71.私の決めた道
本日2回目の投稿です。
「――それで、結婚式の翌日も休みを取れたよ。だから君とゆっくりできそうだ」
「……ええ」
「ルビナ? 大丈夫か?」
「あっ、ごめんなさい、大丈夫よ。そう、休みね、良かったわ」
帰った後も、先程コンラートに言われた言葉が何度も私の頭の中で繰り返されていた。
〝母を閉じ込めた〟
〝どうして君は強い魔力を持って生まれたと思う?〟
後者は冗談だと言っていたけれど、想像するとゾッとする。
ともかくあの変態魔導師が嫌で母は王宮から逃げ出したのだということがわかってしまった。
とても残念な理由だった。
その後もきっとお母様を探したであろうあの変態から逃れるのに必死だったのだろうということが想像できる。
母は大変な思いをしてきたのだ。そりゃあ私が魔力持ちだということは隠しておきたかっただろう。
クレスの晩酌に付き合っていても、会話が途切れるとふとそのことを考えてしまう。
だけど、私が暗い顔をしてはクレスに心配をかけてしまうわね。
「あいつの言ったことは気にするな。片親だけが魔力持ちでも強い子供が産まれることはある。変わった性癖を持っていたとしても、さすがにそこまで非道な男ではない……。法を犯すようなことはしていないだろうし、閉じ込めたという言い方をしていたが、そんなに大袈裟なものではないと思うぞ」
「そうよね。大丈夫よ、気にしてないわ。……でもお母様が嫌な思いをしていたのは事実よね」
「うん……まぁ、そうだなぁ」
あれでも一応この国の筆頭魔導師だ。クレスが言うように悪い人には見えない。変態だけど。
でも手を出さなかったのだとしても、あの口振りからするに、一瞬でも無理矢理母を自分の部屋に連れて行ったのは事実だろう。クレスとマルギットのように、魔力の強い魔導師同士、婚約者候補であったのだろうけど……。
お母様はきっと怖い思いをしただろうな。
あの変態の無自覚なストーキング行為に悩まされてきたのだろうし、部屋に行けば自分の姿絵がたくさん飾られているとか……。
恐怖だ。将来結婚する相手であっても、無理。
それでお母様はコンラートの重い愛が嫌になり身を隠すようにアイマーン領に逃げたのだ。
……お母様、可哀想。
「……」
「ルビナ、おいで?」
また、暗い顔をしてしまった。
クレスは心配そうに優しく言葉をかけてくれると、そっと両腕を広げた。
「……ごめんなさい」
「どうして謝るんだ? 確かに強く気高い君は大好きだけど……ずっと笑ってなくてもいいんだぞ?」
素直にその胸の中に収まれば、優しく抱きしめながら頭を「よしよし」と撫でてくれる。
「……」
「俺は笑っていても泣いていても怒っていても、どんなルビナでも大好きだ」
なんだか無性にクレスのぬくもりがあたたかい。
言葉があたたかくて、胸の奥がじんわりする。
なんだろう。私の人生、もっと辛いことなんてたくさんあったのに。お母様の記憶なんて、ほとんどないのに。
「……っ」
きゅんと目頭が熱くなって、ポロリと涙が零れた。
「……ありがとう、クレス。貴方がいてくれて良かったわ」
「うん……俺はいつでも君の傍にいるよ」
クレスの胸の中はとても落ち着く。ドキドキするけど、いい匂いがして、安らかな気持ちになれる。大好きな人だからだ。
「……よし、大丈夫。私はあんな変態には負けないんだから! お母様の分も立派な魔導師として国に貢献するわ」
「さすがルビナ。だけど……まぁ少し、彼の言っていたこともわからなくはないがな」
「え?」
ぽつり、と独り言のように呟かれた言葉に、私は顔を上げてクレスを見上げた。
わかるの? やっぱりクレスも魔導師だから……ちょっと変わった趣味嗜好が……?
「もし今ルビナが俺の前からいなくなろうとしたら、閉じ込めてでも近くにいさせるかもしれない」
半分冗談、半分本気という感じで小さく笑って見せるクレス。
「……クレスにならいいかしら……うーん。でもやっぱり嫌。だって私は自分の意思で貴方と一緒にいる道を選んだのだから」
クレスの前からいなくなるつもりなんてないけど、もしそんなことになるとしたら、きっと私がそうすべきだと思ったからだろう。だから、クレスもそれをわかってくれるに違いない。
まぁ、そもそもクレスはコンラートのように嫌がることなんてしないだろうけど。
「……そうだな。でもそうなることは考えたくもない。俺も一緒に行く」
何を想像したのか、悲しそうに眉を寄せてぎゅっと私を抱きしめるクレス。
「どこに行くのよ?」
「……わからないが、君がここからいなくなるなら俺もそっちに行くってことだ」
「居なくならないから、安心して」
「ん……」
こんなに寂しがり屋で甘え上手な主人を置いてなんて、どこへも行けないわ。
もう一度顔を上げれば、クレスは少し目を充血させていた。
想像して泣きそうになっていたの? やだ、可愛すぎる……!
胸がきゅんと疼いて、キスを強請るようにそっとまぶたを下ろす。
「……」
そうすればあまりにも簡単に彼のあたたかい唇が降ってきて、一気に私の頭の中はクレス一色になった。
甘い時間が流れる。
私は本当に幸せだ。
私を産んでくれた母にも、育ててくれた父にも、とても感謝している。
いつかクレスとも、そんな温かい家庭を築いていきたい。
クレスもちゃんとルビナをよしよしします。
次回で第二章ラストです。
18時過ぎに上げると思います!




