39.クレスの事情7
「……なぜだ」
目を覚ましたら、同じベッドで、隣で、ルビナが寝ていた。
しばしその可愛らしい寝顔を眺めてから、ハッとして自分の身形を確認する。
服は乱れていない。彼女もちゃんと服を着ている。
「……大丈夫だよな、変なことしてないよな、俺……」
昨夜はルビナと楽しげに話す両親に俺の心は踊っていた。
認めてくれるだろうと確信はあったが、やはり実際に会い、こうして好きな人を気に入ってもらえたところを目の当たりにすると、とても安堵してしまう。
それでワインがいつもより進んだ。
「部屋は同じでいいな」とか言ってくる父に否定もできず、風呂上がりにも酒を飲みながらルビナを待っていたら、とても可愛らしくいつものドレスより無防備な部屋着で現れた隙だらけのルビナに、俺の胸は更に弾んだ。
少し、浮かれすぎていた――。
彼女を膝の上に座らせて、口づけて……それから――。
ベッドに運んだ。
だがその後の記憶はない。
もし、ことをいたしていたのなら、いくら酔っていても忘れるはずがない。
それは自信を持って言える。
それに俺は、酒を飲んで記憶をまったく失ってしまったことはない。少し気持ちがストレートになってしまうが、我を忘れるほど弱くはない。うん、決して。
「……大丈夫だ。きっと寝てしまったからその後の記憶がないのだろう……」
それはそれで格好がつかないなぁ、とため息を吐いて、もう少し彼女の可愛い寝顔を拝見させてもらうことにした。
*
「それじゃあクレス、また手紙を書くよ」
「ああ、俺も」
「ルビナちゃんのこと大切にね」
「もちろん」
「息子を頼みます」
「はい、こちらこそ」
朝食後少し休んでから、俺たちはタウンハウスへ戻るため馬車に乗り込んだ。
母上はあれやこれやと自分が若い頃に使っていた装飾品をルビナにプレゼントしていた。
最後、父に真剣な眼差しで「しっかりな」と言われて肩を叩かれ、俺は所帯を持つことに実感が湧いて気を引き締めた。
王都のタウンハウスまでは馬車だと一日では着かない。
だから今夜も途中の町で宿を取ったのだが……今夜は思い切って一部屋だけにしてみた。
それも、ツインではなく、ダブルの部屋を。
少し思い切り過ぎただろうか?
両親に紹介した途端がっついてくる、野蛮な男だと思われるだろうか……。
初日に言われた台詞も実は冗談で、「本気にするなんて、クレスったら下品だわ」と思われてしまうだろうか……。
と、部屋を取ってから一気に不安が押し寄せてきた。
やはり今からでももう一部屋取ろうか……。
「あら、今夜は一部屋にしたのね」
「……!!」
だけど、頭を抱えて悩む俺のところにひょっこりと現れてルビナはとても軽くそう言った。
「あ、や、その……嫌だったら、すぐにもう一部屋取ってくるぞ……!」
「ううん。その方が宿代も浮くし、いいと思うわ」
「……そうか?」
「ええ」
俺は昨日、そんなに紳士的だっただろうか?
ルビナのあまりに平然とした態度が、逆に俺を不安にさせる。
……いや、俺の記憶が正しければベッドに彼女を押し倒している。
であれば、どうせ今夜も寝落ちすると思われているのだろうか……。
どうせこの男は同じベッドで寝ても先に寝てしまうような失礼な奴だと、思われてしまったのだろうか……。
「……」
そう思うと、少し悲しい。いや、事実だし飲みすぎた俺が悪いのだが。
今夜は決してそんなことにならないようにしなければ。
そう決心しながらルビナと共に部屋へと向かう。
というか、別に俺は疚しい気持ちがあって一部屋にしたわけではない……!!
ただ一緒にいたいだけだ。
ルビナも同じ部屋でも嫌じゃないと言ってくれていたし。
それに、結婚するまでは手を出す気はない。
ああ、そうだ。騎士として、紳士として、そうしてみせようじゃないか。
「今夜も疲れただろう? 湯浴みをしておいで」
「ええ、行ってくるわ」
おほんっと咳払いをして気を取り直し、平静を装って彼女にそう声をかけたけど、ルビナの方は相変わらずまったく普通に見える。
……もう少しドキドキしてくれないだろうか。
俺は男として魅力的ではないか?
何気なく自分の腕を見ながら、思っているほどたくましくは見えないのかもしれないと、しょんぼりとため息を吐いた。
まぁ、それならそれで、おかしな空気にならなくて良いかと気持ちを切り替えて、俺も風呂に入りに行く。
ルビナよりも先に上がって部屋へ戻り、風魔法でさっさと髪を乾かし、酒は飲まずに彼女を待つことにした。
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