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28.あなたに酔ってしまった夜

「ルビナは、本当にいつもよくやってくれている」


 いつもより近い距離にいるクレスからは、言葉を発する度にほんのりとお酒の香りが漂ってくる。


「……」


 ダメ……頭がクラクラする……。

 だって私はクレスのことが嫌いじゃない。

 ううん。それどころか――。


「クレス、ちょっと近すぎるわ……」


 少し警戒心を込めて彼の胸を押し返そうとしてみるけど、厚い胸板はビクともしない。


「……」


 それどころか、そうされたのが不満であるかのように眉を顰めてその手を握られると身体の横に押さえつけるように離されてしまった。


「あ……っ」


 そのせいで、彼との距離がまた縮まる。

 首だけをできるだけ仰け反らせながらその顔から距離を取ろうと心がけるけど、彼は不満そうに私を見つめるばかり。


「ルビナ、俺は迷惑か?」

「酔ってるのよ、クレス。しっかりしてちょうだい」

「酔ってる……かもしれない、もう随分前から、君に」


 何を言い出すのかと思えば……。お酒のせいで赤くなった頬をして、クレスらしからぬ甘すぎる言葉。


 可愛いけど……! キュンとしちゃったけど……!


 一瞬にして私の身体は熱を帯びた。

 だけど、これは明らかにいつものクレスとは違う。


「……クレス」


 ふっと口元に小さく笑みを浮かべたクレスの表情はいつになく艶っぽい。

 ボタンが外され、シャツの胸元からは綺麗な鎖骨と胸筋が少し覗いて見える。


 もう、なんなのよ!!


 男のくせに、非常に色気を醸し出しているのだ。

 これでは私の方が耐えられなくなってしまいそう。


「何を言ってるのよ、クレスったら……」


 でも、そんな冗談が言えるならまだ大丈夫よね?


 そう思ったのに、ふと彼の手が私の頬に添えられて、ビクリと肩が跳ねた。


「……っ」


 彼の手が私の頬に触れるのは二回目だけど、前回の怪我を確認するためのものとは違う。


 充血した瞳は熱を持っていて、何かを訴えるようにじっと私を見つめてくる。


 それに、その距離がとても近いのだ。先程からまた少し近付いている気もする。


 もう、距離感が麻痺してしまっている。


 私には経験がないけど、それでもわかる。これはまるで、キスする寸前の恋人たちのような距離だ――。


「……ルビナ」


 甘く名前を囁かれ、身体を何かが突き抜けた。


「……っ、そうだ、お酒を飲むならナッツがあったはずだわ!」


 ゆっくりとクレスの顔がこちらに傾いて鼻と鼻が掠めそうになった瞬間、私の体は逃げるように素早く立ち上がり、キッチンへ向かって移動していた。


「あったあった! これ、良かったらおつまみにどうぞ。私はもう寝るから、あまり深酒しちゃダメよ?」

「…………ああ」

「それじゃ、おやすみなさい!」


 わざと明るく言って、この部屋の変な空気をかき消して、バタバタと音を立てて部屋を出る。



 …………。


 びっっっくりした。


 何? 今の。


 クレス、私にキスしようとしたの?


 まさか――。



 バクバクと、壊れてしまいそうなほど心臓が大きく脈打っている。


 思わず逃げてしまったけど、クレスも男だ。もしかしたら何かが溜まっていたのかもしれない。


 彼はいい男なのに、夜は毎日帰ってくる。外泊をしない。


 まだ正式な婚約者がいないのなら、そういう火遊びのひとつやふたつ、あってもおかしくないだろうに。


 ……そういうことなら、私が受け止めてあげるべきだった?


 いやいやいや、ダメよ。私の仕事にそういうことは含まれていないわ! それならしっかり特別手当をもらわないとね!


「……」


 なんて自分自身にも冗談を言ってみたけど、本当は違う。


 そんなことをしたら、私は彼にはまって抜け出せなくなってしまいそうなのだ。


「……もう、手遅れかも」


 よく逃げ出してきたな、私。


 廊下を出て少し歩いたところにある自分の部屋の扉を開け、そのままの足で寝室へ向かう。


「…………」


 寝室にある、鍵のかかった扉。

 そこを開けたら、クレスの寝室へ繋がっている。


 もし今ここを開けたら、私たちはどうなる?

 もう昨日までの関係ではいられなくなってしまうのかしら――。


 ドキドキと高鳴る鼓動を押さえながら、そっと扉に寄り添った。


 彼の温もりはここにはないのに。


 それに、彼はいずれ別の人と結婚する。

 それは承知している。

 叶わない相手に、恋なんてしたくない。


 きっとメリは私が傷つかないように、早めにそのことを教えてくれたんだと思う。


「……うん、大丈夫! クレスはきっと疲れていたのね!! それに酔っていたみたいだし」


 男の人なのだから、ああいう気の迷いはよくあるのかもしれない。

 その時たまたま私が近くにいただけよね。

 それをいちいち真に受けて考え込んでいてはダメ。

 さらりと受け流してあげるのが、良い従者というものよ!!


 それに、あまりに簡単にすり抜けることができた。本気になれば私なんて容易く押さえつけることも、もっと強引に口説き落とすこともできたはずなのに。

 クレスは無理矢理何かをする気はないということだ。


 変なことは考えないようにして、私は明日も寝坊せずにクレスを起こすため、さっさと寝る支度を整えてベッドに潜り込んだ。


おかげさまで日間総合8位まできました!わーい!嬉しいので更新頑張ってます!!

ブクマ、評価、誤字報告ありがとうございます!


引き続きお楽しみいただけましたらブックマークや★★★★★にて応援よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] この状況はとてもモヤモヤしてしまいますね。 『早く主人公の魔法の存在に気付いて!』ってなってしまいます…
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