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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第十六章 不落城夏の陣
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16.15.不落城夏の陣⑮


 旅籠の言葉に、山本が笑う。

 数千年をゆうに生きた彼ではあったが、ここまで昂ったのは本当に久方ぶりだった。

 これであれば……こいつであれば……。

 当ててもいいかもしれない。


 ドン、と地面を踏みしめた。

 黒い稲妻が大地を走り、焦がしながら己に直撃する。

 人の姿の中に抑えていた本性が全て露わになり、強烈な気配を醸し出す。


「……姿は変わらないのか」

『不要。小さき肉体から放つ一撃こそ、最も鋭い』

「面じゃんなくて点ってことね」

『今一度、名を聞こう』

「旅籠守仲」

『山本五郎座衛門』


 双方が息を止める。

 旅籠は意識を集中させて一点を睨み、山本は賽を振った。

 この行動を止めることはしない。

 彼の技のすべてを受け止め、逆に弾き返す腹積もりだったからだ。


『一の目……』


 カロン、コロン。

 二つの賽の目が出した目は……一と一。

 これは外れであると平将門は言っていたが、そのような感じはしない。


 すると、一人の魂が教えてくれた。


『いかさまだ』

「だから負けってことね」


 賭け事が得意だった魂だろうか。

 手の動きを見て一発でそう言い当てた。


 いかさまで一の目を出した山本は、持っていた日本刀を強く握る。

 バヂリと黒い稲妻が走り、再び己に直撃した。

 それが七回ほど続いたところで顔を上げるのだが、気配が先ほどとは別人だ。


 素人目にもおかしな存在であると理解できるほどの異質さを纏っている。

 対面するだけでも息が詰まりそうだ。

 これが妖怪最強である山本の奥義であり、今まで一度しか使ったことのない技だった。


『一鬼夜行』


 フッ、と日本刀を振るうと大地が斬れた。

 酷く鋭いその一撃は石であろうがなんであろうが豆腐のように切り裂いてしまう。


 普段であれば恐ろしいと感じてしまうのだが、今回ばかりは平常心のままだった。

 中に居る魂たちは肉体と経験のほかに、精神面でも活躍してくれている。

 全てが数千人分の集合体。

 意識のみが旅籠にあり、ちょっとの事では動揺すらしなかった。


「頼むぞ」


 魂に声をかけ、一歩踏み込む。

 すると既に山本の腹部に拳をめり込ませていた。


『グ!?』

「ぬん!!」


 ズンッ!!!!

 不動を貫く山本の背中から衝撃波が発生した。

 肉体を貫通して繰り出されたこの一撃は山本であってもダメージになる。

 口の中に鉄の味を感じたところで、グッと力を込めて刃を振るった。


 キン。


『……なん……!』

「え? ……あ、攻撃効かないんだ」


 肩口に振り下ろされた日本刀は、衣服だけを斬っただけだった。

 肉体には一切のダメージはない。

 これは流石に不思議に思ったが……また魂が教えてくれた。


『私たちは数千人。それを一刀で両断できないと切れないよ』

「てことは?」

『打撃には弱い。一枚一枚剥がれていく』

「了解」


 旅籠が再び拳を握る。

 七発全てを命中させると、ようやく山本が一歩引いた。

 数千人が詰まって拳なので、その一撃一撃が異様に重い。


 だが、山本は未だに笑っていた。

 宴は何時からが本番だ?

