出血サービスをする。
「また、やってやがる」
「では、聞いて下さい! 私の新曲――」
廣告が呆れたように呟くが、ステマはすぐに鼻血を振り払う。
そしてステマは今日も元気に、
「『また、会いたいね[PR]』!」
皆に笑顔とステマを振りまいた。




