第三十二話 伯父さんには会いたくない
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「あのウィリアム殿下が出てきたのか・・・ということはどういうこと?」
漁師カウアの家から飛び出したヴィオは、眼下に広がる光景を目にしてそのまま動きを止めた。
旗艦船の後ろには8隻の船が碇泊し、6隻の船がラゴスの港湾へ向かって進んでいく。ブリタンニア・エルマ海艦隊の隊旗の下にはウィルアム殿下のシンボルでもある竜旗が朝日を浴びてはためいていた。無数の白い帆が風を受けて、海の上を戦艦が滑るように進んでいく。さっぱり理解出来ない状況に、アンドレが申し訳なさそうにヴィオの方を見た。
「お嬢様には言っていなかったのですが、ペリグリン様に頼まれて、うちの商会の船をフィニステレ岬沖に碇泊中だった殿下の艦隊へ差し向けていたのです」
フィニステレ岬とはエスパンナ国内にある岬の事だ。
「我々としては、海軍卿が親メロヴィング派に与したら、ブリタンニア海軍はメロヴィングの元へ落ちたも同然と考えていたのですが、ペリグリンさんのお考えは違っていたようです。即座に急使を各所へ送っていたようで、船についてはうちの商会の船の方が早いからという事で使って頂いたのです」
えええ〜!
「それで、お嬢様どうされますか?ウィリアム殿下はお嬢様の実の伯父という事になると思うのですが、ヴィトリア・デル・フォルハスとして面会されますか?」
「ヴィトリアは現在、カルダスに居る事になっているだろう?異母妹がお前の名前を語って潜伏しているという事まで説明しなければならなくなるぞ?」
ペドロの意見にヴィオは眉をしかめた。
悪役令嬢であるヴィオは自分の身分をベアトリスに明け渡して、今はヴィオ・アバッシオとして生きている。少年兵で、ルシタニア陸軍の少尉身分で輜重隊を取りまとめている、コメルシオ商会の会頭だ。
「めんどくさーーー〜」
自分の身分を説明するのが面倒臭すぎる。ブリタンニア王族の血を引いているくせに、なんだその淑女らしからぬ行い、なんで髪の毛を短く切っているんだ!顔に傷をつけるなと怒られたらどうしよう!怖い伯父さんには会いたくない!会いたくないよ!
「面倒なんだろう?であれば、私がバンデイラ要塞の幹部と共に対応しよう」
ペドロはその整った顔をヴィオの方へ向けた。
「万が一にも王家の血を理由にブリタンニアに連れて帰られたら困るからな」
この時のペドロはヴィオには後光が差して見えたのだった。
「そうでしょ!そうだよね!無理やりブリタンニアに連行とか困るよね!」
「ヴィトリアにはアルフォンソ殿下の結婚祝いに参加してもらわないといけないからな」
「それは嫌だって言っているでしょ!」
ペドロはどうしてもヴィオにアルフォンソの結婚式に参加をして欲しいらしい。元婚約者のヴィオがどの面下げて参加をすれば良いのか、どんな態度で行けば良いのか、本国から逃げ出した貴族たちから、おそらくバカにされるだろうということにも、全く配慮はないのだろう。
「王家の祝い事に参加するのは臣下の務めだろ?」
「そういうペドロは行くの?」
「行くわけがない、メロヴィングの侵略を防ぐのに私がルシタニアを出て新大陸へ向かっている暇はない」
「だったら私も同じだっつうの!」
ペドロとアンドレはあからさまにため息を吐き出した。
◇◇◇
「ご主人様よ、攫われた女たちを教会の方まで運んで行ったけど、その後はラゴスに運ぶって事でいいんだよな?」
馬から降りてこちらの方へ向かって来たのはピオーリョで、弟のケイショは一緒には居ない。女に全く興味のない、純粋無垢のケイショには女性たちの護衛のためについてもらっているのだ。
アンドレとペドロはバンデイラ要塞の方へ行ってしまった為、漁師のカウアの家の前に残って居たのはヴィオだけとなっていた。そこにピオーリョが報告に来たのだが、ヴィオはウロウロしながら言い出した。
「そういえばさーー」
「なんだよ一体」
「あの女性、どうした?」
「誰だよ?どの女性だよ?」
「ペリグリンさんの恋人の、あの、やたらと胸が大きくて金髪碧眼の美人さんの」
「ペリグリンさんの恋人?」
ピオーリョは考え込むように眉を顰めると、
「教会に連れて行ったが、何か問題あったか?もしかして、男爵と一緒にバンデイラ要塞の方に連れて行った方が良かったのか?」
と、問いかける。
「いや、そうじゃないんだ。彼女を移動させるなら、ペリグリンさんと一緒の方が良いんじゃないかと思ってさ」
「はあああ?また愛がどうとか言い出すんじゃねえだろうな?」
ピオーリョは汚いものでも見るような眼差しでヴィオを見た。
「いや、愛も大事なんだけど、もしかしたら彼女、ブリタンニアの諜報員かもしれない」
「は?」
ヘンリー・ベルナドッテの手紙には確かに『最愛のレイチェル・W』と記されていた。
誘拐された女性の中に居たレイチェル・ワトソン、しかも彼女はペリグリンとも殺されたヘンリーとも顔見知りだという。
「まさか」
ピオーリョは自分の口に手を当てて目を見開くと、
「だったらすげえ才能だな」
と、言い出した。うん。言いたいことはよく分かる。
諜報員には全然見えないキャラだものな。
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