第十四話 シモーヌと陰キャ貴族令息との再会
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なかなか愛娘を離さないブライアンを振り切り、シモーヌは侍女のアンと共に無事王都のタウンハウスに戻ってきた。そして、あっという間に二学期を迎えてしまった。
新学期には良い思い出はない。シモーヌは緊張しながら扉をそっと開けて、なるべく目立たないように教室に入った。
「おはよう、シモーヌ」
「シモーヌじゃん! おはよっ!」
「おはよう。元気そうで何より」
すこし緊張しているシモーヌに、教室の後ろからフランシスとジャン、ビクターが笑顔で手を振った。シモーヌは嬉しくなって早歩きで三人に近づいた。
「おはよう。ジャンとビクターは真っ黒に焼けましたね。フランシスは……白すぎない?」
三人に近づくにつれて、シモーヌは三人の肌のコントラストに唖然とする。
「俺はね、お祖母様の家に遊びに行ったんだ! 山があって毎日虫採ってた!」
そう言って笑ったジャンは、少し焼けた肌に白い大きな前歯が映える。
「実家で兄たちに稽古をつけてもらった。暑かったから毎日上裸だ」
と、ビクターは真っ黒に日焼けした腕を見せる。問題はフランシスだ。なんだか最後に見た時よりも青白い。
「毎日毎日、薄暗いうちに家を出て、カフェや雑貨屋で店番さ。もちろん、タダ働きだけどね」
フランシスは疲れた顔で言う。ラザノ伯爵家が持つ商会は、最近フランシスの兄たちが経営に加わり業績が上がったと聞く。実家でのんびりしていたシモーヌからすると、フランシスの疲れた顔は、少し大人に見えた。
「そうそう。皆さんにお土産が」
そう言ってシモーヌは。鞄の中から例のジャムの瓶を三つ取り出した。
「うちの領地でしか採れない果物のジャムです。まだ王都には流通していないのですが」
三人は薄いオレンジ色の瓶を手に取り、珍しそうに観察している。
「これ、本当にもらってもいいの?」
フランシスが遠慮がちに言った。
「もちろん。まだたくさん作れないので、王都では食べられませんよ」
「じゃあさ、今日のランチのパンにつけて食べてみようぜ!」
ジャンの弾んだ一言で、四人は昼休みが楽しみになった。
「何これ!? うんまいっ!」
昼休み。中庭のベンチは人が多いので、四人は教室でランチをとることにした。さっそくパンにジャムを塗りたくり、豪快に頬張ったジャンが叫んだ。
「この果物は何? オレンジか桃か。食ったことないが、しかし美味いな」
ビクターにあげたジャムは、すでに瓶の半分がなくなっている。
「いいなー。シモーヌは帰省中、毎日このジャムを食べていたんでしょ? ずるーい」
指についたジャムを舐めながら言うジャンに、シモーヌは首を横に振る。
「私はまだ食べてないです。甘いジャム、嫌いなんで」
言い切ったシモーヌに、ジャンとビクターは信じられないという顔をした。フランシスだけは黙々とジャムを塗ったパンを味わっている。
「おい、フランシスもシモーヌに言ってやれよ。こんな美味しいジャム……」
「シモーヌ。このジャムだが、どれぐらい王都で流通させる予定なんだ?」
ジャンの言葉を遮って、今まで黙っていたフランシスがシモーヌに問い掛ける。
いつもとは違う強い口調に、シモーヌはフランシスが知らない人のように思えた。
「あ、あまり大きな商会に卸すほどの生産はできないと父が……将来的にはわかりませんが」
しどろもどろに答えるシモーヌに、フランシスはうーんと口元に手をやって考える。ジャンとビクターは何事だと、二人の顔を交互に見る。
「うちのカフェに、このジャムを使った商品を出したいんだ。いや、このジャムは流行るよ! 絶対うちの兄たちも気に入る! さっそくベルジック侯爵に話を聞きに行きたいんだ。もちろん兄たちがだけど」
早口で熱く話すフランシスに、シモーヌは圧倒された。
「え、ええ。では早馬を出して父に知らせるわ」
「早馬を出すタイミングで兄を向かわせるよ。他の商会には知られたくないからね」
教室の隅っこにいるフランシスとはまるで別人だ。呆気にとられているシモーヌにビクターが呆れたように言った。
「何やら熱心にシモーヌを口説いていると思ったら、下心があったんだな」
「シモーヌ嬢に下心とは?」
急に背後から声がして、四人は驚いて振り返った。
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