第一話 北へ向かえ
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なんだってまあ、大砲に驚き慌てた女王様がさっさとコンドワナ大陸へ逃げ出しちまっただろう?これじゃあ、あっけなくメロヴィング軍に占領される事になっちまうのかなあと思ったけんども、王家が逃げ出してから、すんぐにブリタンニアの軍が上陸さしてきてメロヴィング軍に勝利しちまったんだなあ」
馬に水を飲ませるため、通りかかった農場へと立ち寄ったコーランクールは、馬の汗を拭きながら、
「そうなんですね!僕は南大陸から戻ってきたばかりで、知らない事ばかりなんです!」
と、答えて苦笑を浮かべた。
約一ヶ月の戦闘で休戦協定が結ばれる事となったメロヴィングの陸軍は、武器を持ち、略奪品を抱えたままの状態で、ブリタンニア海軍の船で本国まで戻った。
自国が侵略をされたわけではないブリタンニアとしては、メロヴィング軍を追い出せれば重畳だった為、ルシタニア王国からの略奪品については、置いて行け等という細かい事は言わない。
武器すら取り上げない対応から見ても分かるとおり、ブリタンニアの上層部は皇帝と手を組む事も有り得る事だと考え、こちら側に悪印象を与えないようにする配慮が至る所に見えていた。
「ほんで、あんた達、コメルシオ商会の人たちだろ?これからどちらに向かうつもりかね?」
王家御用達となるコメルシオ商会は王家より旗を掲げる事を許されている。杖に蛇が巻き付くという独特な意匠の旗であり、この旗印があれば検問の検閲を受けずに済むし地域住民からの支援も受ける事が出来る。
現在、再び侵攻を開始しようとしているメロヴィング軍の情報を受けながら、緊張状態となっているルシタニア国内は至る所に検問所を設置し、メロヴィングの諜報員を捕まえる事に注力をしている。
その為、コメルシオ商会の旗は数の管理が厳格に行われており、手に入れるのにも苦労することになったのだ。
この旗は細々と意匠を変えていくため、日にちが経つと使い物にならなくなる。その為、三日前に商隊を襲撃して手に入れた旗を今使っている事になるのだが、ラゴスとのゴタゴタもあってか、関所への注進はまだ届いていない。
「王都リジェの本店に向かう予定でいます。王家は我々をコンドワナには連れて行ってはくれませんでしたから、がむしゃらに働くしかありません」
「あははは、そりゃそうだろうね。連れて行ってもらえたのは大貴族様と大商人様と大官僚様だけだろうからさ」
メロヴィング軍の侵攻を前にして、恐れをなして船で逃げ出したルシタニア王家は、自国民一万五千を連れて新大陸へと移動した。
ヨーロニア諸外国の人々は、ルシタニア王家はなんという腰抜けだろう、自国民を捨てて行くなど貴族の義務を一つも果たしていないと悪様に罵った。
コーランクール自身、なんという弱虫で腰抜けだろうと嘲り、腹の奥底から笑っていたものだが、蓋を開けてみたらルシタニア国民の感情は起伏など全くない、平坦そのものの有様だった。
誰に聞いても『遠い地から導いて下さるのだ』と声を揃えたように言い出すし、王家への恨み言など一つもない。
「商会の皆様方、よろしければこれを食べて行ってください。もしも今食べる時間がなかったら包みますからね」
農夫の妻が大量のサンドイッチを持ってやってきた。コメルシオ商会の者であると名乗れば、飢えて困るような事など起きることがない。
「戦争となったら食べるものが無くて、森に行って木の根っこを食べたり、そこら辺の草を食べなきゃいけないと思っていたんですよ。だけど商会の皆さんのお陰で、そんな事にはならないって事が良くわかりました。本当に、本当に、感謝してますだ」
農民も、村人も、誰も彼もが飢えることがない。足りないものはコメルシオ商会が国外から大量に仕入れてくるからだ。
「わあ!美味しそうだな!みんな!ご馳走になろう!」
腹が減りすぎていた様子の部下がサンドイッチを頬張るので、コーランクールも夢中になって食べ始めた。
「まあ、まあ、飲み物も持って来なくちゃね」
慌てて家に戻っていく夫婦の後ろ姿を見送りながら、もう一つのサンドイッチを手に取ると、
「コーランクール様、本当に、ルシタニアってのは、おかしな国ですよねえ」
と、部下の一人が言い出した。
「おかしな国だが、我が国の支配下に置かなければならない」
「ルシタニアが支配下となったら、俺たちの兵糧もルシタニア名物の瓶詰め飯になりますかね?」
「瓶詰め飯な!あれは最高だった!」
「俺は酒だな、瓶詰めの酒、あれはたまらんかったなあ」
コーランクールの部下たちは、ルシタニア国軍に潜入していた者ばかりとなるため、みんな一度は瓶詰めの恩恵を受けている。瓶詰め飯、あれは確かに画期的なものだった。
「それじゃあ、さっさとイムラス半島を我がものとしなければな」
コーランクールの言葉に部下たちは何度も頷いた。
本来なら今頃はアルジェイーナに到着でもしていた頃だろうか。ブリタンニア海軍を手中に収め、ブリタンニア国民の意識をメロヴィングへと傾ける。
『人が死ぬなど良くない!無駄な戦争などせず平和を目指そう!平和を得るためには皇帝と手を組むことが最善の策だ!』
というようなことをプロパガンダとして掲げ、ブリタンニア国民の意識を改革していこうと思っていたところで、まさか邪魔が入るとは思いもしなかった。あの表に出るのが大嫌いなウィリアム皇子が、艦隊を引き連れて現れるなど思いもしない。
「ストーリーがうまく回らない裏には悪役令嬢の影ありか・・・」
エスパンナは上層部の権力闘争が顕在化しており、カディスの最高議会は正規軍を招集しているが、命令系統に大きな問題を抱える始末。民兵が蜂起している状態ではあるが、ものの役にも立たないだろう。
ルシタニア陸軍の兵糧は素晴らしいが、王家について正規軍の一部がコンドワナに渡っているため、現在残っているのは残党と言っても過言ではない。
注目すべきはブリタンニアとなるが、はてさて、ジェームズ王はどれ程の抵抗を見せるのか。体調の悪化は著しく、政務も取り行えなくなっているという事は明確な事実だ。
「これからカルダスへ向かうのですよね」
「そうだ、カルダスに行き、ヴィトリア・デル・フォルハスを回収する」
カルダスにいるヴィトリアは異母妹のベアトリスだ。処分するか利用するかは現地で判断しなければならないが、恐らく、悪役令嬢はヒロインであるベネディッタ同様、前世の記憶持ちだ。
ストーリーに深く関わるサブヒロインは悪役令嬢が関わる前に回収してしまいたい。
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