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鬼火、灯る夜  作者: 柧貊
4/9

第四話

「…………」

太陽の日差しが、明障子(あかりしょうじ)から零れ、鳥の声が聴こえた。

何だか俺は頭がボーッとして、暫く天井を見つめていた。

数分程経った時。

「……あっ」

俺は昨夜の出来事をハッと思い出し、慌てて隣の布団に視線を移した。

布団の上に……凛はいなかった。

「!! 凛!!! どこだ!?」

俺は勢いよく飛び起き、凛の姿を探した。

「千尋?」

だが凛は 案外すぐ見つかった。

見つかったというか、いた。

何事も無かったかのように 水屋で料理をしていた。

「ちょっと待って。 もう少しで朝食できるから」

「…って! のんきに料理してる場合かよ!?」

「え?」

「? …もしかして昨日の事 覚えて無いのか?」

「………あ…」

「…凛?」

「…覚えてる。」

「! なら…」

「千尋、ごめんなさい。 私実は知ってた…」

「え? な、何を?」

凛が何を言ってるのかよく分からなかった。

「私自身が患ってる病気。」

「…え?」



「私………赤痢(せきり)っていう病気なの。」



「………え」

「実は結構前に分かってたの。 昨日の事も…あれが初めてじゃないんだ。昨日はいつもより病状が酷かっただけで」

「え…じゃあ…」

あの血は…………

「黙っててごめん。でも…この病気、千尋に言うの恥ずかしくて、ずっと黙ってた」

「そ……」

「こんな汚い病気持ってる女なんて…嫌でしょ?」

「そんな……」

「それで 昨日千尋にばれちゃったから、恥ずかしくて…居てもたってもいられなくなったというか………」

「…………」

「…ごめんなさい。こんな気持ち悪い病気を患っちゃって。」

「………い…」

「? 千尋…?」

「そんな事ねぇよっっ!!!」

いつの間にか 俺は大声をあげていた。


「え……っ」

「どんな病気を患っていようが、凛は凛だ! 俺が惚れた女って事には変わりねぇ! だから……自分を責めるな。気持ち悪いなんて言うな!」

「…………っ」

「これから二人で頑張って 病気を治そう。俺ももっと医療とかの勉強するから。 絶対、俺が治してやる!」

「千尋……っ」

「でさ、治ったら…」

「ん……?」

「け、け…」

「け?」

「け…っ、結婚しよう!!!」

この時俺は ずっと言いたかった言葉をどさくさに紛れて言ってしまったのを覚えている。

「……………」

え、無言!?

「……凛?」

「ふふっ…… 分かった、じゃあ治ったら…貰って下さいね?」

「! お、おう!!」





…これが 俺たちの三年前の夏の話。

そう。凛は赤痢を患っているので、凛の体に障る事は控えているのだ。

強く抱き締めたいけど、駄目なのだ。

「煩わしい……」

「え? 何が?」

「や、なんでもねぇよ」

もう一つ、煩わしい事がある。

それはーーー住む場所。


今 凛は廃れた神社の(やしろ)で暮らしている。

理由は、俺の家の辺りの空気より、神社の辺りの空気の方が澄んでいるのだ。

俺の家の近くには 汚い川やごみが大量に捨てられている所などが多く、環境が悪い。

だが神社は、社自体はボロいが周りに人間もおらず 静かで綺麗なので、

俺の家より社にいた方が 環境も良くて体にいいかな、と思ったからだ。

だから今 俺達の住処は離れている。

俺もできるならこの社に住みたいが、生憎社は狭く、凛だけで限界だ。

だから俺は 昼間や時々夜などに、社に顔を出している。

「しっかし…赤痢に効く薬、あんま無ぇなあ」

「一応 薬草とか飲んでるんだけど……」

「んー… 他の村まで行って 医者に聞いてみるかな…」

「駄目よ。鬼慣れしてるのはこの村だけなんだから。」

「だよなあ……」

本当 鬼って面倒くせえな。

「お…っと、そろそろ夕方か。」

「もう帰る?」

「ああ、悪い。ちょっと一旦戻るわ。」

「うん、また後で」

「おう」


俺は赤痢についてもっと調べる為、一度家に戻る事にした。



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