第二十五話 誰がスパイ?
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「メロヴィング側のスパイが誰かわかるか?」
小さな部屋へと呼び出されたベアトリスは、問いかけにまともに答えられなかったら殺されるのかな?と、お腹の中がヒヤリとするような緊張感に包まれた。
「年越しは王都から疎開したいって言う人が多いのよね・・・」
執務室で椅子に座っていたテレサは、真っ白な髪の毛を撫でつけながらそう言っていた。
領主館へとやって来たのは、姪のクリスティーナ様。従兄弟の孫に当たる双子のソフィアとジュリア、その母のジョアンナ様。医学博士のマノエル医師に、歴史学者であるブルーノ博士。
「ああ、ここではマノエル医師とブルーノ・モウリーリョは除外して考えて欲しい」
「私は、マノエル医師が一番怪しいかと思っていたのですが?」
「あれは私の友人がわざわざ戦力として送ってくれた人物なんだよ。彼の身元はカルバーリョ公爵家が保証する」
「じゃあ・・クリスティーナ様が怪しいと思います」
「なんでそう思う?」
「ヴィトリア様の婚約者だというプレストン子爵の部屋を夜に訪問して誘惑されている姿を見たので、メロヴィング側としてはブリタンニア人を懐柔したかったのかなぁと思ったんです」
「なっ!」
ヴィオは酷く驚いた顔をするとブツブツつぶやき出した。
「ペリグリンさんには恋人が・・だけど・・クリスティーナ様は豊満な美人だもんなぁ・・男としては・・据え膳食わねば男の恥とかいう言葉もあるしなぁ・・・」
「ご主人様よ、とりあえずクリスティーナって女を連れて来てみるか?」
「あ・・ああ・・とりあえず頼む」
ヴィオは急に挙動不審となって、全く落ち着きのない様子で視線を左右に動かすと、
「その二人って、つまりは、やっちゃった感じ?」
と、意味不明な事をベアトリスに尋ねてきたのだった。
ヴィオがクリスティーナを招き入れた部屋は小さなテーブルと椅子しか置かれていない、元は倉庫として使われていたのだろう。窓ひとつない漆喰の壁に囲まれた部屋であり、ここで逃げ出そうと思っても、一つしかない扉から逃げ出すしか方法がない。
「まあ!あなたがコメルシオ商会のヴィオ・アバッシオ?アバッシオ少尉なのですっけ?お宅の商会の美容液は私の肌にぴったりで!いっつも使っていますのよ!」
テレサの姪となるクリスティーナ嬢は、婚約者が亡くなって以降、結婚する事もなく過ごしていた、社交会では意外と有名な人でもある。曰く、誘われれば一晩のお誘いであろうと喜んでついてくるのだとか。その放漫な体に魅了された男性が山ほど王都リジェには存在するだとか。
ただ、本人を目の前にして感じる事は、彼女は男狂いと噂されるほど男好きではなさそうだということ。豊満な体を否応なくアピールするようなドレスを好むだけであって、特別、他意はないのだろう。
「貴女様の叔母上となるテレサ様のご冥福をお祈り申し上げます。クリスティーナ様、叔母さまが殺され、今は敵軍に取り囲まれているような現状、申し訳なく思っております。さぞかしご心痛のことと・・」
「そんなまわりくどいのはいらないわ!何か私に聞きたい事があるのでしょう?」
クリスティーナは、こちらの多忙を慮ってという感じで言い出した。
「さっぱり、キッパリと訊きたい事はきいてちょうだい」
「実は、ヴィトリア様の婚約者として現れたペリグリン・グレヴィル・プレンストンについてなのですが」
「ああ!彼の登場で訳がわからなくなっちゃったわよね!」
扇の先端を口元に当てながら。クリスティーナは不服そうに眉間に皺を寄せた。
「叔母さまはあの小娘の事を本物の公爵令嬢だと思っていたみたいだけど、似せた人間を連れて来ただけで偽物以外の何者でもないじゃない?」
そう言って悪戯っぽい瞳でヴィオを見る。
「テレサ様の生家でもあるペレイラ家では、公爵令嬢が偽物であると判断した人間が居たのよ。それで、叔母さまの身辺を守るためと、もしも叔母さまに何かがあった時には領主の代行として働くためにと、私が本家から送られてきたの」
クリスティーナはヴィオが誰なのか分かっている様子で言い出した。
「婚約者としてヴィトリア嬢をブリタンニアにお連れすると言い出したペリグリンさんは、小娘が偽物だという事は分かっていないみたいだった。私は叔母さまの安全が確保されているのなら細かい事はどうでも良いのだけれど、この館の中でも、これから戦場になるルシタニアから離れるためにブリタンニア人の寵愛をもらってここから連れて行ってもらえたらなぁ、なんて言い出す女も多かったのよ」
「それで?ご自身も寵愛を受けようと、夜中にペリグリンさんの部屋を訪れた訳ですか?」
「やあだぁ!なんで知ってるのぉ!」
扇で口元を隠しながら、おほほほほと笑う。
「私ってお酒を飲むと、勢いで誰でも彼でも口説きに行っちゃうから、絶対に飲んじゃ駄目って言われているのに、あの時はたまたま飲んじゃったのよね」
クリスティーナは天井を見上げながら思い出すように言い出した。
「あの時は、話題がここから逃げ出したいみたいな?戦場になるルシタニア以外だったら何処でもいいみたいな話になっていて、それで逃げ出すんだったら断然ブリタンニアじゃない?みたいな話になったのよねぇ。ペリグリンさんに抱えられて叔母さまの部屋に連れて行かれたから、あの後はめちゃくちゃ怒られたわぁ」
歴史学博士であるブルーノ・モウリーリョは、愛するベアトリスの婚約者として現れたペリグリンさんを排除したいと考え、クリスティーナの絡み癖を知った上で、ペリグリンさんを誘惑させるためにアルコールを飲ませたのだろう。
「ブルーノ・モウリーリョ氏とは二人きりでお酒を飲むほどの仲だったのですか?」
超絶ヤンデレキャラ、ブルーノ・モウリーリョとさし飲みOKだなんて、クリスティーナさんは豪胆な人だなぁ。
「まさか!男性と二人きりで飲みませんよ!」
クリスティーナはぷくうと頬を膨らませた。
「ジョアンナ様と夕食後にお茶をご一緒したんです!そしたら、ジョアンナ様って紅茶やお菓子にアルコールを入れるのがお好きだったみたいで、うっかり私は酔っ払ってしまったのよね」
「ジョアンナ様に酒を飲まされたって事ですか?」
「私はお酒が大好きだし、ものすごく量も飲めるんだけど!少し飲んだだけでも口説き癖が出ちゃうのよね〜。叔母さまにも本当に怒られて・・・ああ・・叔母さま・・・」
涙ぐむクリスティーナの妖艶な顔を見上げながら、頭の中でぐるぐると色々な情報が回転して行く。
血塗れのベアトリスの部屋でペリグリンさんを発見して大騒ぎした双子。二人の娘を連れて、わざわざカルダスへ疎開しにやってきた夫人。
確かに地下にペリグリンさんを連れて行って監禁したのはブルーノ博士だけれど、その意見に賛同したのは誰だった?
「ヴィオ!表が大変な事になっているから母さんがすぐに来てくれって!」
扉を開けたアパレッシーダの息子が大声をあげる。
「いつの間にか双子が逃げ出して!メロヴィング軍に捕まっちゃったんだよ!」
はあ・・・頭が痛くなってきた。
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