42.クレスの事情9
無事両親にルビナを紹介し、俺たちはタウンハウスへと帰ってきた。
とても楽しく、満たされたプチ旅行であった。
同じベッドで寝るという経験もしたが、あれはなかなかのものだった。
結婚するまで手を出す気はないが、寒かったのか朝方に俺で暖を取るように彼女の方から擦り寄ってこられた時は、それはもう拷問に等しかった。よく耐え抜いたと、自分を褒めてやりたい。
「――そういうわけで、ルビナに魔力があったのは驚いたが、本当に良かったよ」
「ああ、良かったな。俺も嬉しいよ。とんだ茶番だったなんて思っていないぞ」
この国の第一王子、エーリッヒの執務室で休憩がてらソファーに座り、俺は今回の旅でのことを惚気け話と共に語っていた。
「……エーリッヒ、今日はただ素直に祝福してくれ」
「祝福しているさ。なぜそんな大事なことを最初に確認しなかったのだと、お前はもう何百回も自分を責めただろうからな」
「……」
エーリッヒはそう言いながら貼り付けたような笑みを見せた。
まぁ、確かにそうだ。
万が一のことがあるかもと、確認すればあんなに悩まずに済んだのだ。
しかしまさか、ルビナに魔力があるなどと思うはずがない。
彼女は貴族としてはあまり(いや、かなり)裕福ではない家庭で育ち、それなりに苦労をしていたのにその力を活かそうとはしていなかったし、父親も魔力持ちではなかった。
どうやら母親が魔力持ちだったらしいが、なぜか魔力を引き継いだ娘に、その力は隠しておけと言ったらしい。
娘に持たせたペンダントも、普段はルビナの魔力が抑えられるようにできていたしな。
王宮に来れば良い生活が保証されるというのに、一体なぜなのだろうか。
母親が亡くなったのはルビナの幼い頃であまり記憶が確かではないようだが……。
女性の魔力持ちは特に貴重なはずだが、母親も登城しなかったのだろうか。だが魔力持ちの女性はある意味自由がない。母親はそんな苦労を経験したのかもしれない。
多少貧しくても娘には自由に生きてほしかったのか……。
「お前のそういう、たまに抜けているところに彼女も惹かれたんだろう」
「さっきからなんだ。焼きもちか? 大丈夫、仕事はちゃんとやるさ。俺は殿下をお守りする騎士ですよ」
「……そういうのは求めてない」
かしこまって右手を左胸に当てて頭を下げて見せたが、エーリッヒからは冷めた言葉。
俺は今人生で一番の幸せにある。
友として、こんな時くらい喜んで話を聞いてくれても良いだろうと思ったが、今日のエーリッヒはどうも虫の居所が良くないらしい。
まぁいいさ……。俺は幸せだからな。
エーリッヒの嫌味もすべて祝福として受け取ろう。
しかし、こうして王宮にいる間はルビナに会えないのがやはり寂しい。
魔力があるなら、ルビナを王宮に仕えさせるという手もある。もちろん強制ではないが、待遇も良いから魔力持ちの者はほとんどが王宮に仕えているのだ。
特にこの二日間はずっと一緒だったからか、昨夜は一人で寝るのがやけに寂しく感じたのはルビナには内緒だ。
「それで、結婚はいつになりそうなんだ?」
ルビナに会いたくてそわそわしている俺に、エーリッヒはやれやれ、という感じで短く息を吐いて聞いてきた。
「今すぐにでもしたいところだが、準備も必要だからな。来年になるかもしれない」
「そうか。じゃあやはり俺の方が先だな」
「……そうだな。もう来月だったな」
静かに告げられた言葉に、俺は真面目な顔でエーリッヒを見つめた。
第一王子のエーリッヒには、予てからの婚約者がいる。
公爵家の娘で、家柄も見た目も申し分なく、悪い噂も聞かない令嬢だ。
そして、その令嬢は俺の幼なじみでもあるのだが、性格も保証できる。
二人とも成人したし、戦争も終わった。
エーリッヒが王太子の座を確実なものにするためにも、彼女――リリアンとの結婚は欠かせないものだ。
その結婚式がついに来月に迫っていた。
俺は、リリアンはエーリッヒの結婚相手にぴったりだと思っているのだが……。
「……是非、婚約者のルビナ嬢と一緒に参加してくれ」
「ああ、それはありがたいが、その日は俺にも大事な仕事が」
「だから、お前の隣に彼女の席も用意してやる。俺の結婚式くらい、友人として参加してほしい」
「……仰せのままに」
エーリッヒ付きの騎士として、結婚式当日、俺はほとんど彼に張り付く形になる予定だった。
だが、どうやら新郎新婦の近くに俺たち二人の席を用意してくれるらしい。
まったく、口では素っ気ないことを言いながら、優しい友人だ。
俺もしっかりと友人としての務めをまっとうしよう。
しかし、今日はやたらと俺に突っかかってきた理由がわかった。
本来であればお互いにとてもめでたいことだと酒でも飲みたいところだが、エーリッヒはその完璧な婚約者に恋心を抱いてはいない。
完全なる政略結婚。
俺がマルギットに感じていたような不満はないだろう。彼の婚約者に問題は一つもないのだから。
しかし、だからこそ婚約を取り消すことができないのだ。
別に他に想い人がいるわけでもないし、王子として生まれたからには仕方のないことであると彼も承知している。だから文句は口にしない。
それでも彼も人間であり、心がある一人の男だ。
また、相手の公爵令嬢も然り。
もしかしたら相手には想い人がいる可能性すらあるのだと、いつかエーリッヒはぽつりと呟いたことがある。
彼女は俺と幼なじみだが、そんな話は聞いたこともないしそんな相手もいないはずだぞと伝えたが、「お前は彼女の何を知っているんだ」と一蹴された。
まぁ……その通りなのだが。
俺以上に相手を選べないエーリッヒの心境を察し、やはり今晩は友人と酒を酌み交わすことにした。
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