は、早くね?
お貞が嫁いで二か月が経った。
朝倉からは一回だけ手紙が来たが上手くやっているようだ。
お貞の旦那さん、孫八郎景信殿は一応長男坊らしい。
なので今のところ家の中での待遇は良いと手紙に書いてあった。
安心である。
しかしまさか妹に先を超されるとは。
俺ももう十五だし、この時代なら嫁さんの一人や二人…
「殿」
「うわっ」
後ろに久作がいた。その隣には下野守もいる。
いつの間に…気配消すのやめてよ。
俺が驚いた声を出したせいか、二人の目も大きく見開かれていた。
「ん…なんだ」
咳ばらいをして体を二人の方へ向き直す。
それにハッとしたように久作はいつもの顔に戻した。
こうしてみると兄・半兵衛にそっくりである。
「あぁ…もう春とは言え、そのように長い時外におられるとお体を崩されます」
「中に入られたほうがよろしいのでは」
二人が口々に言う。
確かに全体的に標高が高い美濃では、桜が咲く季節になってもなかなかに肌寒い。
現に薄着一枚で庭に出ていた俺は鳥肌立ちまくりである。
「そうするか」
俺は庭先から立ち上がった。
ふと俺を見ていた下野守が口を開く。
「朝倉に行った姫様のことがご心配ですか?」
「…そう見えるか?」
「はい」
よほど顔に出ていたらしい。
そういうポーカーフェイス的なの苦手なんだよね。
大体どんなことでもすぐ皆にばれる。
前世も多分そんな感じだった気がする。
「…心配だが、遠い地からでは何にもならないのだがな」
「そんなことは…」
「それに」
下野守の言葉を遮り、はっきりと言い切る。
「貞本人に大丈夫と言われてしもうたしな」
「私が悩んでいる場合ではない」
そうでもしないと前には進めない。
お貞の思いも無駄にせず、しっかり果たさせてやらなきゃ。
「…左様でございますか」
出過ぎたことを言いました、と言いながら下野守は頭を下げた。
別にいいのに。
そんなときである。
「と、殿ー!」
遠くからものすごい勢いで誰かが走ってきた。
ドタドタ走っているので床が抜けそうだ。
「稲葉伊予守殿?」
久作が目を凝らしながら呟く。
確かにこちらに突進してくる男は伊予守だった。
その顔はまさに鬼。
「との、殿!」
「ど、どうした?」
伊予守は大きく息を吐いた後、城に響き渡る声で言った。
「お、織田が攻めてまいりました!その数およそ六千!」




