52.結婚相手
――披露宴も滞りなく進んでいた。
やがて私たちに挨拶の番が回ってきて、私はクレスのエスコートを受けながら玉座へと進んだ。
国王に、王妃。そして本日の主役であるエーリッヒ殿下とその妃となったリリアン様。
エーリッヒ殿下は金髪碧眼の見目麗しい王子様。リリアン妃も輝いたピンクベージュの髪を綺麗にまとめ上げており、髪の色より少しだけ濃い薄紅色の瞳を持つ、とても美しい女性だった。
クレスはまず国王と王妃に挨拶をすると、主役の二人に向けて挨拶と共に祝辞の言葉を述べた。
堂々たるクレスの隣で、私も緊張のために少し震えてしまっている体をなんとか気づかれないよう、呼吸を整えながら頭を下げた。
「ご紹介いたします。こちらは私の婚約者、ルビナ・アイマーン嬢です」
そして、クレスの紹介を受け、更に深く膝を折る。
「お初にお目にかかります。ルビナ・アイマーンと申します。本日は誠におめでとうございます。心よりお祝い申し上げます」
緊張で言葉がカクカクする。噛まないようにするので精一杯だった。
「ありがとう。クレス、ルビナ嬢。顔を上げてくれ」
殿下の許しを得て、ドキドキしながらも頭を持ち上げると、美男美女の完璧なカップルが優しく微笑みを向けてくれていた。
眩しい……、今日はもう、美形を見すぎて目が溶けそう……。
「ルビナ嬢とはゆっくり話がしたいと思っていてね。近いうちまた城へ招待してもいいかな? 今度は是非四人で話そうじゃないか」
「ありがとうございます。光栄でございます」
披露パーティーには他にもたくさんの貴族が二人のお祝いに駆けつけているから、私たちにばかり時間は割いていられない。だから短く言葉を交わすと、再び礼をして速やかにその場を引く。
最後にふとリリアン妃と目が合ったような気がするけど……気のせいかもしれない。彼女はすぐに顔を正面に戻していた。
「……緊張した?」
「ええ、とても」
挨拶という大仕事を終え、飲み物をもらってゆっくりと席に着く。
「立派だったぞ。とても堂々としていた」
「そうかしら……」
何を話したか覚えていない。まぁ、挨拶しかしていないけど。
「でも、本当にお似合いのお二人ね。エーリッヒ殿下も素敵だし、リリアン様もとてもお綺麗」
「そうだろう」
「でも……」
「どうかしたのか?」
今は少し離れたところから二人を眺めているけれど、先程から少し気になっていることがある。
「いえ、とてもお似合いの二人だけど……なんだか……」
先程から二人は一度も目を合わせていないように思う。二人の間には壁を感じる。
それが少し気になった。
「まぁ、政略結婚だからな」
「……」
私の違和感にはクレスも気づいているようだ。
というか、クレスはエーリッヒ殿下とも親しいし、リリアン妃とは幼なじみらしい。
だから事情を詳しく知っているのかもしれない。
そうか……好き同士ではないからなのね。
私とワルターだってそうだったように、貴族社会にはよくあることだし、それが王族ともなると結婚相手を選べないことなんて当たり前なのかもしれない。
でも、二人ともあんなに素敵なのだから、好きになってしまいそうな気もするけど……。
クレスに聞いた話によると、二人の婚約が決まったのは十年前だとか。リリアン妃は私と同い年の十八歳。エーリッヒ殿下は今年二十二歳で、二人ともまだ子供の頃に婚約が決まったらしい。
王族が相手ならよくあることだとしても、当人にとってはもちろんそれが初めてのことである。
恋というものを知らないうちから結婚相手が決まるって、どんな気分なのかしら。
……って、私だってワルターと婚約した時は恋というものをきちんと知っていたわけじゃないけど。
だから、私にとってはクレスが初恋の相手となるわけで、その相手と結婚できるのはとても幸福なこと。
うーん。だけど王族や高位貴族の結婚とはそういうものだから、別に気にすることじゃないのかなぁ……。
「……」
ここに着いたばかりの時より穏やかな表情で二人を見つめているクレスの顔を、私も盗み見る。
結果的に、私はクレスと婚約できて幸せだ。
クレスだって本当は好きではない相手と結婚するかもしれなかったのに、私のことを好きになってくれて、私にも魔力があったから結婚できる。
それって本当にありがたいことなのよね。
彼は私に魔力がないと思っていた時から、お父様を説得してでも私と結婚したいと言ってくれたけど、王族じゃそうはいかないのかもしれない。
傍から見たらとてもお似合いで、誰もが羨むような結婚に見えるんだけどなぁ。
王族であろうと、その妃になると決められて生きてきたとしても、皆それぞれ感情がある人間だ。人形でも道具でもない。
「……」
少し複雑な心境になりつつも、私は隣にいる素敵な婚約者をほうっと見つめながら、この人を大切にしようと胸に誓った。
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