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【完結】【連載版・書籍化準備中】結局、教室の隅っこでコソコソ盛り上がってる陰キャ貴族令息たちの話が一番面白い  作者: ミズアサギ
放課後

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第四十話 侯爵令嬢・アデルの日記②

 

 アデルはあの時、アランに少し文句を言いたかっただけだ。シモーヌが休んだせいで皆困っていると。

 アデルにはまったく影響はないのだが、レニーは文句一つ言わずにシモーヌの代役を務め、クラスメイトもレニーの手助けをした。体調管理も自己責任、そうでしょうって言うだけのつもりだったのに。

 あんな失礼な口を利くつもりはまったくなかったのに……。


 だって仕方がないじゃない。とんでもなく顔が良かったのだから。


 シモーヌの兄は見目麗しいとは聞いていたが、所詮は地味なシモーヌの兄だ。ずっとクリストフに夢中だったアデルは、アランの見た目なんて気にしたこともなかった。

 実際に目の当たりにしたアランは、アデルが今まで出会った男性の中で、ずば抜けてハンサムだった。

 サラサラした紺色の髪と、吸い込まれそうな濃紺の瞳はシモーヌとまったく同じ。

 だが近衛隊としての自信なのか、一五歳のアデルからすると大人の色気がとにかく凄い。色気にむせかえる体験をしたのは初めてだ。呼吸も鼻息も荒くなったアデルは、舞い上がった挙げ句に、あの大失態を演じることになった。



 はぁっとアデルが何回目かのため息をついていると、アデルの父であるルソー侯爵が帰宅した。アデルは玄関ホールまですっ飛んで行き、驚く侯爵に抱きついた。


「お父様! もう無理です。アデルは学園をやめますっ!」


 侯爵は、今では甘えてくることも少なくなった末娘に突然抱きつかれて驚いた。驚きながらも、騒ぐアデルを書斎まで連れて行く。

 侯爵からは、婚約者候補を外れてからのアデルが、どこか無理をしているように見えていた。


「殿下の婚約者のことを話してなかったのは、本当に申し訳ない。ごめんね、アデル」


 アデルは泣いているのか、書斎のソファーに座っても、侯爵の腰に抱きついたまま顔を上げない。

 アデルはクリストフの婚約者になれなかったことを未だに悲しんでいる。そう思い込んでいる侯爵は、アデルを思って心を痛めた。あの時、父に口止めされようとクリストフには心に決めた相手がいると話しておけば、娘は学園をやめたいというほど落ち込まなかったかもしれない。


「残念ながら、私は父と違ってアデルの納得するような相手を探す人脈がない。そうだ、学園にアデルのお眼鏡にかなう生徒がいたらお父様から……」


「すでに全員に声を掛けたわ」


 侯爵が言い終える前に、顔を伏せたままのアデルが冷たく言い放つ。侯爵は耳を疑った。


「え? すでに? 全員? アデルが?」


 クリストフ殿下を思って過ごしていたんじゃなかったのか? アデルの言う全員が何人を指すのかはわからないが、そんなに積極的に何をしていたのだ、この娘は。

 侯爵は理解できずに、腰に抱きついたアデルの頭をただただ撫でることしかできなかった。


「お父様、お願いがあるのっ!」


 アデルが急に、ガバッと頭を上げた。


「こうなったらクラスメイトの中で、アデルが一番早く結婚するわ!」


 また突拍子もないことを言い出したな、と侯爵は苦笑いしたが、侯爵の目をまっすぐに見据えるアデルは本気のようだ。


「結婚するなら卒業してからでもいいだろう? アデルはなぜ、そんなに婚約や結婚を急ぐのだ? せっかく学園に入ったのだから、勉強やお友達と……」


「お母様に……お母様みたいになりたいの! はやくお父様のような優しい人と結婚して、お姉様たちみたいに可愛い子どもをたくさん産んで、楽しい家族を作りたいの!」


 諭す言葉を遮りきっぱりと言い切ったアデルに、侯爵は胸が苦しくなった。



 アデルの母親はアデルが三歳にもならない頃に亡くなった。

 アデルの記憶には、甲斐甲斐しく母の世話をする父の姿が強く残っているのだろう。夫人を亡くし多忙を極めた侯爵は、アデルに寂しい思いをさせたことを今も後悔している。その侯爵に代わって寂しがるアデルの面倒をみたのが、姉たちや使用人、その子どもたちだ。

 王都に出てからは、王太子の婚約者を狙い(したた)かに育ったアデルだったが、家族や親しい人たちから受けた愛情はしっかりと心に根付いているのだろう。侯爵は目の奥が熱くなった。

 しかも自分のような男と結婚したいと言う。父親としてこんなに嬉しいことはない。侯爵はアデルを抱きしめた。


「いや、婚約も結婚もまだいい! アデルはずっとお父様の娘でいてくれっ!」


「断るわ」


 アデルは即答し、固まる侯爵の腕からスルッと抜け出した。そして侯爵の向かいのソファーにドカッと腰掛けた。


「そうね。爵位は子爵以上。いえ、食べるに困らないなら……ううん、たまに贅沢できるならなんでもいいわ」


 呆然とする侯爵のことなど気にする様子もなく、アデルは続けた。


「あとは、そうそう。お相手の年齢は気にしません。でも、後妻はいやかな」


「アデル?」


「第二夫人もいや。相手のご両親との同居は大歓迎よ。私は、明日にでも嫁げるわ」


「アデル、聞いて?」


「そうよ。もう、嫁いじゃいましょうよ! 婚約は王宮の調査とか許可とか色々うるさいんでしょう? 先に嫁いでからお相手に考えてもらいましょう。何なら既成事実……」


「アデルッ!」


アデルッ!


お読みいただきありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
アデル嬢… めっちゃ良い子やん…   ウチの息子の嫁に来る? まだ幼いけど笑
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