第八話 最初から言ってくれたなら
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「ヴィトリア嬢をメロヴィング側に利用されると、ブリタンニア国内の親メロヴィング派の動きを活発化させる懸念があるので、令嬢の身柄をブリタンニアで保護したいと考えているそうだったんですが、令嬢の養父であるフォルハス将軍と連絡が取れず、最終判断がいまだに出来ていないのだと嘆いていました」
「それでこの手紙か」
フォルハス将軍はペリグリンがルシオに託した手紙を執務机の上に投げると、
「保護してブリタンニアに連れて行く予定のヴィトリアと、ずっと行動を共にしていたなんて、冗談にしても面白くもない話ですね」
ペドロ公子が呆れたように言い出した。
「もっと早くにヴィトリアを保護したいという話をしてくれていたら良かったのに」
「やはりこちらの国民感情を気にされたみたいです。ヴィトリア嬢は巷にはフォルハス将軍の実の娘、つまりはルシタニア王家の血を引く令嬢だと思われていますからね。ブリタンニアが人質として連れ去るのではないかと勘繰られたくなかったのでは?」
「本物のヴィトリアは行方不明で、入れ替わったベアトリスを傀儡としてメロヴィング側は使おうと考えている。コーランクールが遂にベアトリスに接触をするのかと待ち構えていたが、奴は進路を変えたからな」
「将軍はコーランクールが何処に行ったのか知っているのですか?」
ルシオの問いに将軍は笑顔で答えた。
「コーランクールは途中でカディスへ舞い戻ったようだ」
「カディス?」
カディスとは南エスパンナにある港湾都市であり、エスパンナ議会が仮の政府を置いている場所でもある。
「皇帝が南エスパンナを占領する為の下準備をするために移動したのでしょうか?」
「いや、そうじゃない」
フォルハス将軍は紺碧の瞳をギラリと光らせた。
「コーランクールがカディス入りしてから、ブリタンニアの全権大使であるジョン・フッカムが動き出した。奴は何度も何度もムーア将軍に伝令を送り、現状の報告を義務化として、早急にエスパンナの王都を皇帝より奪還するよう命じている」
「早急に?皇帝とぶつけるんですか?破滅しかないじゃないですか!」
「それがコーランクールの狙いだよ。メロヴィングとしては、海戦で大負けしたことを未だに恨みに思っているし、2万の兵士を出したというのに、下民による蜂起によって破れてしまったメロヴィング軍の威信を取り戻したいと考えているのだろう」
「各国にメロヴィング軍の強さを喧伝するためにも、ムーア将軍率いるブリタンニアの精鋭部隊は良い餌食となるだろう。今のところ、ブリタンニアの議会は親メロヴィングと反メロヴィングで半々状態となっているが、陸軍の精鋭部隊を壊滅させられたとなれば、ブリタンニアとていつまでも強硬な姿勢は取ってはいられない。そう考えて、ムーア将軍を焚き付ける作業に入ったのでしょう」
ペドロの説明に、フォルハス将軍は大きなため息を吐き出した。
「我々も特使を送り込んでいるが将軍は耳も貸さない、輜重隊として関わるヴィトリアを勅使として送ってみても無駄だった。追い立てるように王都奪還を命じられて思考停止に陥っていると言っても過言ではない」
「将軍、ブリタンニア陸軍の准将であるペリグリン・グレヴィル・プレストンを我々の密使として使ったらどうでしょうか?」
ペドロの言葉に将軍が大きく頷いた。
「ルシタニア人の言葉は聞かなくても、同国であるブリタンニア人の言葉なら聞くかもしれん。なんといっても、今、ムーア将軍の指揮下に居る兵士たちはブリタンニアの精鋭とも言える兵士たちなのだから、我々としてもここで無駄死にだけはさせたくない」
「ブリタンニア軍はマラゴンの近くまで進軍しているとの報告を受けております。今の進軍速度を考えれば、オビドスに居るプレストン准将を移動させても十分に間に合うのではないかと考えますが」
ペドロが眼鏡を押し上げながら地図を広げて確認をすると、ルシオは思わず手を挙げた。
「あの、ペリグリンさんは今、オビドスには居ません」
不機嫌そうに振り返る公子が問いかける前にルシオは答えた。
「あちら側でも工作員が色々と動いているようでして、ペリグリンさんはヴィトリア嬢を保護するために、カルダスの領主館へ潜入中となっているはずです」
「カルダス領主館に?」
「はい、なんでもヴィトリア嬢の婚約者として潜入する手筈が整っているとの事でして、僕もベアトリスは早めに保護した方が良いかと思ってそのままにしたんですけれども」
「プレストン准将はヴィトリアが別人だという事は知っているのか?」
「いいえ将軍、そこの所は全く知らないままですし、僕の方からも入れ替わりについては説明などしていません」
「頭が痛くなってきた・・・」
ルシオも思わず頭を抱えてしまった。
「ルシオ、とにかくお前は面識があるのだから今すぐにカルダスの領主館に行き、准将にムーア将軍の説得の為にエスパンナまで移動するようにお願いするんだ」
将軍は後ろを振り返って、
「ルイス、お前はルシオと同道してベアトリスの保護、その後、王都まで連れてこい。メロヴィング側の動きを見張るのはもう終わりにする」
と言い出した。
ルイスはヴィトリアの義理の兄となる。長兄のリカルドは王家についてコンドワナに行ったまま帰って来ず、三男のクリスは昨年、コーランクールに殺されてテジョ川に浮かんだ。
ルシタニアに唯一残った次兄のルイスは、父であるフォルハス将軍の補佐として目覚ましい活躍をしている。
そのルイスが無表情のまま答えた。
「了解いたしました」
「ルイス・フォルハス少佐、よろしくお願い致します」
ルシオがペコリと頭を下げると、
「ああ」
と、一言だけ返して少佐は一つ小さく頷いた。
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