第二十話 上手くいかない
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「私はヴィトリアを守る為に動いたんだ!お前らが邪魔に思うブリタンニア人だって地下室に幽閉したんだ!私はやるべき事はやったんだ!だから私とヴィトリアを早急にメロヴィングに亡命させてくれ!」
「おやおや、歴史博士でもあるブルーノ・モウリーリョ、貴方は今まで数多の歴史を学んできた事と思うのですが、今、この状況で、我々が貴方を、いや、貴方達を亡命させると思うのですか?」
ブルーノのげっそりと窶れた顔でコーランクールを見上げてきた。
「私は令嬢の部屋を血塗れにしろ等と言いましたか?カルダスの領主代行である老齢の女性を殺せなどと言いましたか?私が貴方に命じたのは、ヴィトリア嬢がブリタンニアの手に渡りそうになった場合の令嬢の確保と移送であり、わざわざエキセントリックな方法をとれとは一言も言っていないのですよ?」
ベアトリスとヴィトリアを入れ替えた後、ベアトリスに付き添わせていた侍女たちがころりと気分を変えて王都へと戻ってしまったために、侍女の代わりに送り込んだのが歴史学者のブルーノだ。
皇帝への恭順の意を示し、親メロヴィング派のフォルハス家三男のクリスの意向に従って動いていた侍女たちだったのだが、
「田舎なんて飽きた」
なんていう理由だけで王都へと移動、もちろん報復処置として全て捕まえて殺しておいたものの、代わりに配置したブルーノもこの体たらく。
閉鎖された大学から半ば追い出される形となったブルーノは二つ返事でこちらの手を取ったのだが、こちらの想像以上にベアトリスに対しての恋慕と執着を拗らせた。
「だって・・だって、だって、だって、だって!僕はテレサさんをこの手にかけてしまったのですから!神に赦しを乞い願う為には、アルティティヤ神に供物を捧げないと!」
大学構内でも、気に入った女性に意地悪をした女性、嫌味を言った同僚を複数人殺していただけの人物ではある。頭の何処かが狂っているらしい。
「博士、歴史学的に見て、そのような妄言を吐き出す人間が、その後どうなったのかという事は十分に理解出来ているでしょうに」
「嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!」
部下がブルーノを羽交い締めにすると、あっさりと首の骨を折って、森の中へと投げ込んだ。
領主代行のテレサが、ブルーノの事を自分の子供のように可愛がっていたという情報を得ていたので、こちら側へと引き込んだのだが、あまりにも自分勝手でどうしようもない奴だった。
「コーランクール様!我が軍とボンパル領主軍との混成部隊は後一刻ほどでカルダスに到着する事になるかと思います」
馬上から部下の報告を受けたコーランクールは、遠くに見えるカルダス領主館へと視線を移動させた。苦心して作り上げてきたこちらの作戦をことごとく破壊していく悪役令嬢は今、あそこにいる。
連れのブリタンニア人と共に皆殺しにした後で、秘密の部屋に確保されているというベアトリスを保護しよう。せっかく皇帝がわざわざイムラス半島までお越しくださったのだから、早々にエスパンナも、ルシタニアも瓦解させて皇帝の元へと献上しなければならない。
エスパンナが大好きで、戦については全くの素人であるブリタンニア人の全権大使を操って、ブリタンニア陸軍至上主義のバカ将軍の無駄なプライドを煽って焚き付ける事には成功した。
精鋭ばかりを集めたブリタンニア軍は、無能な上官の無謀そのものの作戦によって間違いなく全滅する。間違いなく全滅すると理解しているのに、どうしても最近の私の脳裏には、猫のような瞳をした悪役令嬢の姿がチラついて離れていかない。
「ここでカルダスに居る者全てを皆殺しとし、王都占領への足掛かりの一つとする。カルダス領の占領と共にボンパル侯は独立軍として宣言し、コンドワナ大陸へと逃亡したルシタニア王家との決別をする事となる。ボンパル侯の離反は王都にいるフォルハス公爵も気がついてはいないでしょう。みなさん、ここが正念場です。分かっていますね?」
カルダスから北に位置する森の中で、混成軍受け入れの為に動いていた部下を睥睨していたコーランクールが皆を鼓舞していると、馬で駆け込んできた平民姿の部下が馬から飛び降りながら、
「ジョン・フッカム全権大使に帰国命令が下されました!」
と、叫ぶように言い出した。
「フッカム全権大使からの矢継ぎ早の命令が現在停止し、ムーア将軍率いるブリタンニア陸軍の進軍も停止!」
「なんだって!」
「そんな馬鹿な!」
「ブリタンニア議会上で、ムーア将軍の無謀とも言える進軍に疑問の声が多く上がり、さらにはブリタンニア海軍の密輸、エスパンナ国内に対する強奪とも言える暴挙についても説明を求めるため、帰国命令が出される形となりました!」
エスパンナの王都マデルノに滞在中の皇帝の軍にブリタンニアの精鋭を当てれば、敵の戦力は大きく削られる事となる。ここで、三国同盟を果たしたエスパンナ、ルシタニアを潰せば、ブリタンニアは完全に孤立。王がどれだけ反対をしたとしても、世論は皇帝を受け入れる事を選ぶだろう。
イムラス半島統一がすぐそこまで来ているというのに、再びここでひっくり返されてなるものか。
「私は至急、カディスへと移動する!例え私が居なくても、カルダスごとき占領するなど、お前らなら苦もなく行うことが出来るだろう!我が皇帝に幸あれ!」
「我が皇帝に幸あれ!」
「我が太陽たる皇帝に幸あれ!」
フッカム全権大使が帰国命令を出されたとしても、今日、明日でブリタンニアへ移動をするという事にはならないだろう。この猶予の間に、ブリタンニア軍を地獄に突き落とす。
悪役令嬢に自ら手を下す事は出来なかったが、仕方があるまい。ここまで来たら、奴の未来は『死』しか用意されていないのだから。
コーランクールは馬を西に向けて走らせた、ジョン・フッカムが居るのはエスパンナ南部に位置する港湾都市カディス、遥か遠いカディスへと行く前に、ムーア将軍に対して仕掛けを施していく事にしよう。
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