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68.コンラート筆頭魔導師

 クレスと、魔導師団に入団したいという話をした翌日、私はすぐに筆頭魔導師であるコンラート・ベーメンと面談の場が設けられた。


 クレスが私のことを話すと、「是非、すぐにでも」と返事があったらしい。

 そういうわけで、エーリッヒ様とリリアンの許可も得て、急遽この時間が取られたのだ。

 その場にはクレスも立ち会ってくれた。



「クレスから話を聞いていてね、是非魔導師団に入ってほしいと思っていたんだよ」


 筆頭魔導師のコンラート・ベーメン伯爵は、愛想の良い方だった。

 少し癖のある茶色の髪と瞳で、年齢は四十手前くらいだろうか。どうやら息子がおり、魔導師団に勤めているらしい。


「これからどうぞ、よろしくお願いします」

「うちは大歓迎だよ。治癒魔法が使えるなんて、尚更ね!」


 向かいに座っているベーメン伯爵は、随分と熱心な視線を私に向けていた。

 そんなに歓迎してくれるなら、もっと早く来れば良かったと思ってしまうほどだ。


 まぁ、そうすればマルギットと一緒に働くことになっていただろうから、もっと早く問題も起きていたのだろうけど。


「では、よろしくお願いします」

「ああ、クレス。君の婚約者は私が責任を持って預からせてもらうから、安心してくれ」


 私もクレスの言葉にもう一度頭を下げた。


「では早速、魔導師団の棟を案内しよう。いいかな、クレス」

「はい、俺は仕事に戻らないといけませんが、よろしくお願いします。ルビナ、大丈夫か?」

「ええ、私は大丈夫よ。ありがとうクレス」


 まるで保護者のように心配そうな瞳を向けるクレスに微笑んで、忙しいであろう彼を見送る。



「では行こうか、ルビナ」

「……はい」

「あ、失礼。ちゃんと挨拶をするのは今日が初めてなのに、君のことはクレスから聞いていたから、つい」

「いいえ、構いませんよ」

「ありがとう、私のことも気軽にコンラートと呼んでくれ」

「わかりました、コンラート様」

「うん、では行こうか」

「はい」


 コンラート様は、とても感じの良い人だ。突然名前を呼び捨てられたのは少し驚いたけど、きっと誰にでも気さくな方なのだろう。

 こういう人が現在の筆頭魔導師で良かった。


 コンラート様の笑顔に少し安心させられて、私は魔導師団の案内と説明を受けた。



「――君は……母親が魔力持ちだったんだよね?」

「はい。おそらくですけど。母は私が幼い頃に亡くなったので」


 一通り案内を受け、団員たちが休憩をするスペースで少し休むことにした私たち。


「そうか……幼い頃に。それはいつだい?」

「え?」

「君の母親が亡くなったのはいつなんだい?」

「ええっと……私が六歳の時なので、十二年前です」

「ああ、そうか……。そんなに若くして亡くなってしまったんだね」


 コンラート様はとても悲しそうに顔を歪めた。

 それは私に対する同情とは少し違うような気がした。なんだか本気で悲しんでいるのだ。いくら貴重な女の魔力持ちだったとはいえ、他人にそこまで情を寄せてくれるなんて、きっといい人なんだろうなぁと、改めて感じる。


「そうだ、確か母上からペンダントをもらったのだとか」

「はい」

「見せてもらってもいいかな?」

「どうぞ」


 言われて、私は首から下げていたペンダントを彼に手渡した。


「……そうか、これが。うん、クレスが言っていたとおり、このペンダントには君の力を制御する魔法が掛けられているね」


 コンラート様はペンダントをじっくりと見つめ、それを手のひらにぎゅっと握りしめた。


「……?」


 もっと深く、鑑定しようとしているのだろうか。

 まるで大切なもののように、胸の前でそれを握り締めて目を閉じるコンラート様。


 ……なんとなくだけど、この人は少し変わった人なのかもしれないと、一瞬感じた。


「……これを身に着けていると、普段は君の力が抑えられてしまう。危険が迫ると強い力が発揮されるようだが、それは君本来の力だ。これはなくても、訓練次第で自在にその力を扱えるようになるよ」

「そうなのですね」

「だが、これは母上の形見か。うん……では、少しの間私に預からせてもらえないだろうか? 付与されている魔法を解いたら、必ず君に返すから」


 そう言って、コンラート様は真っ直ぐに私を見つめた。

 大切なペンダントを人に預けるのは少し不安だけど、この方は筆頭魔導師様だし、いい人そう。

 それに、これからもペンダントを身に着けるためにはやはりその制御魔法は解除してもらった方が良いのかもしれない。


「わかりました。よろしくお願いします」

「ああ、私を信用してくれてありがとう、ルビナ」


 私を名前で呼んでにこりと笑みを浮かべるコンラート様の表情に、何か引っかかるものを感じた。


 なんだろう……この違和感は。


 この人は単にいい人なのだろうけど、それにしても私を見つめるその視線が随分と熱心なのだ。


 ちゃんと挨拶をしたのは今日が初めてであるのに、距離感というか、距離の詰め方が早くて少しついていけない。

 まるで私のことを昔から知っている、思い入れのある者でも見るかのような熱い視線なのだ。

 とても同じ笑顔を返せない。


 やっぱり私はコンラート様に会うのは初めてだと思うけど。


 ……まさか、私に惚れ…………いやいやいや、まさかね。

 自惚れすぎよ、ルビナ。


 彼には妻も子もいるし、私たちは歳だってこんなに離れている。それに、私はクレスの婚約者。


「……」


 ちらりと視線を向けると、ぱちりと目が合った。その途端、にこにこにこにこと人の良い笑顔を向けられて、反応に困ってしまう。


 いい人そうには見えるけど……実はやばい人なのかな。もしかして魔導師って変わった人が多い?


 なんて考えも一瞬浮かんだけど、もしかしたら母の昔の知り合いなのかもしれないという考えの方がしっくりきた。


 母と親しくて、もしかしたら産まれたばかりの私にも会ったことがあるのかもしれない。


 あの時の赤ちゃんがこんなに大きくなって……という親心のような視線だったと考えれば、納得がいく。


 うん。そうかも。今度折を見て聞いてみよう。


新キャラ出てきましたが第二章あと数話で終わります!

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[一言] ルビナのお母さんはコンラートさんの初恋の相手とか?
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