08.早速同じ部屋に一泊のようです
「……え、同じ部屋?」
「すまない、今夜は一部屋しか空いていないそうだ。君を連れて帰れるなんて、予定していなかったから……俺は今夜は馬車で過ごそうか」
アイマーン領から王都の街へは、一日かかる。
だから今夜は途中で宿を取ることになったのだけど、どうやら既にいっぱいらしく、一部屋しか空きがないらしい。
「いいえ! そういうわけにはいきません。私は構いませんので、エンダース様がベッドをお使いください」
「……そうか?」
部屋に空きがなかったのなら、きっと使用人と御者が馬車を使うはずだ。
そこに女の私が行くわけにもいかないし、騎士様を行かせるわけにもいかない。
大丈夫。これから私はこの人の家で住み込みで働くわけだし、彼は誠実に見える。
彼専属のメイドをするわけだから、信頼関係が大切だ。
私は椅子でも床でも寝られるから、ベッドは彼に使ってもらおう。
そう思い、二人で部屋へと向かった。
「――これ、ちょうど良いから今夜の寝間着に着るといい」
騎士様は馬車から持ってきた箱からとても肌触りの良い高級そうな布でできた夜着を私に差し出した。
「……よろしいのでしょうか?」
「君に似合うと思って俺が選んだんだ。嫌でなければ、是非」
何も持たずに家を出てきてしまったから、正直助かる。でも、こんなに高そうなもの……いや、外出着のまま寝るのも気が引ける。ここはありがたくいただいておこう。
「ありがとうございます」
「ああ、湯浴みに行ってくるといいよ」
「湯浴み……」
「あっ、その、馬車での旅は疲れただろう? 汚れを洗い流してくると気分もスッキリするぞ! ……いや、決して君が汚れているというわけではなくだな」
「ふふっ、大丈夫ですよ。いってきますね」
「……ああ」
なぜか頬を赤く染めてわたわたと手を動かし、言い訳のようなことを口にする騎士様はやはりそのたくましく男らしい見た目と反して案外純情らしい。
そのギャップが堪らなくツボだ。
胸がキュンとしてしまう。
騎士様は気恥しそうに頬をかいていたけど、私は小さく微笑んで頭を下げると、先にお風呂場へと向かった。
「……ふぅ」
なんだか今日はとても疲れた。
一日にして……いや、数時間の間にとても多くのことが起こった。
一人になった途端に、今日の出来事が一気に体にのしかかり、これは現実であるのだと実感して深く息を吐いた。
何年も一人で畑仕事をして、父の看病と妹の世話に家事。この二年はあの最低な男も増えて、益々身も心も疲弊していたのだと今更気がつく。将来この男と結婚し、こんな生活が一生続くのかと絶望したこともあった。
でも婚約破棄されて家を追い出された。
一瞬何もかもなくなってしまったけれど、代わりに私は自由を手に入れた。
やっとあの二人とさよならできたのだ。清々した。
これからは本当に一人でしっかり自立して生きていかなければならないけど、きっと大丈夫。私ならできる!!
それに、こんなに早く仕事が決まって良かった。
あの騎士様なら信頼できる雇い主だ。
少なくとも今までより酷い生活は待っていないだろうと前向きに考えて、私はお風呂から上がると騎士様がプレゼントしてくれた寝間着に袖を通した。
本当に肌触りが良く、とても気持ちがいい。それに、シンプルで上品なのにところどころ花の模様があしらわれたデザインもとても可愛くて私好みだ。
「こんなに高そうな寝間着が世の中にあるなんて……」
彼は怪我をしていた時とは随分印象が違った。
主に髭と髪のせいだろうけど、あの時は殺気立っていて少し怖い印象を受けたけど、今日はとてもやわらかく笑っていた。
本当に、やっと私に会えたと喜んでいるように見えたのだ。早くお礼をしに来たかったのだと、言葉よりもその態度が語っていた。
楽しそうにこれを私に渡した時の騎士様の顔を思い出し、胸がドキドキと高鳴った。
この姿で戻ったら、彼はなんて言うかしら。
私にはこんな高価なもの、似合わないような気もするけど……でも。
〝君に似合うと思って俺が選んだんだ――〟
もう一度楽しそうに笑っていた彼の顔を思い出し、熱くなる頬に手を当てる。
私ったら、何をこんなに喜んでいるのかしら。
あの言葉に深い意味なんてないわ。彼は真面目な騎士だから、純粋にお礼として持ってきてくれただけよ!
今夜だって、同じ部屋でも何かあるわけがない!
彼はきっとそんな野蛮な男じゃないわ。
お礼をしに来てくれたのだから、大丈夫よ。
それにもし襲いかかってくるような男なら、仕事の話はお断りして、問答無用で殴ってやればいいのよ!
相手が大きな男の人で、しかも鍛えられた騎士であることは置いておいて、私は自分にそう言い聞かせながらも「よし!」と気合を入れてドキドキと高鳴ってしまう鼓動を抑え、部屋へと戻った。




