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09.騎士様、襲われちゃいますよ?

「戻りました――」


 緊張しながらもそっと扉を開ける。部屋には明かりが灯っていたけど、騎士様からの返事はない。

 そっと身を入れて、扉を閉める。


「……」


 明るい部屋の下、騎士様がソファーの上で大きな体を丸めるようにして横になっているのが目に映った。


 腕を組み、目を閉じている。


 ……寝てしまったの?


 私は肩の力を抜き、ほっと胸を撫で下ろした。

 安心したような、余計な心配をしていたことに拍子抜けするような気分だ。


 ちょっとだけ、これを着た感想を聞いてみたかったような気もするから残念に思ったのかもしれない。


「……」


 目を閉じているのをいいことに、私は彼の前に立ってじっとその顔を見つめた。


 こうして見ると、やはりあの時の面影が少しだけある気がする。


 あの時は髪もボサボサに伸び、汚れていたし、髭もボーボーに生えていて正直むさ苦しいオジサンかと思った。


 でもこうしてスッキリすると、とても綺麗な肌で、かなりハンサムだ。それに、やはりまだ若い。


 さっきまでは照れたり笑ったりころころと表情を変えていたけど、こうして口を結んで目を閉じていると、とても凛々しい顔立ちをしているなぁと改めて見惚れてしまう。

 以前会った時のむさ苦しい感じもなければ、先程までの可愛らしい雰囲気もない。今はただただ男らしく、格好良い。……結構好みの顔かもしれない。


「……」


 横になっている姿をじぃっと遠慮なく見ていたら、上着を脱いで胸元の緩いシャツ一枚になったそこから、色っぽい鎖骨と胸筋が覗いて見えた。

 怪我の手当てをした際に見た、彼のたくましい肉体(からだ)を思い出す。


 ……この人、自分がいい男である自覚はあるのだろうか……?


 私が痴女だったら間違いなく襲われているわよ。女が相手でも……いや、だからこそ、もっと警戒心を持った方がいいわ。

 私が淑女で良かったわね。


 そう教えてあげたいけど、寝ているようだから今言ってもきっと伝わらない。


 音を出さないように息を吐いて、熱の集まる顔を手で扇ぐ。


 顔だけでなく、彼は身体もとても綺麗だった。彫刻品のように引き締まった肉体は、ムキムキマッチョというわけでもなく、無駄のない引き締まった筋肉で覆われていたし、男らしく頼りがいのある大きな背中をしていた。


 結構私好みの身体だった。


 こうやって髭と汚れを落とした姿で、もう一回見たいなー……なんて考えながらつい彼に身を寄せ、ハッとした。


 って、何考えてるのよ、私……!!

 これじゃあ痴女だわ!

 二人きりの部屋で危険なのは、私じゃなくて騎士様の方じゃない!!


 ブンブンと頭を振って浅ましい考えを吹き飛ばし、再び彼にちらりと視線を向ける。


 ……どうしよう。彼にベッドで寝てもらおうと思っていたのに。でもきっと疲れているのね。起こすのも悪いかな……?


 少し悩んでから、私はそろりそろりとベッドへ向かい、静かに布団だけを持って、そぉーっと彼の体にかけてみた。


「……」


 やっぱり起きる様子はない。

 でも無反応過ぎるのが、却って怪しい。


 この人騎士でしょう?


 前はあんなに警戒していたのに……。いくら気を許してくれていたとしても、本当は起きているような気がする。

 だって寝息とかまったく立ててないし。凄く静か。静かすぎる。そしてハンサム。


 目を開けたりしないだろうかと、訴えるような気持ちでじっとその整った顔を見つめてみるけど、相変わらず反応はない。


「……私、ベッドで寝ちゃいますよ?」

「……」

「そんな大きな体で、ソファーで寝たら体痛くなっちゃいますよ?」

「……」

「後でこっち、来ないでくださいね?」

「…………」


 小声で話しかけてみても、やっぱり彼は無反応。


 騎士なのに、こんなことでいいのかしら?

 そんなんじゃ簡単に寝込みを襲われちゃいますよ。

 それとも襲われた瞬間飛び起きて首元を掻っ切る?


 もしかして、襲われるの待ってます?


「……」


 なんて冗談を思いながら、一度眠るとそうそう起きないタイプなのかしらね。と言い聞かせることにして、起きる気のない彼をもう一度確認し、私はそーっとベッドへ足を運んだ。


「……おやすみなさい」


 そして今度は自分の体をそこに沈ませて、明かりを消して、一応彼に向かって小さく呟いてみた。


 すると微かにだけど、確かに彼が「おやすみ」と返事をしたのを、私は聞き逃さなかった。



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