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第三話  悪役令嬢は当て馬令嬢

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

悪役令嬢といえば別名当て馬令嬢と呼んでも過言ではない。


 ヴィトリア・デル・フォルハス、名前改め、ヴィオ・アバッシオとなってからこっち、当て馬に当て馬を重ね、さまざまなカップルが成立するのを眺め、後押しし、お陰様で、ご祝儀貧乏となっているこの私が、まさか!まさか!まさか!彼女さんにあらぬ勘違いをさせてしまうなんて!


「自分は!レイチェルさんにすっごい強い運命みたいなものを感じていますよ」

「はい?」

「だって、ブリタンニアで別れた二人が、こんな異国のど田舎で再会するなんて!こんなの普通あります?」

「えええ?別れ?誰と?誰がぁ?」


「得意の大砲をぶっ放して敵の船のマストをへし折り、大穴をあけまくって、誘拐されていた恋人を助けるだなんて!ペリグリンさんは情熱的だなって思いますよ!」


「確かに!(誘拐されたふりをして私たちを助けに来たヴィオを大砲で大穴をあけて助けるなんて)ペリグリンお兄様は情熱的かもしれないわ!」


「不安にならないでください!二人の情熱は理解していますし!私は応援していますから!」


「ええ、私だって二人(ペリグリンお兄様とヴィオ)の情熱は理解しているわぁ!だけど・・・応援ってなぁに?」

「はい?」

「いやーーん!頭が痛くなってきたーー!」


 レイチェルさんは頭を抱え込むと、ピオーリョの方へ向かいながら何やら言っていたけれど、ピオーリョはあからさまに嫌そうな顔をして逃げ出している。


「ヴィオ兄!」


 ルシオに呼びかけられて振り返ると、馬で追いかけてきたと思われるアンドレにじっと見つめられている事に気がついた。


「あ・・あ・・アンドレ!・・よく追いついてこられたね!」

「ヴィオ様」

 馬から降りたアンドレは恭しく辞儀をすると言い出した。

「ソモシエラ峠が陥落いたしました。フォルハス将軍より至急、王都へ戻るようにとの通達が届いています」


 20万の軍を自ら指揮をしてメロヴィングを出立した皇帝アレクサンドルは、エスパンナの王都マドルノを最短で征服するため、イムラス半島を南北に分ける、自然の境界とも言えるペニャラ山脈を越える事を決意した。


 標高2千メートルの山を越えるためには峠を越える事が必須となり、この峠を超える事こそが最大の難関ともいわれる場所だ。


「そ・・その・・ソモシエラ峠がたった7分で陥落?」


 天然の要害とも言われるソモシエラ峠は守る側のエスパンナが有利に戦いを運ぶことが出来ただろうと思われる、それが、

「たった7分で?」

こちらの問いかけに、ため息混じりでアンドレが答えた。

「コジエトゥルスキ率いるポルマン警備隊が活躍したそうです」

「ポルマン警備隊か・・・」


 皇帝に恭順の意思を示したポルマン王国は、アレクサンドルの戦争に虎の子ともいうべき貴重な軍を差し出していた。ポルマン警備隊、騎馬で組織されるこの軍には珍しい事に女性騎士が多い。急峻な山での戦闘に長けていて、機動性に富んでいるという噂を聞いたことがある。


「だとするとエスパンナの王都マドルノはすぐに制圧される事になるな」

「ええ、その事で問題があるのです」

アンドレは気遣わしげにペリグリンさんの方を見た。


「エスパンナ全権大使であるジョン・フッカムがムーア将軍に、皇帝と戦うことを命じました」

「はあ?」


 ルシタニア王国とメロヴィングとの夏の戦争の後、やがて別部隊を編成して南下する事になるだろうメロヴィング軍に対抗するために、ルシタニアからエスパンナへと国を移動したムーア将軍が指揮するブリタンニア軍は一万七千に過ぎない。


「メロヴィングから南下してきた兵は20万ですよね?」

「さようでございます」


「全権大使のジョン・フッカムって有名なエスパンナ贔屓なんでしょ?だからかな、ここぞとばかりにブリタンニアの軍を動かして、エスパンナ上層部に良い格好を見せようとしたのかな」

 ルシオの言葉にペリグリンさんは体を強張らせた。


「ばかな・・そんなばかな・・・」


 エスパンナの王都マドルノはペニャラ山脈の南に位置する。南部エスパンナから北上をして王都を占拠する皇帝を討つという事は、逃げ道のない北へ自爆をしに行くようなものだ。


