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【完結】【連載版・書籍化準備中】結局、教室の隅っこでコソコソ盛り上がってる陰キャ貴族令息たちの話が一番面白い  作者: ミズアサギ
放課後

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第三十九話 侯爵令嬢・アデルの日記①

 

「何よ! なんで私だけ上手くいかないのよ!」


 アランと一悶着があったあの日。帰宅したアデルは、怒りと悔しさと惨めさとで感情がぐちゃぐちゃになっていた。


 アデルが生まれたルソー侯爵家は、元々は農業を堅実に経営するだけの目立たない伯爵家だった。

 しかし、婿養子に入ったアデルの祖父が、かなりのやり手で野心家だった。運良く当てた水脈のおかげで、安く手に入れた荒れ地は次々に立派な農地へと変わる。国内中が不作で苦しんだ年、これまた運よく実った農作物を王宮に献上したことが評価され、侯爵位を賜ったのだ。


 派手な美人を好んだ祖父は、アデルの父親、現ルソー侯爵にも派手で家柄の良い妻を与えた。父の妻となったアデルの母のおかげで、ルソー侯爵家の四姉妹は皆、ピンク髪で派手な顔立ちをしている。

 祖父は後継に、まだ成年に達していない祖父の甥の子どもを指名した。祖父は、おっとりして人が良すぎる一人息子を見限ったのだろう。アデルの父は、その子が成年になるまでの繋ぎの侯爵となった。継ぐ家がないので、アデルの姉三人はすでに他家に嫁いでいる。


 アデルが八歳の時、王妃からお茶会の招待状が届いた。まだ存命だった祖父はお茶会の意味を知ると大喜びした。

 それまで使用人の子どもたちと畑を駆け回っていたアデルは、招待状が届いた次の日から高位貴族のマナーを叩き込まれた。辛かったが、お茶会で恥ずかしい思いをするのはアデルだと諭されると、アデルは必死でマナーを学んだ。使用人の子どもたちとも遊べなくなった。


 王宮に仕えていたという家庭教師は、高位貴族のマナーの美しさや立ち居振る舞いの素晴らしさを毎日アデルに語った。今まで自由に過ごしていたアデルは、それを聞いて震え上がる。お茶会に参加するのが怖くて、嫌で嫌でたまらなかった。


 お茶会の日、父は心配そうな顔でアデルを見送った。付き添った祖父は王太子殿下に気に入ってもらえ、と馬車の中で延々と吹き込んでくる。

 そんなことを聞かされて、アデルは初めて着た派手で可愛いドレスも嬉しくなくなった。それに、マナーも身についていないアデルは笑いものになると思い込んでいた。


 そんなアデルだが、お茶会が始まるとすぐに、自分が一番目立つことに気がついた。ここには自分のようなピンク色のフワフワした髪を持つ子も、自分のように目鼻立ちがはっきりしている子もいない。周りの子は、上品だがドレスも顔も地味に見える。

 勝ったわ! アデルが嬉しくなってニコニコしていると、なんとクリストフが話し掛けてきた。


「君の髪は、いちごのような色だね」


 教室にレニーが現れて、クリストフが婚約を宣言した日。あのお茶会が出来レースと知らなかったのはアデルだけだと知った。当然、祖父は知っていただろう。しかし祖父は欲を出した。父は散々祖父に抗議をしたが、結局祖父の考えは変わらなかったのだ。


 お茶会が回を重ねると、参加する令嬢の数は減っていく。皆、頃合いを見て辞退していくのだ。

 そんな事情を知らないアデルは、自分が最後まで婚約者候補に残ったのだと単純に喜んだ。

 最終的に残ったのはアデルを入れて三人。一人は一度も姿を見せないので早々に辞退したと思っていた。今考えると、あれがレニーだったのだろう。

 あとは紺色の地味な髪をした侯爵令嬢。つまらなそうに参加しては勝手に読書まで始めてしまう、地味でわがままな子。正直、相手にならないと見下していた。

 ちょうどその頃に祖父が亡くなり、バタバタしているうちにお茶会もなくなり、そして学園への入学が決まった。



 迎えた入学式。クリストフと同じクラスと知ると、アデルは大喜びで意気揚々と教室に入った。そこであの地味な侯爵令嬢、シモーヌ・ベルジックと再会する。


 クリストフの婚約者はまだ発表されていない。最初こそシモーヌを警戒していたが、アデルがクリストフをはじめ、将来有望な高位貴族令息と楽しく過ごすのに対して、シモーヌはいつも一人でいる。その姿を見ているうちにアデルはシモーヌに優越感を抱き、気分がとても良かった。


 シモーヌにも取り巻きができたようだが、こちらとは比べものにならないような、冴えない家柄の令息たち。シモーヌとそれらは楽しそうに過ごしていたが、アデルは鼻で笑った。

 しかし、ジョルジュやジル、ベルナールまでもその輪に入って楽しそうにすると、さすがのアデルも黙っていられない。そこに追い打ちを掛けるように現れたレニー。


 前向き過ぎるアデルは、クリストフとの婚約を諦めるとすぐに方向転換をする。自ら、自分に相応しい婚約者候補を探し始めた。

 祖父が亡くなった今、自分の婚約者は自分で見つけたい。しかし思うようにはいかない。

 アデルの婚約者探しが行き詰まるのに対し、シモーヌの友人作りは順調そうだ。子どもじゃないのに何が友人作りよ。そんなことをしているうちに、すぐ行き遅れになるんだから。

 そうバカにしていたアデルだが、シモーヌに想いを寄せる男子生徒がいるとの噂を聞いた時、初めて心が折れかけた。


 そしてアランと話したあの日。シモーヌに折られかけたアデルの心は、シモーヌの兄アランによって完全に折られてしまった。


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― 新着の感想 ―
心の折れる原因:セミの抜け殻 というかちゃんとレニーの予定調和は親は知ってたんですね。 てっきり井の中の蛙かと。いや、レニーへの執着とかも知らなかったから、やっぱ情弱ではあったのかな?
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