第三十四話 懐刀はほくそ笑む
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メロヴィングの皇帝であるアレクサンドル・ボアルネ、彼の懐刀と言われるコーランクールは、運び出される令嬢を見送りながら、
「ここまで上手く事が運ぶとはね」
呆れた調子で独り言を呟いていた。
漆黒の髪に白皙の美貌を持つこの男の人はすらりと背が高い。アレクサンドル皇帝の特使という形で、密かにルシタニア王国へ入国していたのだった。
イムラス半島を統一するため、エスパンナ王国、ルシタニア王国を支配下に置こうと考えている皇帝の願いを叶えるため、下地作りをするのがこの男の役目だった。
今回は予言の聖女と呼ばれるベネディッタの協力もあって、鬼才とも呼ばれていたルシタニアの第一王子の暗殺が成功した。凡庸と言われる弟王子ではこの難局を乗り越えるのは難しいだろうというのが大方の予想でもあり、ルシタニアがメロヴィングに従属するのは間違いないとも言われている。
公爵家の娘であるヴィトリアとアレクサンドル皇帝の末弟とを結婚させる事で、ルシタニア王国を属国として統治する。メロヴィングに対して敵対するブリタンニアに対して、ルシタニアの分割統治を申し出る予定でも居るのだった。
メロヴィングとブリタンニアは百年を超える因縁を持つ敵国同士であり、皇帝としても大陸封鎖令を発布する事によってブリタンニアをジリ貧へと追い込んだつもりでいたのだ。 敵国ブリタンニアのしぶとさは相当のものであり、トラールの海戦ではメロヴィングの海軍が大敗を喫することになってしまったのだ。
敵対するよりも味方に引き込んだ方が、後々、ヨーロニア全土を統治するのにも都合が良いだろうし、ルシタニアを餌にして引き込んだ後で、皇帝の末弟には血筋正しい姫を娶らせる予定で居る。
何故、ここでヴィトリアとベアトリスを入れ替えたのかというと、全ては欲に走った娼婦の娘による暴走によるものと片付けるためだ。戦時中の混乱に乗じて、娼婦の娘は公爵令嬢の身分の乗っ取りに成功させた。
ブリタンニアとしても、正式な公爵家の娘が排除されるのであれば文句を言うこともあるだろうが、娼婦の娘ではどうしようもない。身分を偽った欲深き少女は、ルシタニアが完全にメロヴィングの属国となった後、死を賜ることになるわけだ。
「ヴィトリア様、早速移動いたしましょう」
こちら側に寝返った三人の侍女たちが、入れ替えを果たしたベアトリスを連れて馬車へと移動をしていく。
「ベアトリス・・」
ヴィトリアとして馬車に乗り込み、カルダス領へと向かったベアトリスの姿が見えなくなるまで見送っていたクリスは切なげな声を漏らした。
「会えないといっても少しの間ですから」
「ええ、そうですね。僕とベアトリスの婚儀はすぐに行われる事になる。ほんの少しの辛抱だと思います」
頭の悪いクリスは、ベアトリスと結婚するのは自分であり、メロヴィングの後援を得て、ルシタニア王国を統治する王となるのは自分であると考えている。フォルハス家は王家の血筋を引くため、順位は低いとはいえどもクリスにも王位継承権が実は存在するのだ。
「さあ、我々も行きましょう」
どこまでいっても馬鹿な子だ。母親の罪に目を向けず、母親を奪われたという怒りと憎悪だけを胸に生きている。周りの事などどうでも良くて、お気に入りのベアトリスが傍にいれば幸せで、こちらの言う事など都合の良いように解釈する。
これからどこに運ばれるのか分かりもせずに、信用しきった様子で馬車に乗り込む後ろ姿を見ると、コーランクールは笑みをこぼしたのだった。
ああ、ルシタニア王国にいる奴が馬鹿ばかりで本当によかった。
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