「だから王都リジェへ戻れというのか」


 アルフォンソの結婚祝いとママの移動の為に戻れと言われたのかと思ったけどそうじゃない。


「ムーア将軍が王都マドルノまで行かずに南下を決めたら、我々はムーア将軍率いるブリタンニア軍を助ける事が出来る」


 山脈が連なるエスパンナ北部まで行ってしまったらどうしようもないけれど、途中で少しでも足並みを遅くしてもらえれば、ブリタンニア軍一万七千をルシタニア王国に引き込めるチャンスが最低でも一度は訪れる。


「王都マドルノを占領するメロヴィング軍と戦うのなら、何も、急拵えで集めたエスパンナ正規軍やブリタンニア陸軍を今すぐぶつける必要は全くない」


 イムラス半島全域を記した地図を馬車の荷車の上に広げて置くと、峠を南下したメロヴィング軍が占領する王都マドルノを大きく丸で囲んだ。


「ブリタンニア軍の侵攻がどこまで進んでいるのか今の状況では判断できないが、ミゲルチュラまたはマラゴンで止められたら上々、トレドが最終ライン、ここを超えたらもうルシタニア王国へは引き込めない」


 隣国と我が国は網の目で繋がっているわけではないので、三都市を越えていたらもうアウト。山に囲まれた北部へ行ってしまったら南に戻ってくる難易度はかなり高くなる。


「20万のメロヴィング軍を相手にする場合は長期戦を目論むでしょうし、急いでブリタンニア軍を北上させるような事などするとは思いません。ノロノロと進むブリタンニア軍を捕まえて我が国に引き込んで消耗を避ける。エスパンナには有力なゲリラ部隊がいるのですから、組織をうまく機能させて、アレクサンドルをじわじわと苦しめる方法を取るのが定石通りの判断でしょう」


「あの!なんで長期戦にした方が有利って事になるんでしょうか?」


 いつの間にか話に混ざって聞いていたレイチェルさんが手を挙げて尋ねてきた。


「大勢居るって事は、大量の食事が必要って事でしょ?いくらメロヴィングだって20万の兵士の兵糧を何ヶ月分も用意しているわけはないからね、戦いを長引かせれば長引かせるほど、こちらが有利になっていくんだよ」


「そうなのねぇ!」


ルシオの答えに納得した様子で答えると、ペリグリンさんは額を抑えて俯いた。

レイチェルさんは美人だから、彼女の美しさを目の当たりにして眩しかったのかな。


「ご主人様よ、きっとそれは間違いだぞ」

「ピオーリョ!一体何について間違っているって言っているんだよ!」

 心を読んだような発言はマジでやめてほしい。


「心配なのは、ブリタンニアの全権大使であるジョン・フッカムがただの役人であって、戦争の事については全くの門外漢だというところでしょうか」

 アンドレはそう言うと、ペリグリンさんを見つめた。


「殺されたヘンリー・ベルナドッテはジョン・フッカムの元で働いていたと言っていましたよね?そこで二重スパイをしていたと。その二重スパイが、近くにいる全権大使を信用せずに、わざわざ隣国であるルシタニアのラゴスまで出向いて殺された。この事実がフッカムの無能ぶりを示しているのでは?」


「僕は商売でよくエスパンナに行っていたけど、評判は良くはなかったよね。上に取り入って良いところを見せようとするだけの男だっていう話を、僕なんか聞いているよ。きちんと本国の判断を仰いだ上で出兵を指示したのかどうか、そこから疑問を感じちゃうよ」


ルシオがそう言って胸の前で腕を組むと、

「子供軍曹ったら、子供のくせに、あたま良すぎなぁい?」

レイチェルさんが脳天気そのものの様子で言い出した。


「ねえ、お兄ちゃん!鶏肉焼けたけど!」


焚き火の前で陣取っていたケイショが嬉しそうな声をあげる。


「とりあえずご飯にしよう、食べたら私とアンドレは王都リジェに向かう。ペリグリンさん、申し訳ないんですが護衛としてピオーリョとケイショ、案内人にルシオをお付け致します。戦況が分かり次第、そちらにもお知らせするように致しますので」


「・・・そうか・・・わかった・・・」


 ペリグリンさんは悔しそうに俯いた。


 そりゃそうだよ、一緒に戦っていた仲間が死地へと向かっているんだもん、自分が助けに行きたいよなあ。

 だけどペリグリンさんの任務は『閣下の大事な人をブリタンニアに運ぶ』だからなあ。

 オビドスに居るだろうって言っていたけど、どんな人をブリタンニアに連れて行くつもりなのだろうか。

 機密とか言われて詳しいことは知らないんだよなあ。


「ペリグリンお兄さま!今別れても、きっとすぐに会えますから!元気出して!」

 レイチェルさんがペリグリンさんの腕に抱きついている。


 戦友とは今は別れていても、きっといつかは出会えるだろう。

 恋人が励ましてくれているんだから、別に気にする必要はないか。


お読みいただきありがとうございます!!

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