第三十一話 裁かれるのはお前だ
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エルマ海艦隊を指揮下に置く海軍卿、ヴィンス伯爵の指示の元、武器の引き渡しに協力をしていた戦艦マルスの艦長であるカーク・グラントは、愕然とした思いで砲弾に撃ち抜かれたマストを眺めていた。フリーゲート艦『シリウス』もミズンマストがへし折られ、船体にも穴が空いている。
ブリタンニア海軍といえば海上戦、その中でも一番の大戦といえばトラールの海戦であり、厚みのあるメロヴィング・エスパンナ連合艦隊を一点突破で撃破したのは有名な話である。
指揮や練度も低い敵軍に対抗するにあたり、敵の艦隊よりもより機動性のある小型の帆船を利用して、撹乱に継ぐ撹乱を引き起こして敵を敗北に導いた。
海戦での肝は船への補給である。
敵の戦艦が補給中に叩く事が出来れば、敵の戦力を大きく削ぎ落とす事に成功する。補給中に我が軍の大砲を喰らったエスパンナ海軍兵やメロヴィングの海軍兵は結構な数に登るだろう。
野砲を駆使して敵の船を潰す。陸からの強力なアシストがあってこそ、数では圧倒的に負けていたブリタンニア軍がトラールで大勝利を勝ち得る事が出来たのだ。
わずか二十六歳で准将の地位に就く、的確な指示と砲撃に関する卓越したセンスを持つ。インディナの戦線で頭角を表した、アーサー・ウェストウィックの秘蔵っ子とも呼ばれる人間。
「ペリグリン・プレストン!貴様、我々に砲弾を撃ち込むとは気でも狂ったのか!」
恥ずべき事に、ブリタンニア海軍はルシタニア陸軍に拿捕される事となったのだ。
「ペリグリン!聞いているのか!こんな事をして無事で済むとは思うなよ!」
捕虜となったブリタンニア海軍の兵士や乗組員の数を数えていたペリグリンは、縄で縛り付けられた戦艦の幹部を振り返ると、
「いやいや、無事に済むなどとは思ってもいませんよ」
と、答えて柔和な笑みを浮かべる。
「我が国の戦艦を2隻半壊拿捕し、ルシタニアの捕虜となった兵士及び船員含めて五百弱という所でしょうか」
砂浜に上がってきたブリタンニア人は一箇所に集められた。ルシタニア商船に乗り込んでいたルシタニア人たちは、幹部と判断された者に至っては、その場で銃殺をされている。
生き残っているのは下っ端のみで、そのほとんどがバンデイラ要塞へ連行されていた。
集められたブリタンニア人は死体が転がる血生臭い浜辺から出る事は許されず、蟻の子一匹通さないといった様子でライフル銃を構えるルシタニア陸軍に取り囲まれていた。
集まったブリタンニア人たちは、一斉射撃ですべからく全員が死亡する姿を脳裏に過らせているだろうが、そんな事にはならない事をカーク・グランド艦長は知っている。
20万といわれる皇帝が差し向けた軍に対抗するためには、ルシタニア王国はどうやったってブリタンニアに頼るより他に方法がない。三国同盟を続けて行かなければ、ルシタニアに未来はない。
だからこそ、ブリタンニアはルシタニアに大きく出る事が出来る。今回、2隻の戦艦を破壊したのはルシタニア陸軍だ。ルシタニアには多額の賠償金を払わせなければ気が済まない。
破滅することが決まっている国ではあるが、滅びる前に金をむしるだけむしり取るネタが出来たという事になるだろう。ルシタニアに加担したペリグリンは裁かれた後、滅びるしかない。最後まで高笑いするのは我々なのだ。
「ペリグリン、お前はかわいそうな奴だよな」
「はあ?」
「ウェストウィックの奴に命じられて、ルシタニアに潜入してきたわけだろ?」
例え今は戦艦の幹部を縛り付けても、罰せられることなどない。ブリタンニアは皇帝への融和を選ぶ事で国の方針がガラリと転換する事は目に見えている。
「クックックッ、お前は完全にはずれくじを引いてしまったのだよ。やはり直属の上司というのは重要なものだよな?」
親メロヴィング派の議員は、武器をエスパンナに送る事に対して苦言を呈している。そもそも、三国同盟など必要があるのかと疑問を口にする議員も増えている。
メロヴィングに徹底抗戦の構えを取るのはジェームズ王ただ一人だけの事であって、ヨーロニア中央を抑えた皇帝アレクサンドル・ボアルネにおもねるブリタンニア人は増えているのだ。
「我々を捕まえるような事を海軍卿はお許しにはならない!ブリタンニア海軍はルシタニア王国に宣戦布告をするだろう。結局、陸軍がいくら頑張ったところで、ルシタニアが滅びる事は決定事項なのだ!無駄な足掻きだったな!最後に裁かれるのはお前の方なんだよ!」
「はあ、そんな風に考えるんですね」
ペリグリンは軽く肩をすくめると、拿捕された兵士を確認するためにその場を離れてしまった。
夜が明けるまで、兵士の拘束は続けて行われたのだが、太陽の光が水平線を明るく染め上げていくにしたがって、周囲の兵士たちの声が甲高いものへと変わっていく。
エスパンナ・メロヴィング海軍に大勝利を収めたブリタンニア海軍ではあるが、数多の船が行き来するエルマ海への警戒を解いてはいない。
南大陸に位置するアルジェイーナが不穏な動きを見せているだけに、複数の艦隊がエルマ海近海を警戒航行している事になるのだが、一目見てわかる、特殊なフォルムの旗艦船『バフラー』が14隻の戦艦を引き連れてこちらの方へと近づいてくるのだ。
98門の旗艦船バフラーは入江まで入ってくる事はせず、小型船に乗り換えて入江の中を進んでくる。
数名の船員が海に飛び込み、船を浜辺へ押し上げていく。そうして完全に砂浜に船があがったところで、蜂蜜色の髪を一つにまとめた男、ウィリアム・フォフ・ブリタンニアがライフル片手に降り立った。
今年三十六歳になるウィリアム第三皇子は非常に顔立ちが整った男で、貴族女性のみならず、平民を含むブリタンニア中の女性から人気がある。
ウィリアム殿下はライフルを構えて引き金を引くと、隣で縛り上げられていた副官が額を撃ち抜かれて死んだ。
「はあ・・はあ・・はあ・・」
自分こそが撃たれたと思い、動悸と息切れで全身が震えだす。
鼻歌を歌いながら目の前まで歩いてきたウィリアム殿下は、カーク・グランド艦長の額に銃口を押し付けると、
「我が国は専制君主制だよ?」
そう言って嘲るように笑うと、銃床で艦長の頭を殴りつけたのだった。
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