幼少期の2人
初投稿です
「あ!ルーシーさま!!」
第二金曜日の午後1時。王国の歴史の勉強中にどこか落ち着きのない様子で窓の外を見渡していたセラフィナは、太陽の光でキラキラ輝く黄金を見つけて、一目散に部屋を飛び出した。
「セラフィナ様!お待ちください!」
セラフィナが幼い頃から親代わりに育ててきた侍女が制止するが、すでに聞こえていないのは侍女も分かっていた。
フローリア王国第3王女のセラフィナ。今年で5歳になった彼女は普段はとても気の利く子で、彼女の愛くるしい容姿と相待ってさながら天使のようだと国中の人気者である。
フローリア王国の王族は皆、赤系の髪や目をしている。故に王国では、赤や赤に準ずる色を好み、お祝いごとや願いごと、勝負ごとなど、ありとあらゆる大切な場面で赤い色を身に纏う。
一方セラフィナは生まれつき色素が薄く、撫子色の髪に薄紫色の瞳をしている。
本人は王である父や兄姉のように、鮮やかな赤い髪や瞳に生まれなかったのは自分が出来損ないだからだと劣等感を抱いているが、その姿はまるでこの世のものとは思えないほど美しい。
「ルーシーさま、ごきげんよう」
3階の自室からあっという間に庭園まで駆け降りてきたセラフィナは、肩で息をしながら精一杯のカーテシーを披露する。
「セラフィナ様、こんにちは。走ってきてくれたんですか?」
優雅な笑みでセラフィナを出迎えたのはアッシュフォード公爵家嫡男のルシアン・アッシュフォード。
セラフィナより3歳年上の8歳で宰相である父公爵と共に、第二金曜日と第四金曜日に登城する。将来公爵として頻繁に登城することになるだろうことを鑑みて、今のうちから慣れさせるためにという名目で登城してはいるが、現公爵の思惑は別のところにあるようだ。
セラフィナにとって彼と会えない2週間は途方もなく長く感じるが、彼と次会う時に素敵な淑女になれているようにと、ダンスに語学に歴史に計算、どこに嫁ぐことになっても恥ずかしくないようにと朝から晩まで続く過酷な教育にも真面目に取り組んでいる。
「ルーシーさまに会いたくて、走ってしまいました…」
「そんな可愛いことを言われてしまっては、怒るに怒れないですね」
頭脳明晰、容姿端麗、謙虚であり誠実、要領もよく、気配り上手で、およそ8歳とは思えない落ち着きがある。この世のありとあらゆる褒め言葉は全てルシアンのために存在するのではと本気で疑われているルシアン・アッシュフォードさえも、セラフィナには甘い。
「セラフィナ様、走っては危ないと、いつも言ってるではありませんか」
やっとのことでセラフィナに追いついた侍女のセリーヌは息も途切れ途切れになりながら抗議する。
今年で25歳になるセリーヌは実のところ、20歳の頃から自分の娘のように育ててきたセラフィナのことが可愛くて仕方ない。
そんなセラフィナが1番楽しみにしているこの日くらいは、ルシアンと遊ばせてやりたいという思いももちろんあるのだが、自分が言わなければ他に言う者が誰もいないのだ。
今頃セラフィナの歴史の先生も3階の窓からこのやりとりをにこやかに見守っているだろう。
セラフィナがルシアンのことを気に入っているのは、使用人の中ではもはや当たり前の光景だった。
「セリーヌ、ごめんなさい」
「セラフィナ様、ルシアン様に会えて嬉しいのはわかりますが、歴史の勉強中ですよ」
幸先考えずに飛び出してしまった恥ずかしさで俯くセラフィナの瞳に、ふと膝をついたルシアンが現れる。
「セラフィナ様、プレゼントです」
「えっ…!」
ルシアンから渡されたのは、白い百合の花だった。
「セラフィナ様に似合うと思って用意しました。
歴史の授業が終わったら迎えに行くので、待っていてくれますか?」
「ありがとうございます、ルーシーさま。お待ちしております!」
「用事が済んだら、すぐに伺います」
ルシアンが綺麗に礼をして歩き出したあとも、セラフィナはしばらく背中を見つめていた。
背筋をピンと伸ばして歩く姿、笑んだ時に甘くなる琥珀色の瞳、太陽よりも眩しい黄金の髪、自分と話す時に目線を合わせてくれる優しさ、そのどれもがセラフィナは大好きだった。
ルシアンが忙しいことも、セラフィナは分かっている。今日だってセラフィナと遊ぶためにやってきたわけではない。
それでも手放せないくらい、大切な時間だった。
「セラフィナ様、そろそろ歴史の授業に戻らないと、ルシアン様をお待たせすることになりますよ」
「はっ!そうね、急がなくちゃ」
セリーヌの声掛けで、やっと余韻から抜け出したセラフィナは、3階の自室でのんびり待っている歴史の先生の元へ、百合の花を大事に抱えて戻るのだった。