 一鬼も百鬼も関係なく、序盤は緩やかで次第に苛烈を極めていく。

 一鬼夜行……攻撃を受けるほどに強くなり続ける山本の奥義だった。


 反撃の拳が繰り出される。

 それを手で受け流して肘を撃ち込む。

 体が少し浮くほどの威力に歯を食いしばり、手刀を繰り出して大地を斬る。

 右足を軸にして半身で躱した旅籠は、すぐさま回転して顔面を蹴り飛ばした。


 頭を弾かれたがすぐさま立て直して刀を振るう。

 もちろん旅篭に傷がつくことはなく弾かれ、再び強烈な一撃を喰らってしまった。

 それでも倒れはしない。

 遂に刀を捨てた山本は肉弾戦で旅籠とやり合う。


 古武術、ボクシング、空手、柔道、陸上、合気などが幾重にも混じって肉体を動かし続ける旅篭に、山本は一方的やられていた。

 だが倒れることはなく、反撃を繰り返しては更に攻撃を受けてしまう。

 知らない武術、知らない動き、知らない一撃。

 何度も攻撃を喰らい力が増しているはずの山本ではあったが、どうしても攻撃を当てることができなかった。


「旅籠様……」


 結界に守られて山本の気配に怖気ることのなかった月芽が、不安そうに呟く。

 なんだか嫌な予感がする。

 最強の妖怪を相手に一切の引けを取らないことは確かにすごいのだが……。


 旅籠は一般人だ。

 それが急に力を持って戦い続けたなら……。


「旅籠様!! 止まって!!!!」


 最悪な想定が月芽の中で湧き上がる。

 それだけは絶対にあってはならない。

 彼女の叫びは結界を通り越して、しかと旅籠の耳に届いた。


 ぴたりと動きを止めた瞬間、旅籠を纏っていた冷気が霧散する。

 瞬時に髪と目の色も元に戻った。

 そして……激痛が走る。


「ッッッッ!!? ガ……!! グ……!」

『──……』


 体に一切力が入らず、その場に倒れた。

 全身を丁寧に針で突き刺されてる様な鋭い痛みが走り、息をすることすら困難だった。

 境地に至った山本はそれを無視して攻撃をしようとする。

 すると、鋭く冷たい声が背後から飛んできた。


「山本さん」

『ッ!』

「……殺しますよ?」

『……』


 雪野が放った言葉には、間違いなく殺意が込められていた。

 山本はようやく正気を取り戻して息を吐き、気配をゆっくりと戻していく。

 体の調子を確かめ、喉を抑えながら咳き込んだ。


「……戻ったか?」

「はい」

「……主魂。治してやれ」

『……ああ』


 目に青白い光が宿る。

 スァッ……と淡く光ったと思ったら、それはすぐさま消え失せた。

 しかし旅籠は眠ってしまったらしい。

 激痛に耐えかねて気絶したといったほうが正しいかもしれないが。


 すると、周囲の異形たちが殺気立つ。

 山本が気配を仕舞ったことで、まともに動けるようになったらしい。

 先ほどの戦いとはまるで違う覚悟の入り方に、傍にいた雪野は少し怖くなった。


「旅籠様には……指一本触れさせん!!」

「たとえここで果てようとも……!!」

「旅籠様だけは必ずお守りする!!」


 異傀儡衆たちがそう口にする。

 よろめきながら立ち上がった者たちもいたが、全員……震えは止まっていた。


「旅籠様は儂らの希望じゃ……。ここで、失うわけにはいかん!」

「ジャジャラララ……!」

「「絶対に守る!」」


 魔蛇、木夢、空蜘蛛兄弟の楽と角も前に出る。

 戦闘が得意でない者たちですらも、旅籠を守るために山本へ敵意を向けた。


「させぬ……! 妹に……同じ名を与えた恩人だ……! 俺にはできなかった……。恩人を殺させてなるものか……!!」

「こんな面白い奴がいなくなるなんて考えたくもないね!」


 刃が二つ、向けられる。

 元は復讐のために協力していた二人だったが、いつしかそんな考えは消え失せていた。

 自分にできなかったことを、旅籠はやってくれた。

 他の者は差別したが、旅籠は分け隔てなく接してくれた。

 次は己の番だ、と力を籠める。


『主魂が……認めた男だ……! 繋がりを……戻せるやもしれぬ繋がりを……絶たせはせぬ!!』


 紫の火の玉が出現する。

 ようやく立ち上がった平将門だったが、体が少し不格好だ。

 妖力が削れ、肉体繋げ続けることが困難になっているらしい。


 全員が、旅籠を守ろうと刃を向ける。

 恐ろしいほどの忠誠心を見て、山本は思わず感嘆の息を零す。


「……継矢常治。旅籠はお主を越えたぞ」

「山本さん」

「ああ。雪野は結界で身を守れ」

「はい」


 雪野はキンッとすぐに四方に結界を張った。

 それを確認した山本は、小さく息を吐いて賽の目を振る。


「二の目、消音」


 賽の目を振らせてしまったことで、全員が警戒態勢に入る。

 転がった賽の目は二と四を出した。

 すると山本は指を鳴らす。


「此度の戦はこれで終いだ」


 パチンッ。


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